8話 訓練が始まったぞオイ!
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翌朝
結局、一睡も出来なかった。
慣れない場所どころか石畳のゴツゴツじゃ寝れねえよ!
昨日の男が、朝飯を持ってきた。
手を付けずに残されたパン虫を見て1つ溜息を漏らした。
「昨日の飯、食ってねえのか?」
「腹減ってない」
「じゃあコイツも食わねえか?」
今度は昨夜みたいに乱暴に投げ入れるのでは無く、檻の中に手を入れてそっと優しく朝食を置いた。
・・・・・けどパン虫じゃん
「・・・中に焼きそばが入ってたら食うよ」
「やきそ?・・・まあ食わねえなら出ろ。朝の訓練だとよ。死なねえようにな」
訓練初日で死ぬってどれだけ物騒だよ?
そう言えば昨日、コイツが言ってたよな、他の勇者の倍キツい訓練になるって・・・何でだよ!
もう勇者の称号も無いし、ハッキリ言って俺が訓練しても意味無いじゃん!
まあ昨日想像出来る限りの悲惨な目にあったしな、もう何が起こっても驚かないよ。
男に連れられて外に出る。
どうやら地下牢だったらしく、登り階段が続いた。
外は快晴。いかにも訓練日和だった。
見ると、遠くにクラスメイトのみんながいた。
向こうの何人かも俺に気づいたようだ。
はぁ、気が重い。
昨日の出来事の後でどんな顔でみんなに会えばいいのか?
俺は重い気持ちを引きずってみんなの所へ行こうとする。
「貴様はあっちじゃない。一人で特別訓練だ」
声の方を見ると、痩せ顔に目に深いくまがある不健康そうな男が立っていた。
その目は釣り上がっていて異様にギラギラしていた。
ハッキリ言って不気味だ。
コイツが訓練官?
確かに殺されてもおかしく無い気がして来たよ。
訓練官はそのギラギラした目で俺を見ながら、ニヤリと口を歪めると、口上を垂れ始めた。
「貴様はもう勇者の称号持ちではない。言わばゴミだ。しかし、そんなゴミでも勇者と同じ異世界人である事は変わりない。なので彼らと同じく貴様を訓練する。と言っても、只の訓練じゃあ無い。『いいんちょ』っていう目の覚めるような美少女勇者の要望でな。貴様には他の勇者達の何倍もキツい訓練を受けて貰う。でないと勇者様方に追いつけないからな。貴様、よっぽど嫌われてるみたいだな、嬉しいぜ」
『いいんちょ』って委員長?
俺に何の恨みがあるんだよ!
お前の事好きだったのがいけなかったのか?
けど俺の気持ちは委員長は知らない筈だし、只の嫌がらせか?
それとも、俺がハブられないようにみんなに負けない力を付けさせようと思ったのか?
勘弁してほしい。
俺の称号って『破損』だぞ。
ぶっ壊れてるって意味、分かる?
もういくら訓練しようとお前らに追いつける気なんてしない。
てかそんな気力も無いよ。
「SSSの力をくれてやったんだから、せめて功労者として穏やかに過ごさせて欲しいんだけど」
「知るか。俺の役目は貴様に拷問レベルの訓練を施す事だ」
「拷問ってオイ!」
「例えだ。そのくらい激しく行くって事だ。本当に拷問なんてする訳ないだろ?」
・・・・・なんて言ってたのに拷問された。
謎の薬を投与され、心臓が飛び出すくらいの心拍。
次第に心臓が痛くなってくる。
その後、薬の副作用で全身が切り刻まれるような激痛が走りのたうち回った。
剣の稽古と称して、本物の剣で体中、薄く切り刻まれた。
そして命に別状ない箇所はグサっと刺し貫かれた。
魔法の訓練と称して体内に暴走した魔力を流し込まれた。
体内に行き場を失った暴走魔力は皮膚を突き破り、体が小さな爆発を起こした。
全身の皮膚が裂け、命こそ別状無かったが全身血塗れになった。
防御力の訓練は、単純に殴る蹴るの暴行だった。
罠察知の訓練では、自ら罠に飛び込まされた。
「罠の危険性を身を以て知れ!」
って事らしい。
水の罠では窒息し、針の罠では串刺しにされ、玉の罠では巨大な玉に押しつぶされた。
大怪我する度に回復の秘薬をかけられ、満身創痍だが死ぬ事だけは無かった。
訓練が終わりボロボロになった俺は、どれだけステータスが上がったのかを
ウインドウを開いてチェックしたところ、訓練前の数値から全く変化がなかった。
意味無かったじゃん!
結局、ただ拷問を受けたって事実だけが残ることになった。
訓練後、俺は牢獄には連れて行かれず訓練教官によって城内の一室に通された。
室内には、王女様がいた。
訓練教官が跪く。
俺も習おうとすると、
「そのままでかまいません。海月様、訓練初日、お疲れ様でした」
しれっと労ってきた。
あれが訓練だと?この人もしかして俺が何されたか知らないのか?
「あれは、訓練なんかじゃ無い。拷問です・・・あんな事はやめてさせて下さい」
「あら、初日でもう根をあげましたの?根性がありませんわね。確かに勇者様方への訓練メニューよりも多少ハードとは聞いておりますので拷問に思えるくらいキツイく感じたのかもしれませんが、それでも根を上げるのが早すぎませんか?それに、これは初瀬様がご提案された事ですのでやめるわけには参りません。」
「初瀬・・・委員長ですか?」
「はい。私は、勇者で無くなったあなたには魔王討伐の任から外れて頂いて一市民としてこの世界で生きるのが望ましいと思いました。とはいえ他の皆様の犠牲になられたのですから、魔王討伐の際には当然皆様と一緒に元の世界へ帰る事は出来ます。そう提案したのですが聞き入れて頂けず、そんな楽は許されない、勇者の成長について行く為にむしろよりハードな訓練を施すべきだ。という結論になってしまったのです」
やっぱりか。訓練官が言ってた事と同じだ。
けど、委員長の考えを疑うよ。
勇者の称号が無いのに魔王討伐なんてついて行ける訳がない。
こんな事なら王女様の言う通り、解放されて一市民として生きて行くのが良い様な気がする。
「俺のステータス、称号が『破損』って表示されてるんです。壊れてるんですよ。そんな状態で魔王討伐なんて無理です。王女様、一市民にと思っていらっしゃったのなら、お願いします。そうして下さい!」
俺は頭を下げた。
深々と。
そこには屈辱も無ければ悔しさも無かった。
ただただこの地獄から逃れたい一心だった。
王女様がニヤリと笑った。
美しい顔がその一瞬なぜか悪魔に見えたが気のせいだろう。
「分かりました。勇者の任を解き、一市民として生きて行くことを認めます。ただし、勇者様方にあなたの意思を見せ納得させる必要がありますので、一筆したためて頂きます」
俺は渡された羊皮紙に、王女様に指示された通りの言葉を書き込んだ。
不思議な事に、日本語で書いている筈なのに書いたそばから現地の文字に変化していく。
だがそんな事に感心している余裕は無かった。
『私、海月加架梨は、勇者育成訓練に耐えられず、自らの意思で勇者の立場から逃げ出します。そして今後はこの国で一市民として生きていきます。この決断に関する一切の責任は私自身にあります』
このような文言を書かされ、最後に言われるがまま血判を押した。
血判を押した瞬間、羊皮紙が光を帯び出した。
光は数秒後には消えた。
光が消えた瞬間、王女様がニヤーっと笑みを深めた。
さっきよりも更に悪魔度が増したような・・・俺は今回はハッキリと彼女の悪意を認識すると、背筋に悪寒が走った。
「これでこの書面が本人の物であるという証明の光が宿りました。つまり、魔王討伐の契約は破棄されました・・・はぁ〜、これで肩の荷が下りましたわ・・・お前はもう必要ありませんね。約束通り、一市民として死ぬまで鉱山送りにして差し上げます」
『お前』って、いきなり豹変したな。それより、契約破棄?死ぬまで鉱山送り?そんな事聞いて無いぞ!
どうやらハメられたみたいだ。
「待ってください!契約破棄?鉱山送り?一体どういう事ですか?!」
「魔王討伐の為に勇者召喚したのですよ?そこから外れるなら契約破棄は当然でしょう。皆様と一緒に元の世界に帰れるというのは嘘です。ごめんなさいね。それと、一市民としてお前を自由にすれば、国民達にすぐ『落勇者』だとバレてしまいます。勇者召喚して早々に落勇者が出るなんて、王女としてその様な無様は晒せません。ですので人知れず鉱山へ送り込みます。そこで国の為に働き、人知れず死んで下さい」
「騙したって事か?!」
「多少嘘はつきましたが、そもそもお前から勇者を辞めたいと頼んで来たのでしょう?」
「そう言うように仕向けたんだろうが!」
「なんと言おうと、お前が書いた署名は覆りません。この手紙を見せてお前は一市民として城から旅立ったと言えば勇者様方も納得するでしょう。
実はですね、勇者様方の間でお前の処遇を巡って不協和音が出始めています。
お前が目の前から消えれば不和の種は芽吹く事なく、全員が魔王討伐へ向けて一致団結できるでしょう。なのでお前が人知れず消える事は必要事項なのです」
「そんな、お前らがこっちの世界に呼んでおいて、そんな身勝手な理由で俺を殺すのか!!」
「お前とはもう話す事はありません」
そう言うと俺には目もくれず部屋を出ようと席を立った。
「待てよおい!答えろ!!」
「無礼者が!!」
どかっ!!
「うぐ!ゲホゲホ!!」
訓練教官に殴り倒され悶絶する俺の脇を抜けて王女は去っていった。
そして俺は鉱山へ送られた。




