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第一人者  作者: 近衛 キイチ
最終章
62/63

崩壊・後

 彼の指揮する大隊は早朝の訓練を終えると、武具の点検と畑の手入れを行い、食事の後は読書か昼寝をして時間を潰し、日が暮れる頃には眠りに就く、正式な命令さえあれば、彼らは三夜でも四夜でも眠らずに動き続ける事ができたが、世界が平定されてからは、アービエルが書き残した軍規に従い生活している。

 彼は父と祖父の年齢を合わせたよりも長く生きており、魔の森から出て来た当初の様に鱗は剥がれ痩せ細った姿が想像できない程に体は鍛えられ、兵舎で共に暮らす同胞たちも同じ様に健康で若々しかった。


 宰相によりそれまで駐屯していた元集落の都市から、州都への移動を命じられた。

 定められた人員を維持できなくなり解散した軍団の代わり。というのが理由だったが、アービエルの代わりに最高司令官代理となった者による正式な物だったので、彼を含め大隊の全員が特に疑問を持つことなく州都に向かった。

 州都の軍団兵が生活する兵舎は市内にあった、賑やかな中心地からは離れているが、貧しい者が多く住む住宅地の中だ、アービエルにより防壁が破壊された事で州都の人口は際限なく増え続け、市域外に存在した兵舎は取り込まれたというが、そんな事は彼にとってどうでも良い話だった。


 州都の治安維持は戦時にしか招集できないはずの補助軍が務めていたが、軍団兵に比べて規律が緩く属州長官や都市長官の私兵だった彼らは、十万を超える州都の民を抑える事ができず、魔獣である彼らは暴動の鎮圧のために州都に移動させらた。というのは建前で、本当の理由は属州長官や都市長官を威嚇するためだと、彼は後に知った。

 しかし、正統な指揮権を持つ者の命令だった上に、かつて戦った人間達に比べれば、盾で押し返すだけで剣を振るう事のない簡単な任務だったので、彼らにとっては人間達の権力争いなどどうでも良かった。


 彼ら魔獣にとって、今まで通り楽な仕事だったが、州都に移動する少し前から頭の中で声が聞こえ始める。その声は二つあり、一方の声を聞くと無性に暴れたくなったが、もう一方の声がそれを制するので耐える事ができた、しかし、ある時から前者の声が大きくなり、その声で頭が一杯になると意識を失い、気が付いた時は兵舎の中や外で暴れた後だった。

 幸いにして爪は短く切っていたし、訓練用の木剣には濡れ布を巻いていたので、負傷者に比べて死者は少なったが、彼らは自分達の行いに驚きと恥ずかしさを感じ、それ以来兵舎から出る事を避ける様になった。

 

 

 人々は彼らを恐れて避ける様になり、属州長官も彼らを安易に動かす事を控える様になって久しいが、軍団用の小麦や果物及び乾物に加えて、必要な物は手配すれば届けられており、駐屯地内の畑で野菜や調味料を自給し、兵舎の改修は彼ら自身で行っていたので、日々の訓練と読書に日光浴さえできれば状況に不満を感じる事はなかった。


 衣食住を約束してくれたアービエルに対する信頼は厚く、彼が兵舎に来なくなって不安と寂しさを感じて、日々の訓練を行う事で大将軍との絆を確かめるが、さらに十数年が経ち大将軍の顔も忘れてしまうと、その様な人物が居たのか不安になり、書物を読み返しては自分達の上官を思い出すのだった。


 しかし、その時は突然来た。


 制止を叫ぶライオネルの声は完全に消え去り、鮮明に聞こえる声は彼らに殺戮と破壊を命じる。

 かつては首都として、貿易と残されたレムリアの技術により繁栄していた海に面するその都市は、突如ウリンダロス達の襲撃により海に沈み、その都市と貿易を行っていた都市も海から這い上がった魚面の魔獣による侵攻を受け、内陸の都市からは火の手と悲鳴が上がる。


 燃盛る州都の中央広場で我に返った彼らが初めに感じたのは、口の中に広がる血の味だった。

 見下ろした自らの掌は鮮血で染まり、彼らの足元には人間の部位と判る肉片が転がっていた。

 彼と仲間は恐怖からその場を走り去るが、都市の彼方此方で火の手が上がっている、火を消そうと人々は慌しく駆け回っていたが、血に濡れた彼ら魔獣を見ては呪いの言葉を叫びながら逃げ出す。

 人類との関係改善は不可能と判断した彼は、消火活動を手伝う事を諦めると、血が滴る剣を持ち血の海で佇む仲間に声を掛け、人々の悲鳴と燃え都市の中を走り兵舎に戻ったが、既に兵舎も周囲の住宅と同じように自我を失った仲間達により燃やされており、松明を手に呆然としていたその者達は、彼の視線に気が付くと松明を落とし、目前の状況を見て両膝を地面に付き絶望する。


 州都の外に広がる田畑は燃え、街道の十字路では大隊の仲間が彼らを待っていた、その表情は自分達の行いを理解していたが、燃る都市を背に隊列を組んだ補助軍の号令に混乱し不安を感じており、隊員達は隊長に指示を仰いだ。

 これ以上人間を傷付けたいと思わなかったし、仲間達も彼と思いを共有していたが、大人しく犯罪者として裁かれる事は承認できない、と彼は考える。


 貧弱な防具に小さな丸盾と槍しか持たない、その上訓練の行き届いていない三千の補助兵だが、燃る兵舎の中に装備を置き出て来た彼らにとって、丸腰のままで戦うのは賢明ではなかった。

 暫しの沈黙の後、魔獣の大隊長は森の中への後退を決めた。


「各都市に駐留していた魔獣の軍団は、護っていたはずの市内に侵攻して民衆を殺害し、自分達を食わせていた田畑に火を放つ。

 アービエルの遠征に協力し、世界の海を支配し繁栄を極めたレムリア半島の都市は、ウリンダロスの攻撃により海に沈む。

 魔王は完全に目覚め、ライオネルにより制御されていた魔獣は、この僅かな時間に世界を混乱に陥れる。」


 数行では情報量が少ないと思い書き足した訳だけど、最終話の手前に入れる話ではなくなった感が……

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