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7話 俺の反撃は通じるのかよ?オイ!

「海月君、どうして本当の事を言わないの?否定してよ!」


片山が悲痛な声だ俺に訴えかけてきた。


俺はさっきからこのやり取りをずっと黙って聞いていた。


反論もせずに。


いや、本当は言葉が出てこなかったのだ。


六条の話したシナリオ、そのあまりの悪辣さにショックで頭が真っ白になっていた。


当然、全てデタラメだ。

俺は片山にストーカー疑惑を向けられ、その疑いを晴らすため、自分で真犯人が山本だと突き止めたのだ。

当然、山本の弱味なんて知らない。


けれど、今更俺が何を言っても無駄だろう。

その事が俺を諦めの気持ちに追いやっていた。


そもそも俺の言葉なんて始めから誰も信じちゃいないし、委員長の擁護も論破され、片山の証言も覆された以上、もはや俺に残された選択肢はこのまま流れに身を任せるか、あるいは逃げる位しかない。


逃げるのは無理そうだけど。


第一、何で片山は俺を庇ったんだ?

ストーカー疑惑の時は、アイツから本当に容赦の無い言葉を沢山浴びせかけられた。その心の傷はまだ時々痛むくらいだ。


それに、疑いが晴れた後、アイツが親友と二人で謝りに来た時も、親友の放った『片クリが折角、あんたなんかに謝ってあげてるんだから許してあげなさいよ!どうせあんたも片クリの事好きなんでしょ?お近づきになれて逆にラッキーじゃない!』って言葉に俺がブチギレて謝罪なんて全く心に響かなかったんだよな。


だからどうせ片山も俺の事嫌ってるんだろ?って思ってたからな。


俺はその疑問を片山へぶつけた。


「否定してもどうせ無駄だろ?それにさ、お前も俺の事を嫌ってたんじゃないのか?」


「嫌ってなんかないよ!疑った事は本当にごめんなさい!そのせいでこんな事になって・・・でも海月君、諦めないで!」


不思議なものだ。

俺は片山に嫌われてるものだとばかり思ってたんだけどな。


罪悪感から来ているとはいえ、片山は一人で六条に立ち向かってくれたんだよな。


俺も少しは足掻かないと情けないよな。


「・・・六条、今の話には矛盾がある」


俺は気持ちを振り絞ってそう言った。


「ほう、なんだ?言ってみろ」


「今の話だと、野田先生に口止めさせるって事は、俺のストーカー疑惑自体は全く晴れないんだよ。片山からの疑いは晴れるけどそれだけだ。現に俺は今までクラスのみんなからストーカーだと思われて来た。俺が陰謀を巡らせるのなら、片山だけじゃ無くてクラス全員の疑いを晴らす方向に持って行くのが筋だろ?だから六条の話は俺からすれば自分に何の得も無い、全く筋の通らない話でしか無いんだ」


「その通りよ!六条君の話だと、肝心の海月君自身に何のメリットも無いのよ!話の論理自体が成立してないわ!」


片山が援護してくれた。


しかし、俺の渾身の反論も六条には何のダメージも通ってはいなかった。


「何言ってんだ片山?今、お前が海月を必死に庇ってる、それがまさにコイツの狙いなんじゃないか」


「え?」


「分からないか?海月はみんなの疑いを晴らすつもりなんてハナから無かったんだよ。ただ一人、片山、お前の疑いが晴れさえすればそれで良かったんだ。だってコイツ、お前のストーカーだぜ?」


「そんな・・・」


「疑いが晴れればまた何食わぬ顔でお前をストーキングできるだろ?」


「・・・・・」


ついに、片山は沈黙した。


六条は何事も無かった顔で話を進める。


「じゃあそろそろ平等に多数決を取ろうか。さっき委員長も使った方法だ。まさかダメとは言わないよな?」


「・・・・・」


委員長も沈黙。


そして話は阻む者も無く進んで行った。


この流れで俺の敵だらけの奴等が多数決なんて、結果はやらなくても明白だ。


俺は詰んだ。


多数決の結果、圧倒的多数で俺の力をを全て龍王に渡す事に決まった。


大部分のクラスメイトは喜んでいた。

これでみんなは力を削られなくて済む。


龍王も納得した様だ。


「ま、お前らが良いなら俺に異存は無いぜ。むしろSSSの力を丸々貰えるなんざラッキーどころじゃないしな」


王女様はまだ反論しようとしたが、


「SSの俺が、他のSやA、それ以外のみんなを率いれば魔王を倒すのに何の支障もないだろう」


という六条の言葉と、クラスメイトの大部分がそれに同意している様子を見て、最後には了承した。


「フアナが良いならこれで決定だな。じゃあ、早速いただくとするか!」


龍王のギラついた目が俺を見据え、俺は思わず後ずさった。


「ジュルリ!」


龍王の舌舐めずりが聞こえてきた。

見た目は人間だが正体は巨大な龍だ。

その舌は人間の倍以上に長く、先っぽが二股になっていた。


俺は本能的に恐怖を感じた。

これは・・・死の恐怖だろう。

全身にぞわぞわと怖気が走り、脳が飛び起きた様に覚醒すると、まるで体が勝手に動き出したかの様に感じた。

俺は龍王に背を向けて逃げ出した。


バシッ!


背後から首に鈍い痛みが走り、目の前が真っ暗になった。


後の記憶は無い。




ポタッ


気がつくと、辺りは真っ暗だった。

ゴツゴツした石畳が痛い。


ポタッ


「冷たっ!」


天井から落ちて来た雫の冷たさに思わず飛び起きた。


・・・ここはどこだ?


俺は改めて周囲を見渡す。

真っ暗闇で何も見えない。


俺は確か龍王に力を奪われそうになって、それで逃げ出して・・・・・

そこからの記憶は無かった。


「ステータスオープン」


ウインドウが開いた。


名前 海月加架梨

レベル1

称号 破損


「・・・破損」


奪われたのだ。称号を。


自然と涙が溢れた。


自分の大事な物を無くしてしまった。その喪失感が心を支配した。


ウインドウから発する僅かな光が辺りを照らした。


ゴツゴツした石畳に石壁、そして鉄格子。


ここは・・・牢獄だった。


全身に鳥肌が立った。

喪失感の次は絶望が心を満たした。

どうしてこんな事になったのか?

気を失っていたので分からないが、称号を奪われたからといって、こんな所に押し込められる筋合いは無い筈だ。


「直ぐ出してくれるだろう」


俺はそう思う事にした。

そうしないとどうにかなりそうだから。


コツ、コツ、と足音が近づい来た。

鉄格子の外から来る明かりがやがて鉄格子の前で止まった。


そこにはランプを持った見知らぬ男。

俺を見ている。


男は無言で鉄格子の隙間から何かを放り投げた。


ベチャッ


「夕食だ。食え」


掌サイズのパンのような物体。


近づいて見るとそれは・・・・・細長い体をくるくるっと丸めた・・・・・虫だった。


「む、虫?!」


「パン虫だ。見るのは初めてか?」


「こんな物、食える訳無いだろ!」


「異世界人は虫は食わねえって聞いたが本当なんだな。上の人間の事は知らねえが、俺たち下級民は虫しか食わねえぞ」


「そんな・・・」


俺は絶句した。


虫なんか日本で普通の食生活を送っていた俺からすればゲテモノだ。

食える訳無いだろ!


確かに、日本でも蜂の子やイナゴとか虫を食べる地方もあるらしいが、ウチの食卓に出てきた事は無いし、給食にも出た事無い。外食のメニューでもそんなの見た事ない。


要するに、殆どの日本人は虫を食った事が無い筈なんだ。


それに、虫って言っても目の前のヤツは何だ?

パンくらいの大きさの虫ってデカすぎだろ?

しかも何の調理もしてないっぽい。


これを生で食えって?


キモ過ぎる。

それなら絶食した方がマシだ。


極限まで飢えたら、理性がぶっ飛んで美味しく食えるかもしれないけど今は到底無理だ。


「・・・食わねえのか?」


「食わん」


「明日からヤバイ訓練が始まるんだ。食っとかねえと死んじまうぞ」


「ヤバイ訓練?」


「そう聞いたぜ。お前は特別メニューらしい。勇者様方の訓練の倍キツくなるってな」


「・・・なんだよそれ?!」


「詳しくは俺には分からん。明日、訓練官が来るからその時に聞いてくれ。とにかくそれは食っとけよ」


そう言うと男は戻って行った。


後には俺と目の前のパン虫が残された。

パン虫って、パンの味って事?見た目は全く似ていない。

緑色だし。


いずれにせよ


「・・・虫は無視」


シーン


・・・まだ冗談を言う余裕くらいはあったみたいだな。

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