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34話 落勇者って何だ?オイ

落勇者(ラクユウシャ)


勇者が背負うべき魔王討伐という役割からドロップアウトした者に名付けられる負の称号。


その意味はいくつか推測される。


落ちぶれた勇者。

落ち延びた、つまり逃げた勇者。

見下げ果てた勇者。

そして、本来の力から格下げされた勇者。


その中のどれが当てはまるのか?

あるいはその全ての意味が込められているのか?


とにかく、この異世界において、『落勇者』は迫害の対象であるらしい。


現に俺も、正体がバレたとたん、スパガーラから蔑みの言葉を浴びた。


ホリーでさえ、最初はかなりのショックを受けていた位だ。


やはり、この世界に根付いている『落勇者』への差別意識や負のイメージというのは相当なものがあるのだろう。


ホリーが言うには、『落勇者』とは、単なる呼び名ではなく、れっきとした称号なのだという。


つまり、落ちてしまった瞬間、

『勇者』の称号が『落勇者』という風に変わってしまうのだそうだ。


しかも『落勇者』になると、素性を隠していても、なぜか周囲からバレてしまうらしい。


普通、他人の称号を見るには、『鑑定』スキルかそれと同等の能力や魔道具が必要なのだが、誰しもが、特に一般庶民がそれを持ち合わせている可能性は限りなく低い。


なら自分から言わない限りバレない筈なのだが、何故か、『落勇者』を前にすると、『アレ?コイツって落勇者じゃねえか?』と確信してしまうのだとか。


理屈は謎だが、この現象は『落勇者の匂い』と呼ばれ、文献や言い伝えに残っているらしい。


つまり、他人から隠れる事が出来ないのだ。


これが、為すべき義務から外れた者へのペナルティーという事なのだと思う。


ハッキリ言って酷い話だ。


だって、この世界の都合で無理矢理連れて来られたのに、拒否すらさせて貰えないなんて、あり得なさ過ぎだろう。


幸い俺は、称号が破損していたので、本来なら『落勇者』になるべき所を免れたのだと思う。


そして今は、称号が完全にバグっているので同様に免れている。


念の為ホリーに確認したが、俺からは『落勇者の匂い』はしないらしい。


けれどもし、称号が正常に修復された時、俺は・・・今度こそ正式に『落勇者』になってしまうのかもしれない。


ホリーに話を聞いてそう思った。


それにしても、例え国民全体が待ち望んでいた魔王討伐だからと言って、大勢いる勇者の1人や2人がドロップアウトした程度でそこまで徹底して迫害するか?


これは俺が抱いていた疑問だ。


俺はホリーにそこを聞いてみた。


するとホリーは、苦々しげに顔を歪めた。


「カガリ殿はご存知なくて当然ですが、『落勇者』は、ただ逃げて人知れず暮らしただけの人も存在しますが、中には錯乱し大暴れした末、とんでもない死傷者を出した事件があったり、人間側を裏切って魔王と組んだり、勇者を抹殺して自らが王として君臨して暗黒時代を築いたり、とにかく、碌でもない事をする者も多く存在して来たのです。それ故に国民の『落勇者』に対する敵意は深刻なレベルにあるのです。


・・・そうだったのか。


ホリーには言わなかったが、俺は『落勇者』の置かれた境遇次第ではそうなっても仕方ない気がしていた。

俺だって、酷い仕打ちを受けて『落勇者』にされたのだ。

錯乱し大暴れする可能性はあったと思うし、魔王と組むのだって勇者を陥れられるのならやるかもしれない。

勇者を殺す事だって、俺がもっともっと絶望の淵に立たされていたなら、そんな気になっていたかもしれないし、自らが王になる事だって、俺は興味ないけど、そういう野望を持つ人は普通にいると思う。

そう考えると、『落勇者』というのは、単に貧乏くじを引かされた人達ってだけの様な気もする。


まあ、こんな事いくら考えても仕方ない。


俺はホリーにこの世界で自分に起きた事を話した。


元の世界は戦いの無い平和な世界だった事、その中で俺は単なる平凡な学生だった事、ある日突然、クラスメイト達と共にこの世界に召喚された事、俺を含めた全員、魔王討伐を引き受けて勇者になった事、俺がSSS勇者というとんでもない称号持ちだった事、それを妬んだクラスメイトから因縁をつけられ、なんの落度もないままに断罪された事、龍王によってSSS勇者の称号を剥奪された事、訓練と称して激しい拷問を受けた事、騙されて俺自ら魔王討伐から降りるよう仕向けられた事、もはや要らないと言われ、鉱山にぶち込まれた事、その全てを。


話す度に、その時の気持ちが湧き上がって来て、酷く辛い気持ちになったが、何とか全てを話終えた。


ただ、アールが本当は宇宙人だという事や、魔法だと伝えている事が実は超科学なのだという事、称号のバグなどについては伝えていない。


それと、なぜ称号が剥奪されたのに摩訶不思議な魔法が使えるのか?という事については、元の世界で最初から身につけていた異世界の魔法なんだ。と言って誤魔化した。


隠した部分は、アールから口止めされている事や、ホリーにそのまま伝えてもかえって混乱させてしまうような事がメインだ。


他は特に隠す事はしなかった。

勿論、言い忘れや抜けている事などはあるだろうが、それは追って話せば良いだろう。


俺の話をホリーは黙って聞いてくれた。


そして、話終えた後、俺の手を握ってくれた。

俺に共感して同情し、怒ってくれたのだ。


「酷すぎる話です。今代の勇者様は皆、ロクでも無い輩だったのですね。そいつ等こそが『落勇者』に相応しい!それに龍王様もあんまりな仕打ちです。契約を変えてカガリ殿だけを犠牲にするとは!これは何としても龍王様にはカガリ殿の称号を返して貰わねばなりませんね!あとは、フアム王女殿下がそのような慈悲のない方だったとは思いもしませんでした。これは、姫様にもお伝えせねばなりません」


「姫様?」


「はい、その事は、後ほどお話いたします。それより、カガリ殿はこの先、勇者達、龍王様、フアナ王女殿下、訓練官やその他城内でカガリ殿を酷い目に合わせた者達に、どの様な復讐をお考えですか?カガリ殿には返しきれない大恩があります。動かれる際には是非、私も助力させて下さい!特に、六条という男は、カガリ殿に変わって私が天誅を下してやりたい気分です!」


ホリーは自分の事のように怒っていた。それはもう猛烈に。


アールに続いて自分の為に怒ってくれる味方がもう1人現れたのは素直に嬉しかったし、心強かった。


アイツ等への復讐か・・・


「ホリーの気持ちは嬉しいよ。ありがとう!・・・正直、復讐したい気持ちはあるけど、具体的に何を?ってとこまでは考えて無いんだ」


本当に何も考えて無かった。

今までは、とにかく俺自身が生き残る事に必死だったからな。

復讐自体を考える暇すら無かったし。

でもまあいいさ。

もう死ぬ心配も無いし、時間はあるんだ。

じっくり考えてみよう。


とはいえ、奴等を殺す事は今のところ考えていない。


異世界のルールからすればそれもアリなのかもしれない。


だけど俺はまだこの世界にそこまで染まっていない。


今はまだ1人の日本人として、人を殺す事を良しとはしないのだ。


・・・これからどうなるかは分からないかけどな。


スパガーラとの戦いでホリーと共闘して、絆が出来た。

死んでほしく無い人が出来た。


もし、ホリーを助ける為に、人を殺さないといけないなら・・・果たして俺はどうするのだろうか?


口で言うのは簡単だ。


でも大事なのは、いざ、本当にそうなった時に、それを実行出来るのか?


それが全てだ。


でも、俺は今、敢えて言いたい。


俺は、大切な人を守る為なら、人を・・・殺す。


勿論、安易には殺さない。

余程の事でも殺さない。

でも、余程以上な事が起きた時には殺す。


その覚悟を持っておかないと、いざ、そういう場面が訪れた時に、間違いなく躊躇ってしまうだろう。

その一瞬の遅れが命取りになるかもしれない。


スパガーラ戦で最後、ホリーが人質に取られた時に痛感した。


自分達を殺しに来ている奴等に、甘い考えで臨めば、大切なものを失うかもしれない。


・・・絶対嫌だ!


≪少しは覚悟が定まってきたみたいじゃない≫


・・・うおっ!・・・アールか?今は偽スパになりすましてるんじゃないのかよ?


≪そうだけど、会話くらいはできるわよ?≫


・・・そうなのね。


≪私はカガリの覚悟を支持するわよ。ここは平和な日本じゃないんだから、大切なものを守りたければ、手段を選ばない覚悟も必要よ。幸い、カガリには私がついている訳だし、覚悟さえ決めれば、守りたいものはいくらでも守る事ができるわよ。だから、私を頼りなさいな。必要なら汚れ役でもやってあげるわよ?≫


・・・ありがとう。その時が来たら頼む!・・・けど、バトルジャンキーにはならないからな!


≪いいじゃないバトルジャンキーになっちゃえば。楽しいわよ?≫


・・・いつか完全にアールに染まりそうで怖いわ。


≪なら早速、染まりなさい!まず手始めはクラスメイトへの復讐ね。一緒にえげつない方法を沢山考えましょうね!≫


・・・そんなすぐには染まらないって!・・・けどアールも復讐には賛成なんだな。


≪当然でしょ?はっきり言って今すぐにあの城ごと焼き払いたい気分よ!≫


・・・絶対ダメだぞ!・・・復讐についてはさ、正直まだ考えられないんだよ。はっきり言って、アイツ等の事を思い出すだけで気持ちが落ち込むしさ。だからもっと気持ちの準備が整ってから考えてみようと思うんだ。


≪分かったわ。それまで待ってあげる。カガリの復讐だもんね。勝手な事はしないから安心して≫



「・・・・・カガリ殿?・・・・・大丈夫ですか?」


不意にホリーに声を掛けられた。いや、不意というより、またアールとの会話に持っていかれてたみたいだ。


「例の内なる対話ですか?しかし、アール様は今、偽スパに変身中でカガリ殿の内にはいらっしゃらない筈では?」


・・・ああ、アールとの内なる対話ね。確かにそんな設定にしちゃってたよな。アールが。


「ごめん、異世界の魔法を使うには、アールとだけじゃなくて、内なる自分とも対話が必要なんだよ」


「では、今は、自分自身との対話を?」


「そ、その通りだ」


・・・しまった、話を更にややこしくしてしまった・・・誤魔化してばっかでごめんなホリー!


「そうでしたか。実は、カガリ殿のお話も聞かせていただいた事ですし、今度は私の話を聞いて頂きたいなと思いまして・・・」


「分かった。俺もホリーの事が知りたいし、頼む、聞かせてくれ」

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