第14話 気付くのが遅すぎる
夜
坂東一人。
仕事は終わっている。
机の上には書類。
だが全く頭に入らない。
どうしてこんなに落ち着かないんだ。
銀行マンが西原を誘っただけだ。
仕事ではよくある。
それなのに。
胸がざわつく。
理由がわからない。
そこで今までを思い返す。
初めて会った日
行政書士試験
驚かせたかった
一緒に残業
西原が笑う顔
少しずつ繋がっていく。
ああ。
そういうことだったのか。
ここでようやく
「好きなんだ」
と理解する。
そこからが坂東らしい。
普通なら、
「明日言おう」
となる。
坂東は違う。
どう伝えればいいかわからない。
恋愛経験がほとんどない。
司法書士の仕事ばかり。
ノートへ書く。
「好きです」
違う。
消す。
「付き合ってください」
違う。
消す。
「結婚を前提に」
早すぎる。
消す。
「西原さん」
そこから進まない。
時計を見る。
午前三時。
結局眠れない。
翌朝。
西原はいつも通り。
「先生、おはようございます。」
笑顔。
その笑顔を見るだけで、
昨日よりもっと緊張する。
昼。
銀行マンが来る。
「西原さん、今度こそ二人で。」
西原は笑って言う。
「先生となら。」
銀行マンは察する。
「そういうことでしたか。」
苦笑して帰る。
事務所。
静かになる。
坂東が呼ぶ。
「西原さん。」
「はい。」
ここで昨夜考えた言葉を全部忘れる。
結局出てきたのは。
「私……」
「はい。」
「昨日から、自分の気持ちを考えていました。」
西原は黙る。
「人の相続関係は整理できるんです。」
「はい。」
「人の家族も見ています。」
「はい。」
「なのに、自分のことだけは、何もわかっていませんでした。」
西原は少し笑う。
「先生らしいですね。」
そして。
「私と……」
深呼吸。
「これからも一緒に仕事をしてください。」
西原が少し首を傾げる。
「仕事だけじゃなく。」
「……」
「できれば人生も。」
まだ回りくどい。
坂東は焦る。
「その……」
「はい。」
「青色事業専従者給与の届出を出したいと思っています。」
沈黙。
西原が吹き出す。
「先生。」
「はい。」
「それ、告白ですか。」
「……そのつもりです。」
「そんな告白、初めて聞きました。」
笑いながら涙が出ている。
「先生。」
「はい。」
「私、ずっと先生が好きでした。」
「……」
「でも。」
少し笑う。
「先生は絶対気付かないと思ってました。」
「すみません。」
「私が先生を好きなことも。」
「はい。」
「先生が私を好きなことも。」
坂東は目を見開く。
「え?」
「私は、気付いてました。」
「……」
「先生だけ、気付いてなかったんです。」
最後。
白い線は今日も見えている。
親子。
兄弟。
家族。
その中に、俺はいない。
けれど。
見えない繋がりがあることを、西原が教えてくれた。
戸籍には載らない。
登記もできない。
それでも確かに存在する繋がり。
一番近くにあったその一本を、俺はようやく見つけることができた。




