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番外編 はるにいの恋愛事情 後編

すぐにでも優里香を俺の女にしてやる。

・・・そう思ってたのに、だらだら、だらだらと気がつけば一年半以上。


おい、俺ってこんなに辛抱強かったっけ。



いつも一緒にいる俺達を、周りのみんなは普通に付き合ってると思ってる、らしい。

まあ実際に、登下校も一緒で、土日も部活がない日はどっか遊びに行ったりしてるんだから、そういう関係と何が違うんだって話だけど。


優里香と一緒にいる時の、生ぬるい感じに俺の方が慣れしまったみたいで。

まあ、もうしばらくこのままでもいいかって思ってた。やべえ、やべえ。

それで気づいたら中学卒業って! どうだよ!

ちょうどいい節目だ。一度仕切り直そう、と思って自転車で二人乗りして下校する時、寄り道をした。


公園を自転車を引きながら二人で歩く。この公園は子どもの頃によく来た。

遊具の辺りは子どもで賑わっているけど花壇の方は落ち着いていて大人もよく散歩している。


さっきから優里香は何も言わずに俺の三歩先を歩いている。

俺は背中に話しかける。

「おい、優里香。お前、高校は坂北なんだって? 美術科。すっげーじゃん。

倍率、超高いんだろ?」

すでに推薦で合格しているらしい。優里香はコンクールでも何度か入選しているから、推薦状には高校側から是非来てくれって速達で合格通知が届いたらしい。

噂で聞いただけだからどこまで本当かわからねえけど、推薦で美術科に行くのは本当だそうだ。


「ありがと。春樹は、坂南工業だっけ?」

「おう」

「バラバラに、なっちゃうね。もう皆とも会えなくなっちゃうのかな・・」


さみしそうにポツリとこぼす。らしくない横顔。

皆っつっても、この場合、俺とってことだよな。

俺は大股に数歩足を進めて優里香と並んだ。

「おい、なんつー顔してんだよ。別に海外に引っ越すわけじゃねえんだし、会う気がありゃ会えるだろ」

「でも、こんな風に一緒に帰るとか・・なくなるじゃん」


「ふうん、ちったあ さみしーって思ってくれるワケ?」

「さ、さみしいに、決まってるでしょ! ずっと一緒にいたのに・・な、なによその顔! ニヤニヤするんじゃないわよ!」

さっきまでしんなりしてた優里香は、赤い顔で目を釣り上げて怒り出した。

そうそう。お前はそうでなくっちゃ。


「もう、いーかげん待ちくたびれたんだけど。俺のこと、信用した?」

「した。・・・ってゆうか、分かってた。春樹は信用できる奴だって」


唇を尖らせて赤い顔して、怒ってんのかと思えば、優里香は泣いてた。つーか、泣く、一歩手前。

大きな目に涙が溜まってるのを自分の腕でぐいっと拭いていやがった。

「な、なんで泣くんだよ!」

焦って声が上ずる。

「だって、だって、最近、春樹、なんにも言わないから・・・、だからもう、私のことは友達になっちゃったんだって、そう思っ・・」

声を震わせて優里香が言う。


「馬鹿か! お前がそうしたいって言ったからそうしてやってたんだろ! 」

「それは、そうかもしれないけどっ・・。そうだけど・・」

声をしぼませて優里香は視線を下げる。



「お前、ふざけんなよ、マジで」

両手で顔を挟んで無理やり視線を合わさせた。

うっわ、顔ちっせえ。ほっぺ柔らけえ。涙に濡れた目とか、唇も・・

やべえ、コイツ、えろい!

ハッとして首を振る。妄想してる場合じゃねえ。エロいのは俺だ。

この女にはハッキリ言ってやらねえといけないみてえだし。



「ずっと言ってんだろ。好きだって。付き合えって」

優里香は俺の手を払いのけるように顔から引き剥がし、そのまま掴んだ。


「ウソ! 言ってないわよ! 一年前のあの時だって結局言わなかったじゃん!」

「い、言わなくたってわかるだろ!」

「わかんないわよ、バカ!」

「お前に言われたかねえよ! バーカ! 俺がどんだけお前に触りてえの、我慢してきたと思ってんだよ!」


俺の言葉に、優里香がカアッと頬を赤らめる。だからそういう顔されると堪らないんだっつーの。




「・・俺は好きだ。お前が一番。一年半も指咥えて待ってるくらい、な 」


掴まれた腕を離して、優里香の手を握り直す。


「優里香、お前は?」

目を見て聞いた。もう、先延ばしは無しだ。



「私もよっ! あんたみたいなのがそばにいたら、他の男なんかカスみたいに見えちゃうわよ!」


投げやりに言う優里香は真っ赤で、めちゃくちゃ可愛いと思った。

迷わず抱きしめた。両腕にすっぽりと収まった優里香に俺の一年半の穴が満たされた気持ちになる。

あー、長かった。


「だろ? そのまま俺だけ見てろよ」

「・・ばか」


ヤりたい盛りの男子中学生にオアズケ一年半は地獄だっつーの。

まあだからって今日イキナリ襲ったら全部振り出しに戻りそうだからしねえけど。


・・・このくらいは許してもらわねえとな。

ずっと触りたかった身体は制服越しなのにやわらかくて、髪はふわふわ。

あ、なんかすっげーイイ匂いがする。


髪に埋めた顔を少し下げると首元に触れた。びくんと優里香の肩が跳ねる。

「春樹、こそばゆい!」

「うっせ、ちょっと黙ってろ。大人しくしてろよ、優里香」

腰、ほっそいなあ。胸はデカいのに。やべ、ニヤける。

ますます抱きしめる手に力がこもる。


あー、ようやく手に入れた。


「ちょ、春樹、こここ、ここ、公園っ! だ、誰か来たら・・」

「・・家にでも行くか。うちは妹がやかましいし、お前んち、行っていい?」

「う、うん」

照れてそっぽをむく、とか。可愛いすぎるんですけど。部屋に行って大丈夫か、俺・・。


そんな心配をしながらも口元は緩みっぱなし。

「春樹、だらしない顔してるわよ」

「しょーがねえだろ。うれしいんだから」

「・・もう。・・わ、私だって、うれしいんだから」

「よーし、帰るか」

俺が手を差し出せば、笑って優里香も手を重ねた。




いつか偉そうに父さんに向かって言った自分の言葉が頭をよぎった。

「母さんのこと本当に大事に思ってんなら、もっと言葉にしろ。行動で示せよ」って。

うわあ、俺、恥ずかしい。


・・でもまあ、自分で言ったことだし、俺も実行しなきゃかな。


これからもこいつと一緒にいるために、な。



どうも、ありがとうございました(^O^)/

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