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幼馴染を助ける為、異世界を行く  作者: 秋葉月
第2章 城塞都市編
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第2章 11.雑談


ちなみに、エインガイナには六つの人類種が存在します。その中に『森人族』も入ってます。一応知識として宏人もウルスラグナの本で見て知ってるのでスルーしてますが、具体的な説明はまた次の機会にすると思います。

 


 水が飛沫をあげて一人の青年へと降り注ぐ。

 太陽光を反射しキラキラと輝く飛沫が宙を舞い、小さな虹が空にかかった。

 赤黒く血に染まった青年の身体を水が流れ落ち、赤くなった水が地面を濡らす。


 青年は濡れて重くなった服を脱ぎ去り、予め集めていた薪に火を出す魔道具で火をつける。杖のような魔道具の先からでた小さな火種は細い木の枝へと移り、ゆっくりと大きくなっていく。

 その熱で服を乾かしながら、青年は近くでその様子を見守る少女へと視線を移す。


 少女は俯き、そっとタオルと予備の新品の服を手渡してくれた。

 それに対して青年は感謝を伝える。


「ありがとう、メリダ」


 青年ーー折原宏人は、水に濡れた髪をかきあげ、手渡されたタオルで身体に残る水分を拭き取っていく。

 それに対し、感謝を述べられた少女ーーメリダは顔を赤くさせ、小さな声で


「ど、どういたしまして」


 そう応えた。

 今宏人達が居るのは森の中、川のせせらぎが心地良く聞こえる川沿いの拓けた所だった。宏人が赤毛熊レッドベアを討伐した際に受けた返り血を落とすために、ここに来たのだった。


「へー、ヒロトあんた結構いい身体してるねぇ。軟弱そうな顔してるのに」


「おい、アン。ヒロトさんは赤毛熊レッドベアを倒せるんだぞ。あれくらいは普通じゃないのか?」


 そう会話しながら宏人達から少し離れた場所で釣りをしているのは、ルヴィクとアンの二人だった。

 どうやら用意していた食料が底をつきたとかなんとかで、食料を現地調達しているようなのだが、


「ここの川の魚、なかなか餌にくいつかねぇんだよなぁ……」


 過去にこの川で何度坊主で帰る羽目になったのだろうか。

 そう、過去に思いを馳せ宏人は苦い思い出を噛みしめる。

 すると、その呟きを聞いていたのかメリダが俯きながら問いかけてきた。


「ヒロトさんは、この森について詳しい、ようですけど、どうしてそんなに詳しいん、ですか?」


 緊張によるものなのか、言葉に詰まりながらメリダは一生懸命にそう言葉に出した。元々人と話すのは苦手な方だと本人は言っていたが、きっと本人なりに努力しているのだろう。


「少し、な。色々あってこの森で暮らしてたことがあるんだよ」


「そ、そうなん、ですか」


「ああ。ーー色々あってここで彷徨ってる所を、この森に住む人に保護されてな。それからここで暮らしてたんだ」


「そう、だったんですね……」


 宏人の言葉から何を想像したのだろうか。メリダは申し訳なさそうにションボリと肩を落としながらそう応える。

 その反応に困るのは宏人の方である。


「ま、まあでも。そこまで大変ではなかったな。親切な人に拾われたおかげで、今ここにいる。だからな、そんな顔しないでくれ」


 どうも、この少女を相手にしていると歳の離れた妹のような、娘のような、こう保護しなくちゃいけないような気持ちにかられてしまう。

 小動物のような娘だといえば良いのだろうか。


 宏人は必死に励まそうとするが、一向にメリダの顔は憂鬱としたものに遮られている。

 そして、悩み抜いた宏人はアプローチの方法を変えることにした。


「そ、それよりもやっぱり凄いんだな、魔法ってのは」


 宏人は若干の苦しさを感じながら、彼女の得意分野である話題へと誘導する。

 その宏人の言葉にメリダは頰を少し赤くしながら照れ臭そうに


「あ、あんなのは凄くないですよ」


 そう小声で返してくる。


「いや、十分凄いと思う。俺も使えるようになるために特訓したんだが、なかなか使えなくてな。ーーそうだ!メリダ、トライオス王国までの道のりでいい。俺に魔法を教えてくれないか?」


 なるべく明るくそう宏人はメリダに問いかける。その言葉にメリダは一瞬だが安堵のような表情を浮かべた。


「は、はいっ!」



 ◆



「それよりも、マルクスはどこに行ったんだ?」


 辺りを見回すが、彼の姿は見えない。

『魔力眼』にも反応はないため、この近くにいないことは確実だろう。

 不思議に思い、メリダに聞くと


「マルクスは、森の中で木の実とか、山菜とか、食べられるものを採ってきてます。えと、マルクスは、魚とか、獣肉とかが苦手なので」


 そこは流石森人族(エルフ)といえば良いのだろうか。ファンタジーなどでは、エルフは菜食主義者が多いイメージだから。


森人族エルフは肉とか苦手なのか?」


「えと、森人族エルフが種族的に肉が苦手とは聞きません。彼らも、森の中では狩りとか、するので」


 つまりマルクスが特別だということか。まあ別に元の世界にも菜食主義者は一定数いることは間違いが無いので、別段変な話ではないのかな。

 ふと、川辺で釣りをしているアンとルヴィクの二人を見ると、案の定なかなか釣れなくて苛立ちを隠しきれていないアンの姿が見えた。ルヴィクはその隣でアンを宥めながら、時折一向に動く気配のない竿先を見つめている。


 宏人はその光景を横目に、自らの鞄へと足を運ぶ。中を開け、保存食と水筒を取り出した。水筒は初めと比べて随分と軽くなってしまっていた。

 宏人は川辺に向かい、水を適量掬い取る。そのまま焚き火へと持っていき、熱し始めた。


 その様子を見て、メリダも己の鞄から保存食を取り出す。そのまま宏人とともに焚き火の元へ丁度良い大きさの石を持ってきて、そこに腰かけた。


「メリダはまだ食料を持ってたのか」


「は、はい。えと食べ物はみんながそれぞれ持ってて、まだ食べてなかったんです」


「そうなのか。それなら、ルヴィク辺りは持ってそうなのに」


 宏人は釣りをしているルヴィクをチラリと見る。彼ならば、設定した量を守ると思っていたのだが。

 不思議に思いそう呟くと、


「ル、ルヴィク君はアンちゃんとマルクスに、食料をあげていたから。多分そのせいだと思う……」


 メリダは苦笑いしながらそう口に出した。

 その答えに宏人は成る程と心の中で頷いた。ここに来るまでに何回か他のメンバーと話したが、ルヴィクは几帳面で誠実な人間、アンは大雑把で男勝りな性格、マルクスは地頭はいいが所々に天然というか考えなしの部分がある、と感じていた。


「そう言えば、あの魔道具の矢。あれはどういうものなんだ?」


「ーーあれは遠隔視の(リモートビューイング)アローって言って、水魔法の応用で、遠くの景色を見る事ができる魔道具です。音がしたところは、私達からかなり距離があったので、マルクスの眼でも見えなかったんです」


 口の中に入っていた食物を嚥下し、メリダは言った。急いで飲み込んだからか、喉に詰まったようだったが、宏人は自らの水筒を差し出した。

 それを素直に受け取り、中に入っている水を取り込む。落ち着いたのか、大きく息を吐いた。


「それよりも、ヒロトさんってすごいんですね。赤毛熊レッドベアを一人で倒すなんて」


「まあそれなりに鍛えたしな。あの時は必死だったし、教えてくれた人が良かったのかもしれないな」


「その人って、さっき言ってた、拾ってくれた人ですか?」


「ん?ああ、そうだ。俺達はその人に助けられて、そして俺はここに居る。今俺がここに居るのも、奴のお陰なんだと思ってるよ」


「そ、そうなんですね……『達』?」


 メリダが小さく呟き、そして違和感を感じたように宏人の言葉を反芻する。

 その呟きに宏人は身体が強張るのを感じる。


 失言だ、そう宏人は心の中で思う。

 麻希の体質、魔力不足はこの世界では本来ありえないものだ。だからこそ、それが広く知られれば面倒ごとに巻き込まれるのは明らかである。

 目の前にいる少女がそれを言いふらすとは思えないが、人の口に戸は立てられない。どこから情報が漏れるか分からないのだから、慎重になるのは間違いではない。


「いや、気にしないでくれ。頼む」


「……」


 宏人がそう頼むと、メリダは何か察したのか暗い顔をした。その表情が何に起因するものなのかは宏人には分からないが、これ以上突っ込まれる事が無くなったため良しとする。



 そして、それから他の三人が来るまで二人の間で会話が交わされることはなかった。



 ◆



 失言だ、そうメリダは思ってしまった。何気ない一言、それはヒロトにとって踏み入れられたくない内容だったのだろう。現に彼はメリダの隣で気まずそうにしていた。

 彼の言った『俺達』という言葉。それがどんな意味を持っているのかも深く考えずに追求した自分の愚かさ、それをメリダは自分自身で叱責する。


 ーー今彼が一人でいるのは何故なのか


 考えられるのは、元々彼一人である事。だがそれは先ほどの『俺達』という言葉から除外できる。

 もう一つ考えられる事、それは彼以外にいた人物がとある理由でいなくなってしまった事だ。その無数にある理由の中で最も確率の高いものが、『死』だ。


 冒険者としてある程度の経験を積んだ自分でも、死はすぐ隣に存在する。だが自分は常にその場に身を置いているわけではない。仕事を終えれば街に戻り安全を確保するだろう。それに自分には頼れる仲間もいた。

 対して彼はどうだろうか。


 先程会話した中で、彼はこの森の中で暮らしてきたと言っていた。それも、決して短くはない時間を。この森は街に比べ危険度が高く、気を抜いていられる暇などない。たしかに、彼程の実力者ならばまだいいが、彼の仲間が彼程実力があったとは限らない。

 それに、この森にはかのドラゴンが住んでいる。そこらにある森とは危険度が段違いだ。

 そんな場所に住み、そして常に死の気配を感じ、気を休め事のできない場で果たして自分は生き延びることはできるだろうか。一瞬の判断で生死が決まるそんな状況下で。


 答えは否である。そして、自分に出来ないのであれば、それは可能性として確かに存在するという事である。

 それを自覚し、メリダは更に深く闇に囚われる気がした。


 そして二人の間に会話が無くなって、永遠とも思える程の長い時間が経過した時、森から音を立ててマルクスが出てきた。

 それをメリダは救世主が現れたと言わんばかりの輝いた目で迎える。そのメリダの瞳に何を感じたのか、マルクスは両手に提げている赤く大きい実のリムの実を自慢げに掲げた。



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