16 勇者、暇を持て余す(衛兵目線)
「あ~退屈だな~、毒殺か暗殺か襲撃かどれかくらいこないかな~」
扉の反対側に立っている勇者様がボソッと呟く声が聞こえてゾッとした
勇者様が言ったことって大抵は本当に起こるからシャレにならないんだよ
まあ大半は勇者様が起こす騒動だとしても、だけどな
なにせ勇者様の沸点は低い
とにかく低すぎる
あまりの低さにドン引きするくらいだ
先日、第一王子が
「そういえば毒殺されそうになった時のあの毒見役は元気だろうか」
などとおっしゃった時は酷かった
「なにそれ?」
ソファーに寝転がっていた勇者様 ~護衛に飽きて第一王子の執務室にある応接セットのソファーに寝ていたんだ~ が起き上がって飛びついてきた
そして過去にあった毒殺未遂 ~毒見役が死んだり、麻痺が残ったりしたけど第一王子が無事なので未遂~ を根掘り葉掘り聞き出した
そして
「許さん!」
と言って第二王子の所に乗り込むために扉に向かった
もちろん全員で止めた
なにせ証拠がないのだ
行ったとしても
「証拠もないのに言い掛かりをつけてくるな」
と追い返されるのがオチ
いや逆に冤罪をふっかけたといちゃもんをつけられることだろう
長い説得の後
「そうか異世界では証拠がすべてなのか(うんうん)」
と納得した時に気が付くべきだった
一番ヤバい人間に一番ヤバいやり返す正当な理由を与えたことに、である
その後は酷かった
第二王子の派閥の貴族の息子が襲撃されたのだ
そう息子である
毒殺に関わったかもしれないと思われる貴族ではない
その身内である跡取り息子に、である
・・・普通は実行犯というか指示した当主だろうと言いたい
ところが勇者様は
「こういうのは本人よりも身内を狙った方がダメージ大きいんだよ、じゃなくて勇者じゃないよ」
と言っていた
告白するのか、誤魔化すのかどっちなんだと聞いていて思ったね
前半の部分を聞いて判ったことがある
どうやら異世界では報復が日常茶飯事らしい
いかにして相手を苦しめるかを日夜研究しているそうだ
そんなことを専門にしている趣味の集団もいるらしい
そしてそれが本にもなっているそうだ
・・・異世界って怖いな
まあ隠しているのか、いないのか判らない態度だったけどでやりすぎたことがもろバレだった勇者様は第一王子から自粛を求められた
早い話、第一王子の執務室の前での立哨を命じられた訳である
もっとも開始からわずが10分で飽きた勇者様が襲撃を望まれた
立哨は事が起こらないための威嚇のために存在するにも関わらず、である
何もしないよね?
いやしないでください
実は第二王子の派閥の貴族にちょっかいを掛けた後で襲撃犯がこちらに向かっているなんてことはないよね?
心の中でお願いした
今日も無事に勤め上げて、家に帰って妻と娘と楽しく夕飯を食べたいのだ
ささやかな幸せを望むんだが大丈夫だろうか
大丈夫だよね?
だれか確約して欲しい
いや真面目な話




