繧上◆縺励?繧後∩縺医k繧
「くそ、金のかかるガキだぜ……だからおろせって言ったのによ」
「なんてこと言うのよ!? この子は私とあなたの愛の結実でしょう!? お金なんかじゃ計れないわ!!」
「うるせーなあ。愛が金になるのかよ。金に替えられねえもんは価値がねえよ。金に替えられねえんだからよォ」
「……ったら……の……?」
「ぁん? んだよ」
「……たら……の……は……の……?」
「声が小せえよ!! はっきり喋れやクソ女ァ!!」
「だったら!! あなたの命はお金に替えられるの!?」
「……は?」
「替えられないじゃない!! 私の命も、あなたの命も、お金に替えられないじゃない!! あなたの論理なら、私もあなたも、価値がないわ!!」
「そんなこと、ってお前、手に持ってる包丁はな」
■□■□■
ぶつん、と映像が途切れる。いや、違う。レムノンに食べられた「夢」がレムノンの中で「消化」されていくのを、わたしは呆然と眺めていた。
ここはレムノンの胃の中だと思われる。わたしがよくわかっていないのは、胃の中の液体が夢を溶かしていくのに、わたしのことは溶かさないからだ。レムノンに食べられた瞬間のことは覚えていないが、レムノンの胃の中ということはわかった。
わたしのいない夢の世界で、レムノンは好き勝手暴れ回っている。ばくばくと夢を食べて、人の夢を壊している。わたしだけは壊れない。まるで安全地帯に匿われているかのようだ。
どうして? レムノンは敵なのに。
けれど、たくさんの夢を見て、わたしは知った。
わたしは必要とされていない。
■□■□■
「麗美のやつゴキブリ爆弾で倒れたってー?」
「あはは、巻き込まれなくてよかったなー」
「なー」
「ちょっとそこの男子! あんたたちの仕業だったの!? 大変だったんだからね!?」
「なんだよ、今更いい子ぶりっ子ですかぁ? お前、こないだ麗美の教科書破いてたろ?」
「は!? なんでそのこと」
「やーい、引っかかったー」
「このっ!!」
「おわっ、おま、カッターなんて危ないだろ!?」
「もういい! どいつもこいつも繧Uね!!」
「待て、落ち着け、話し合おう!?」
「麗美ちゃんとは話そうともしなかったくせに!!」
「あいつは別……うわあああああ!!」
■□■□■
また、溶けていく。
時折、わたしには理解できない言語が飛び交うが、溶けてくると、だいぶ言語がわかってくる。それはわたしが知りたくない言葉だった。
耳を塞いで、目を背けていた。わたしは夢の中の住人になりたかった。夢の中でだけは主人公でいたかった。それで設定されたのが「れみえるん」なのだ。
レムノンのおなかの中は、夢の世界を終わらせる効果があるのだ。どうしてわたしに効かないのかは、わたしにはわからない。ただ、レムノンの声が明瞭に聞こえる。
「レミを苦しメるものを、壊す!」
「レミが夢の外でモ笑えルようニ!」
うそだ。
うそだうそだうそだ。レムノンは、わるもののはず。なんで、なんで? わたしのため? なんで? わたしにとって、レムノンは敵で、レムノンにとっても敵でしょう?
どうして、わたしのためなんかに?
いや、そうじゃない。そこじゃない。問題なのは、もし、わたしのためにレムノンがやっているのだとして、そうしたら、あさひちゃんはわたしのせいで死んだってことだ。
「……いや……」
あんまりだ。
確かに、あさひちゃんはわたしのこと友達と思ってなかったかもしれない。でも、わたしは友達だって思っていた。それも特別な友達だ。わたしの友達をどうしてレムノンは虫みたいに駆除したの?
お父さんとお母さんだって、もしさっきの夢が現実になっていたら、死んでいる。なんで? お母さんがどれだけ邪魔者のわたしを愛してくれているように、お父さんが苛立ちながらもわたしの存在を承服してくれているように、レムノンは見逃してくれないの? 生きているだけでじゅうぶんじゃない。
はっ、わたしはれみえるん。ここは夢の中。どうして忘れていたんだろう。わたしは夢の中なら最強無敵、この力でレムノンを倒すことができる。
魔法の力で、レムノンのおなかに穴を開けて、レムノンがこれ以上、夢を食べないように対峙しなきゃ。
「れみえるん! That let me go ahead!!」
わたしは魔法の呪文を唱えた。……けれど、変身ができない。魔法の力も感じない。
まさか。
「レムノンのおなかの中だと魔法が使えない?」
『そうだよ、麗美』
わたしによく似た声がした。けれど、この空間にはわたし以外誰もいない。
そこでふっと記憶が戻ってくる。
わたしは、レムノンが変化した黒いわたしを倒した。
『麗美は自分で自分を壊しちゃった。だからね、麗美の夢の力はもう使えないよ。そこまで追い込まれた事実が、現実をぐちゃぐちゃにする。だからね、もう止められないよ』
「あなたの、せい?」
『そうだよ。でもわたしはあなた。あなたはわたし。だから、わたしのせいということは、あなた自身のせいでもあるの』
「何を、言っているの?」
難しいことはよくわからない。わからないはず、なのに……
『本当はわかるよ。だから、おかえりなさい、現実へ。もう二度と、夢の中になんて、逃げ込まないで』
わからない、と逃げてきたことの意味が、わたしの中で弾けて、ぱちん、ぱちんとわたしを傷つけ、傷口から「意味」を浸透させていく。
理解するのが、嫌だった。どうしてあんな現実に戻らなきゃいけないの? わたしはずっと、夢の中にいたい。
どうして、どうして、と唱えているうち、意識が遠退くのを感じた。どうやら、これからは逃れられないらしい。
知っていた。夢はいつか醒めるって。
ぱちり、と目を開ける。悪い夢を見ていたような気分だ。悪い夢。……まあ、本当に夢なのだから、言ってもどうしようもない。
むくり、と起き上がると、全身が痛んだ。呻く声すら掠れていたように思う。どれだけの間、眠っていたのだろうか。
通りすがりの看護師が、開きっぱなしの扉からわたしの姿を確認して、声を立てる。医者を呼んでいるようだ。「唯賀麗美さんが意識を取り戻しました」と看護師がわたしの名前を呼ぶのを、他人事みたいに思っていた。
「……どうして……」
どうして、生きているの?
それが唯一で最大の疑問だった。けれど、聞いていいことではなさそうだ。窓があまり開かないようになっているみたいだし、ここは、精神科の病院だろう。
精神科ということは、わたしは心を患っていたのだ。
だんだんと、理解してくる。
以前のわたしの言葉で言うなら、わたしはれみえるんで、最強無敵だから、レムノンの体質が効かなかった。だから死ななかった、ということになる。
わたしは……レムノンが望む通り、生き残った。
お父さんとお母さんが死んだことを聞かされる。クラスで傷害事件があったことを聞かされる。誰が死んで、誰が傷ついて、と別に知りたくもないことを聞かされ、わたしが一番知りたい「わたしがどうして生きているか」は聞かせてくれない。
そんなこと、わたしは知っているのかもしれなかった。
レムノンや黒いわたしがどういう仕組みの存在かは知らないけれど、彼女らはわたしを生かそうと必死だった。もしかしたら、わたし自身の「生きたいという意思」だったのかもしれない。わたしはそんなもの、捨てたつもりでいたけれど。
……ああ、だから「夢」なのか。
「麗美ちゃん、大丈夫ですか? 具合が悪いところはありますか?」
気づいたら、医者の問診を受けていた。わたしはにこりと笑う。
「大丈夫です」
もう、夢の中には帰れない。帰る必要がない。わたしの生を脅かす両親とクラスメイトたちはいないのだ。
それでも、生きたくなくなったら、そのときは、今度こそ永遠の夢の中に行こう。
そうしたらきっとまた、最強無敵になれるはずだから。
れみえるんがわたしに都合のいい夢の中の存在だとしても、わたしの生きる勇気になるから。