9話 <委員長こと初瀬綾音の視点1>
それは私にとって最悪の出来事だった。
いきなり光に包まれ、気がつくと知らない部屋に見知らぬ人達。
まるでファンタジー小説のような展開。
私は、パニックになって号泣している親友の留美に寄り添っていた。
「留美、大丈夫だから落ち着いて!みんなもいるし、全員で居れば怖くないから」
こんな状況で何が大丈夫なのか?
そう突っ込まれたら何も言い返せないだろう。
自分でも言っててバカらしい。
でもそう言わないと留美だけじゃなくて私自身もどうにかなりそうだった。
うちの男子が誰かと話しをしているようだ。
現地の人だと思う。
でも今は、留美を慰めるのと自分を落ち着けるのに精一杯でろくに注意を払えなかった。
留美は泣きながらも、男子と現地の人の会話を聞いていたようで、次第に泣き止み、落ち着きを取り戻しつつ、熱心に話を聞いていた。
つられて私も会話している方を見ると、やはり六条君だった。
クラスの女子からは人気があり、男子からの信頼も厚い、私なんかより余程リーダーっぽい男子だ。
その六条君が、王女様や龍王様っていう人達と交渉をしている。
どうやら、私達に魔王を倒して欲しいらしい。
異世界人の私たちはそれが出来る力を秘めているようだ。
話を聞く限り、魔王討伐の話は承諾するしかなさそうだが、他のみんなはどう思ってるのだろうか?
承諾か?拒否か?
いずれにしても話し合わないと結論は出せない。
すると、六条君が一人で勝手に魔王討伐を承諾してしまった。
え?待って!そんな大事な事、例え結論が分かりきっていると言っても、一人だけで決めて良い話じゃない!
私は待ったをかけたが、逆に六条君に呆れられてしまった。
他のクラスメイトからもブーイングを浴びた。
でも間違った事は言ってない筈だ。
文句を言っている人達は、私が六条君の独断専行を咎めたのが気に入らない様だ。
私を庇ってくれた人もいた。
海月君だ。
彼はクラスの一部からイジメを受けている節がある。
私も何度か止めるよう注意した事があった。
彼がいない所での悪口もたまに耳にする。
『嘘つき』『ストーカー』が、彼が日頃言われているワードだ。
本当に『嘘つき』なのかは知らないけれど、『ストーカー』に関しては、どうやら真実みたいだ。
何故なら被害者の片山さんが直接、海月君を責めている所を目撃したからだ。
その後暫くして、担任の野田先生が終結宣言を出した事もあって騒ぎは収まったが、彼への疑惑は消えていない。
片山さんにその後どうなったか聞く子も居たけれど、彼女は答えなかった。
ストーカー被害なんてデリケートな話だし、思い出したく無いのだと思う。
私は彼女が居ない所で、クラスのみんなに『その話に触れないように』とお願いした。
それからは興味本位で片山さんに根掘り葉掘り聞く人は居なくなったけれど、海月君へは露骨に敵意を向ける人が増えた。
ハッキリ言って私もその一人だ。
流石に表には出さないけれど、卑劣な事をした彼を私は許せなかった。
そんな海月君が私を庇ってくれたのは意外だった。
どういうつもりだったのか分からないけれど、彼にみんなの矛先が向いた事で、その後、私への批判は落ち着き、スムーズに話し合いを進める事が出来た。
私はみんなの意見を聞き、最後は多数決で話を纏めた。
と言っても、六条君と同じ結論だったけれど。
私達は魔王討伐を受け入れる事になった。
その後、私達は王女様の祈りで勇者の称号を授かった。
称号にも階級があるらしく、私は一番上の階級であるSだった。
他にもSは何人か居て、Aも多いらしい。
王女様によると、今回の召喚はかつて無い大当たりだったらしい。
殆どの人が王女様へ称号を発表し終えた。
最後に六条君の番になると、場内の雰囲気が変わった。
どうやらSよりも上のSSだったらしい。
みんなには決して届かない特別な立ち位置。
SS勇者はまさに彼にピッタリな称号だと思った。
これで終わり・・・あれ?そういえばまだ一人いた。
海月君。
さっき私を庇ってくれた人、そして嫌いな人。
改めて彼について語ると、彼は色々な意味で目立つ存在だ。
『ウソ月語り』
これは彼の名前『海月加架梨』をもじったあだ名だ。
小さい頃、何か大きな嘘をついたそうで、その時に付けられたあだ名を未だに引きずっているらしい。
そしてさっきも触れたストーカー事件。
片山クリスティーナさん。
日本とイギリスのハーフで、金髪スレンダー体型のとんでもない美人さんだ。
海月君が彼女をストーキングしていた事件。
これは同じ女性として本当に許せない。
騒動の後しばらくの間、海月君は学校を休んだ。
噂では、『片クリ親衛隊』と呼ばれている片山さんのファンクラブメンバーから手酷い制裁を受けたらしいけれど真実は分からない。
そんな海月君、やはり彼の事は嫌いだけれど、同じクラスメイトなのでほって置くわけにはいかない。
私は、海月君がまだ残っていると待ったをかけた。
意外にも海月君は少しだけ迷惑そうな顔を向けてきた。
しかしその理由はすぐに分かった。
『SSS』
海月君の称号はあの六条君を遥かに超えていたのだ。
その途端、六条君が豹変した。
酷い理屈で難癖をつけ、龍王様に、海月君の称号を全て剥奪させようとしたのだ。
私も海月君が嫌いとはいえ、それは違うだろうと反論したが、六条君得意の論破にねじ伏せられてしまった。
私が海月君の女に?あり得ない。
でも、ストーカーの彼が絶対的な力を持てば、強引にそういう事をするかもしれない。
私だけじゃ無い、他の女子達、特にストーカー被害者の片山さんは真っ先に狙われるだろう。
その事が頭をよぎると、何も反論出来なくなってしまった。
驚いたのは、海月君を庇うため、ストーカー被害者だった筈の片山さんが立ち上がった事だ。
そして彼女は驚愕の暴露をした。
実はストーカー犯は海月君じゃなく山本君だったのだ。
え?じゃあ海月君は無実?私含めクラスのみんなから軽蔑され、虐められて来たのは間違いだった?
その時、私の中で正義という前提が崩れた気がした。
私は委員長として、正しくありたいと思って来たし、クラスメイトも贔屓なく平等に接しているつもりだった。
けれど、私は今まで単なる噂を鵜呑みにして海月君に不当な軽蔑の気持ちを向けていたという事になる。
さっきも、六条君の脅しに近い説得に屈し、海月君を疑い、見放してしまったばかりだ。
私は悔しさと後悔で歯噛みした。
しかし私の思いとは裏腹にどうしても海月君を犯人にしたい六条君は新たなストーカー容疑者である山本君を巻き込んで猛烈な論破のラッシュを放ってきた。
結局、片山さんも、最後に反論した海月君自身も六条君の無理矢理すぎる理屈にねじ伏せられ、多数決の結果、海月君はストーカーの確定犯としてSSS勇者の称号剥奪が決まってしまった。
六条君から
「さっきお前も使ったよな、多数決。まさか否定はしないよな?」
と言われて反論出来なかった。
まさかこんな悪意の塊みたいな出来レースの多数決が存在するとは、今まで平和な世界で暮らしてきた私には想像すらできなかった。
私が六条君の独断専行に待ったをかけ、みんなからのブーイングを受けてまで貫いた『多数決』という選択を逆手に取られ、みすみす海月君の称号剥奪を後押しする事になってしまった。
私は自分自身が許せなかった。
何より海月君に対して、本当に申し訳ない思いで一杯になった。




