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35話 ホリーの事情を聞くぞ、オイ

ホリーとは鉱山から脱出する途中で知り合った。

はっきり言ってまだ知り合ったばかりだし、ホリー自身の事なんて、全く知らないと言っても過言じゃない。


そんな付き合いの浅いホリーだけど、彼女とは既に深い絆で結ばれている様な気がしている。

ホリーもそう思ってくれているみたいだし、そこは素直に嬉しい。


今、俺の中で命を懸けられる位に大切な存在といえば、アールと、そしてホリーくらいだ。


なぜそこまで大切なのか?

もしかしてホリーに一目惚れしたのか?

どうもそれは違う気がする。


俺はかつて委員長に一目惚れした事があるけど、ホリーに対してはそんな甘くドキドキと胸がときめく様な感覚は無い。


それよりももっと深い信頼を感じるのだ。


勿論、無理矢理に恋愛方向で話をするなら、俺は確かにホリーに惹かれているのだと思う。


もしもホリーと付き合えるなんていう奇跡のチャンスが転がっていれば自己ベストを軽く更新する勢いで飛びつくだろう。


でも、あの鉱山での共闘で、そんな思春期の甘酸っぱい恋愛感情を軽々と飛び越えてしまう程の固い絆を感じてしまった。


なので、俺がホリーに感じるのは、甘酸っぱいドキドキではなく、絶対的な信頼から来る安心感なのだ。


・・・これが今の素直な感情だ。

要するにホリーは大切な仲間であり、同志なのだ。


そんなホリーの身の上話なら当然気になるし、ホリーが俺に言ってくれたように、俺だってホリーの力になりたいと思う。


だって、無実の罪であんな鉱山へぶち込まれていたのだから、訳ありで無い筈がない。

なら、俺が力を貸せる事も何か有るだろう。


俺はホリーの事情が例えどんなものだとしても、彼女を助けると既に決めていた。


素直に、彼女を助けたい。という気持ちが一番だが、ホリーと『別れたくない』という気持ちも俺の中ではかなり大きい。


俺が元気になった今、ホリーがここに留まり続ける理由は無くなった。


つまりその気になれば彼女は今すぐにでも自分の旅を始める事が出来るのだ。

俺にはそれを引き留める権利は無い。


だって鉱山の脱出を実質果たしている今、俺とホリーの共闘関係は既に終了してしまっているからだ。


ホリーは俺の復讐に協力してくれるという。

でもそれは今すぐではない。


その時になれば集まれば良いだけで、これからもずっと行動を共にする理由にはならないのだ。


だからこそ、俺はホリーの力になると既に決めている。


協力すればまだまだホリーと旅ができる。

つまり俺はホリーと一緒に居たいって事なのだ。



ホリーは「おほん!」と軽く咳払いをすると、身の上を話し始めた。


「まず、私の素性を申し上げますと、私はこのスピーリヒル帝国と国境を接する隣国、モリッツァ聖帝国の貴族、フューネラル子爵家の人間です。ホリー・フューネラル、これが私の本名です」


「貴族だったのか」


「はい。カガリ殿も、カガリ・ウミツキ。家名があるという事は、元の世界では貴族だったのでは?」


「いや、元の世界では、貴族なんていうのは昔の話でさ、今は存在しないんだよ。俺はただの平凡な一庶民だったよ。家名ってのは、俺の国じゃあ、すべての国民が持っている珍しくもないものなんだ」


「そうでしたか・・・話を続けます。我がフューネラル家は代々、帝室を守る騎士の家系でした。当然、私も騎士団に所属しており、7つある騎士団の1つ、風騎士団の団長を務めておりました。


「団長?マジか?団のトップじゃん!」


「はい。新米団長ではありましたが・・・」


「充分すごいだろ?」


「ありがとうございます!・・・7つの騎士団は、私の所属する風の他に、火、水、土、雷、そして光と闇。その内、光と闇は聖帝陛下直属、その他は、帝室の主要人物の警護を担当しています」


「へえ、全部が聖帝?様の配下じゃないのな」


「はい。本来なら全ての騎士団が聖帝陛下の旗下にあるのですが、我が国には、時に、聖帝陛下に迫る重要度の人物が複数名存在する期間があります。今はその時期なのです」


「どういう事だ?」


「我が国は、モリッツァ聖帝国という名が示す通り、聖帝陛下によって治められています。そして帝室は代々、男なら聖人、女なら聖女の称号持ちを多く生み出す家系なのです。

当然、聖帝になる資格も聖人か聖女である事が必須です。

とはいえ、帝室の全員がその称号を持っている訳ではありません。

聖帝陛下のお子様達のほんの一握りに称号が発現するのです。

生まれた時から聖人か聖女の称号をっているお子様もいれば、ある日突然発現されるお子様もいます」


「いきなり聖人にね。そりゃ混乱の元になりそうだな」


「おっしゃる通りです。称号が突然発現される方は、いきなり帝位継承権が発生し、帝位継承争いの真っ只中に放り投げられる事になります。当然、準備も力も不足している為、殆どの場合、大きな混乱となってしまいます。

そのような環境の中、私がお仕えしていたのは帝位継承権第5位の第3聖王女、ソフィアリス・ビディーテ・モリッツァ姫様です。

私が率いる風騎士団もソフィアリス姫様の麾下にありました。

姫様と私は小さい頃より良く一緒に時を過ごした間柄でして、恐れ多くも、互いを親友と呼び合っていました」


・・・姫様の話が来た。さっきの食事中、ホリーがポロっと話してた『姫様』ってのが、このソフィアリスさんなのだろう。


ホリーは話を続けている。


「次期聖帝の資格を有するのは、数多くいらっしゃるお子様の中でも姫様を含め、聖人2名、聖女3名のたった5名でした。

そして光と闇以外の5つの騎士団は、その5名にそれぞれ1団づつがついて後ろ盾になっていました。この、騎士団を後ろ盾とする5名が、実質的な帝位継承候補なのです。というのも、もし6人目が現れたとしても、騎士団を持つ事ができない為、実権が全く無いからです」


ホリーは一旦話を止め、ぐっとコップの水を飲み干して、話を続ける。


「実権の無い『6人目』以降は、帝位争いの中で人知れず命を奪われる運命が待ち受けています。

同じご兄弟に殺される。そんな事は悲劇以外のなにものでもありません!

しかし、その悲劇は起こってしまいました。何と6人目の聖人が誕生してしまったのです」


ホリーは深くため息をついた。

多分、ここからが本題なのだろう。


「しかもその時、6人目の聖人に目覚めたのはなんと、第1王子でした。

第1王子は非常に聡明で『名君の素質大いにあり』と言われる程の切れ者でした。にも関わらず、聖人の資格が無かったばかりに冷遇されて来た方なのです。それが、突然資格を得たものですから、流石は切れ者と言いましょうか、ここが反撃の機会とばかりに、いきなり先手を打って来たのです。

なんと、我が風騎士団を内部から切り崩して来たのです。

理由は明白です。風騎士団を乗っ取って自分の麾下に置く事で、帝位争いの実質的な資格を持つ5人のメンバーに食い込む為です。

悔しい事ですが、私の力不足で、風騎士団が第1王子によって切り崩され、乗っ取られてしまったのです。

副団長のハリストが裏切り、奴によって我が家が攻められ、父と母は殺されました。

我が家が代々風騎士団長の家系だった為、禍根を残さない為の攻撃だったのでしょう。私も狙われましたが、なんとか逃げ延びました。

私は、僅かな味方と共に、姫様をお連れして落ち延びました。

もはや姫様は騎士団の後ろ盾もなく、このままでは殺されてしまうからです。

幸いこういう非常時に備えあらかじめ姫様の身を隠す場所は父と共に目星を付けていました。

我々は、僅かな味方の命を張った足止めにも助けられて、追っ手を振り切る事に成功しました。

そして姫様と私は、聖帝国の国境を越えて隣国へ抜ける事に成功し、私は決して見つからない場所に姫様の身をお隠ししました」


ホリーは再び一呼吸置く。


「ただ、私が姫様の周りをうろちょろ動き回る事で、それを糸口に姫様の居場所を特定される危険があったので、涙を飲んで姫様とひとまずお別れをしたのです。辛かったですがこれで姫様の身は安全です。

その後、私は密かに本国へ戻り、味方を探す為の活動をしている最中、敵に捕らえられてしまいました。

敵は私に姫様の居場所を話させようと、様々な拷問を行って来ましたが、決して口を破りませんでした。

断固として口を割らない私に匙を投げたのか、私は隣国スピーリヒル帝国にある鉱山、つまりここにぶち込まれたのです」


俺はホリーの話を聞いて心から同情し、心から怒りが湧いて来た。

だって、俺と同じだから。

何も悪く無いのに、相手の勝手な都合で陥れられ、どん底に叩き込まれる。

ほんと、この世界にはクソな奴等が多過ぎる。


「何とか脱出できた今、私が次に為すべきは、大きな力を持つ事で敵を牽制しつつ、姫様を迎えに行って共に聖帝国に戻る事。

そして帝位争いを勝ち抜き、姫様を次期聖帝にする事、これしかありません!」


そう言うと、ホリーはガバッと床に両膝をつき、土下座の格好で、俺に訴えかけて来た。


「お願いです!この私にカガリ殿のお力をお貸し下さい!」


「・・・顔を上げてくれホリー。もちろん、良いよ」


ゆっくりと顔を上げたホリーが問いかけた。


「良い・・・とは、お力をお貸し頂けるという事でしょうか?」


「ああ。元から力を貸すつもりだったからな、考えるまでもないよ」

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