旅の青年
レムリア半島まで陸路を執れば、四つか五つの国を通る、それにはそれなりの時間と金と危険が伴う。
そこで目的地のポートルコのオスロと同じ、ランツ王国の沿岸部に在るポートルコの入植都市、メッサリカを経由する予定だったが、ランツの途中で路銀の減り方が想定よりも早かったために、メッサリカの市壁近くまで伸びる街道、レムリア王国が敷設した海岸沿いの街道を通る事にした。
レムリア建造物の多くは、その後継国同士の戦いで破壊されている、混乱の内に人口は少なくなり、破壊された都市に残された遺物も、破壊を免れた建造物も価値を理解しない者達により、次の建造物のために解体されたりしたが、街道はランツが沿岸部の開発に興味がなかったために、石畳が盗まれる事もなく綺麗に残っているとの話で、道はメッサリカの市域内に繋がっているので案内人も必要なく迷う事はない。
先生の話では、あの街道の存在理由というのは、沿岸部の都市同士を繋げるだけのものではなく、水棲の魔獣が襲って来た際に、退避すべき目印としての役目もあるらしく、魔獣は街道まで出没するという事はないらしい、いや危険なのは魔獣ではない、周辺に人気が少ないという事は、盗賊などの無法者が多いのかもしれない。
神殿の外に置いてある椅子で酢入りの水を飲みながら、今後のことを思案していると、隣に男が座り話しかけて来た。
大きな荷物を持った小汚い格好をした男、歳は二十代後半、乱れた黒い長髪だが、顔の髭は綺麗に剃っている、短衣の上から開閉式の長衣と外套を着込み、腰には小さな斧を差している。
「俺はアティクス、キミの名は」
「ルキノス」
今はそういう名前になっている、アンネリーゼはネイッサ、彼がどういう意図で尋ねてきたのかは分からないが、押し黙って因縁をつけられるのも良くないと考え応じる。
「俺はさ、メッサリカまで行こうかと思って旅をしているんだが、金と時間を短縮するために、海岸沿いに行こうかと思ってさ、どうせなら路銀の節約で、海岸を通る誰かの護衛にでも雇ってもらおうかと思ったんだが」
アティクスは分かるだろという顔をしていたし、彼の言いたい事も分かったが、黙っている自分に我慢できず、彼はさらに話を続ける。
「そこでだ、俺を護衛として雇わないか、安くしとくぜ、二人で旅してるんだろう、こんな所に職人でも旅芸人でもない人間が来るとしたら、海岸地帯を通るつもりの人しかいないからな、あんな所を子供が通るのは危険だぜ」
確かにこれから海岸線に沿って旅をするのなら、二人旅には不安がある、しかし、この男を信用する方が危険な気もする、海岸地帯に入った所で彼の仲間に襲われる可能性だってある。
「そうですね、でも自分達は護衛を雇えるほどお金を持ってないので、それにここ数年は魔獣を恐れて盗賊も出てこないという話ですから、あと少し待って冬が来る直前にでも出発しようと思っています、それなら魔獣に襲われる可能性も少ないでしょうし」
これは嘘だが、多分これが比較的安全な方法だと思う、それでも時間がないのはこちらも同じ、本音は魔獣であろうと盗賊であろうと、どちらに襲われるのも恐ろしい。
「そっか、しかたない、その方がいまから出るよりも安全だしな」
そう言ってアティクスは椅子から立ち上がると、市場の方へ向かう、行商人の護衛でも探すのだろうか、悪い人には見えないのだが、それでも用心するこちらに非はないと思いたい。




