14 片腕がない貴族の朝の風景
<ヘロン>
剣を真上から振り下ろすのだが途中から剣の軌道が曲がってしまった
「これが今の実力か・・・」
思わず絶望が口をついてしまった
これからの長い人生
どうすればいいのか
死ぬまでの長さを思うだけでその膨大さに絶望してしまった
いえねある日、起きてみると利き腕がなかったんだよ
起きてベッドから出ようとしたらなぜだか布団に倒れ込んでしまったのだ
「あれ」
そう思った時はまだ自分の身に何が起こったのか判らなかった
わかったのは何度か起きようとして起きられなかったという事実が確定した後だった
おれの利き腕、ないじゃん
愕然としたね
失くした腕を探すとベッドの上にあった
血が出ない状態で置かれていた
いや放置されていた、だな
誰かがオレの腕を切り落としてそのままにした
そういうことだ
でも判らないことがある
腕を切り落とされたというのに痛みがないのだ
切り落とされたのならその時に痛みがあったはずだ
寝ていても痛みで起きることだろう
それなのに痛みがなく朝までぐっすり寝ていた
まったく何が起こったのか判らん
まあ判るのは剣が振れないことだな
もっとも父の後を継いで領主として働くつもりだったのだ
反対側の手でも文字はかけるだろう
だから問題はあまりない(はず)
・・・まあ反対側の手で文字が書けるまでに時間がかかるだろうがな
そう思っていた時もあった
でも社交界に出て自分の間違いに気が付いた
腕がない〇〇〇者
そう言って友人達が引いて行った
もちろん婚約者も、である
「腕がない人とは一緒にやっていけませんわ」
軽蔑の目で見られながら婚約を破棄された
「危険な目に遭ってもわたくしを守れないでしょ?」
そうとも言われた
あまりにも悔しくて屋敷の裏庭で剣を振ってみた
でも振れなかった
利き腕でないというのがこれほどまでなのか
思わず絶望した




