12 とある貴族の朝の風景
「若君、おはようございます」
起こしに来たメイドからの呼びかけで朝が来たことがわかった
「・・・おはよう」
朝から最悪な気分だがメイドには返事を返す
メイドに当たっても仕方がないからだ
それはそれ、これはこれ、である
とはいえ不機嫌なのには変わりがない
むすっとした顔で着替えを手伝わせる
メイドが私の周りを一回りして服装に乱れがないのを確認する
「大丈夫です」
メイドからの言葉にようやく着替えが終わったかと一安心、いやため息がでた
朝起きて寝巻から朝食用の貴族服に着替えをするだけでも一苦労なのだ
一仕事終えたおかげでもう疲れ果ててしまっていた
<ギイッ>
メイドが扉を開ける音がした
「食堂にご案内します」
とのメイドの言葉で短いながらも長い旅が始まる
食堂への旅だ
・・・貴族の館というのは無駄に広いことを最近実感するようになったからな
「若君、階段はあぶのうございます」
そう言ってメイドが私の手をとって階段を下りるのをサポートする
もう子供ではないのだが
そうは思うが実際に危ないのだから仕方がない
見栄をはってもどうしようもないからな
大人しくエスコートされた
・・・誰かが見たら男女逆だろうと思う事だろうな
そう思うと嗤えてきた
食堂までの短いながらも意外と長い道のりを踏破するとようやく食堂、の扉の前だ
メイドが立ち止まったのでエスコートされている私も止まる
<ギイッ>
メイドが扉を開ける音がする
そしてメイドが傍に立つ気配がして私の手を取る
「こちらです」
との声とともに手を引かれ食堂の自分の席に行く
椅子に座ると
「みんな揃ったようだな」
との父の声で朝食が始まった
執事達がベーコンエッグやサラダを給仕する音が聞こえる
私の前にはパンにベーコンエッグや野菜を挟んだサンドイッチが置かれているはずだ
なぜ『はずだ?』なのか?
目が見えないからだ
朝起きると目が見えなくなっていた
メイドが言うには目の所に横に剣で出来た傷があるそうだ
痛みがないので実感できないが酷い傷らしい
どうやら当主である父が第一王子を毒殺しようとして毒見役が死ぬだけという失敗をしたらしい
そしてその報復で勇者が仕返しにきたらしい
なぜらしい、なのか?
誰も暗殺をしたなんて認めてないし、報復をしたなんてことも認めていないからだ
すべては貴族の間で流れる噂だった
だから目が見えなくなっても文句を言う相手も居ないし、いう事もできない
ただ目が見えなくなるという貧乏くじを引いた貴族がいるというだけのこと
くそっ!




