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最終章 俺の愛しのキリングガールズ

 決戦の日の朝。

 俺たちは三人で食事をとり、戦いに赴くための準備をしていた。

「場所は俺が通っている学校だ。誰がメセル・ギ・デスかという見当もついている。とりあえずは問題ないな」

 居場所も人物もわかっている。これであとは学校に向かうだけだ。

「いえ、問題はあります。奴の倒し方です。執行者の間でも長年の謎でした。残念ながら、歴代の処刑人の中で奴と対峙して生き残った者はいないのです」

 俺の知っている限りだとルカの父親が死に、ベリアルが生き延びた。だがベリアルは奴を倒せていない。ベリアルの助言は誰か一人が必ず死ぬ……だったな。

「お父様は無謀な戦いをする人ではなかった。つまり、メセル・ギ・デスを倒す方法には気づいていたのだと思うの」

 だとすると、方法はわかっていたが失敗したということか。

 他にも情報があったな。あれは確か小憎らしい小悪魔リリンの助言だ。

 奴には実体がない。肉体の破壊で奴は倒せない。それを受け入れろ。……だったな。

「くそ、どんな数式よりも難しいな。答えがまるで出てこない」

「やはり直接対峙して、戦闘をしながら考えることになるのでしょうか」

 それだと危険が多すぎる。今までの敵は明らかにこちらよりも格下だったからその戦法が通じたんだ。だが今回はそうもいかない。罪の意識の集大成。番外悪……。

 肉体の破壊は無意味、ルカの親父の死の理由、実態がない罪そのものという存在、それを受け入れる。

 俺が持てる全ての知識を駆使して答えを探す。

「受け入れる……そうか! やはりルカの親父さんは間違っていなかったんだ」

 俺の頭に一つの答えが導き出された。

「何かわかったのですか?」

「おうっ! 二人共いくぞ!」

 ルヅキの問いに俺は力一杯答えた。



 通い慣れた通学路を歩き、学校へと向かう。

 今日が休日でよかった。罪の無い人を巻き込まないで済む。

 俺たちは閉じられていた門を軽く飛び越え、校舎の中へと侵入する。

「ここにいます」

「うん。私も感じる。もの凄く邪悪な力」

 ルカとルヅキが反応を示したのは職員室。

 中に入るため、扉に手をかけるが腕が震えて動かない。

 ここまで来て俺は恐怖しているのか。

「安心してください。あなたは一人ではありません」

「そうだよ。私のおじい様にも言ってくれたでしょ? 三人なら絶対に勝てるって」

 ルカとルヅキが俺の震える腕を支えてくれた。

 そうだな、俺は一人じゃないんだ。もう怖くなんてない。

 俺は二人の力を借りて扉を開けた。

「やはり来たか。君は賢いからいずれは来ると思っていたよ」

 俺たちを迎えたのは一人の教師。以前俺が公園で出会った男だ。

「先生、あなたがメセル・ギ・デスだな」

 自信はあった。まず間違いなくこの男が番外悪だ。

「正解。君が公園で僕に妙な質問をしてきた時点でこうなることは予見できていたよ」

「ああ、窒息死か失血死かのあれですか。実はあの問答自体にはなんの意味もないんですよ。俺は最初にあなたを見た時点で、あなたのことを疑っていましたから」

「ほほう、それは興味深いね。聞いてやるから理由を言ってみたまえよ」

 小さく息を吸い、そしてゆっくりと口を開く。

「クチナシ、花言葉は幸福。献花にするような花じゃない。それにルヅキが言っていた、メセル・ギ・デスは人の心を弄び、殺し合わせることに喜びを感じると」

 俺の推理を聞き終えると、教師は大げさな手つきで拍手をし始めた。

「ご名答。さすがは兄弟、だが正解であって正解でない。そんな答えもあるんだよ」

「なに?」

「誰の心にも僕はいる。この世の誰もがメセル・ギ・デス。私は君だったこともある」

 奴が俺だった? 俺を惑わすための罠なのか、それとも……。

「くだらない与太話だ。現にあなたはそこに存在している。今からあなたを劉します」

「そうね。それだけで十分だよ。お父様を殺したこと、後悔させてあげる」

 ルカとルヅキが同時に殺気を放つ。どちらもすごい迫力だ。

「劉す? 後悔? 私には無縁の概念だ。私は死なないし後悔もしないんだ」

 魔界でも最高の力を持つであろう二代目ベーゼル・バーグと虚言の王ベリアル。その二人が協力しても倒せなかったという事実がある。奴の言っていることは真実だろうな。

「……少なくとも二代目はお前を倒す手段に気がついていた。そうだな?」

「やはり君は賢いなあ。では君も試してみるかい?」

「当然だ。こいよ、俺が相手になってやる」

「惜しい、劣等種族にしておくには実に惜しい人材だ。それでは仲良くしようじゃないか」

 教師の体から飛び出したのは罪という概念。それが一直線に飛んでくる。

 俺の中にメセル・ギ・デスが入ってくる。これで戦う準備は整った。

「ルカ、今の俺を殺せばメセル・ギ・デスを葬れる。お前は俺を殺せるか?」

「殺せ……ないよ」

「じゃあルヅキは俺を殺してくれるか?」

「そんなこと……できるわけがない……」

 それでいいんだ。この答えだと五十点なんだからな。

 今俺が提示した答えは二代目が辿った道。二代目とベリアルはこれで倒せると思い込み、メセル・ギ・デスを取り込んだ二代目が死を選んだ。

 ベリアルが必ず一人死なないといけないと言ったのはこういうことだ。

「じゃあ別の質問だ。二人共、俺を信じてくれないか」

「「当たり前だよ(です)」」

 そして、今から試みる答えへの道こそが、全てを終わらせることができる最良の選択。

「ルヅキ、俺を俺の精神世界に飛ばしてくれ」

「え? はい。でも一人で大丈夫ですか?」

「俺を誰だと思ってる」

 二人を不安にさせないために、俺は精一杯の笑顔を見せた。

「私、信じて待ってるよ」

「ご武運を……」

「……任せろ」

 ルヅキがロザリオをかざす。

「ルカ、ルヅキ……いってくる」

 俺の意識は自らの深層心理の奥へと飛んだ。

 ――俺の心の空間。精神世界。

「やっと会えたな、メセル・ギ・デス」

「そう、私こそが本物のソロモン七十二柱における番外悪の七十三、生罪のメセル・ギ・デス」

 気味の悪い奴だ。顔が無限にある。いや、全てが大多数。虚妄の幻像。口で表現することなんてできないか。こいつは罪という存在概念そのものなのだから。

「お前、俺と勝負しろ」

 こいつは必ずノってくる。

「いいねえ。一度言われてみたかったんだな、それが」

「お前がどうして知っている」

「俺はお前だったこともあるんだぜ? 知らわけないだろう、兄弟?」

 こいつは俺のことをずっと兄弟と呼んでいるな。こいつと兄弟なんて反吐が出そうだ。

「……その言葉、さっきも言っていたな。どういうことだ」

「じゃあ逆に質問しよう。あの晩、誰が死んだ?」

「あの晩……俺が二人と出会った日のことか。なら死んだのは俺だ」

「違う違う、違うなあ。もっと深く、もっと掘り下げるんだ。ルヅキちゃんの言葉、思い出せるかい? 駄目みたいだな。なら兄弟の意識に流し込んでやろう」

『私の力は無罪の人間には効果がないはずなのに』『私の力は無罪の人間には効果がないはずなのに』『私の力は無罪の人間には効果がないはずなのに』『私の力は……』

 俺の頭にルヅキの声とあの時の映像が流れ込んできた。

「やめろ。一度聞けばわかる」

「おんやぁ? 密かに期待してたんだけどな。『うるせぇ』ってのをさ」

「……黙れ」

 勝負でイラついたらその時点で負けだ。クールになれ。

「黙らないよん。あともう少しだけ思い出してご覧? あれはいつだったかなぁ? そう、庭でバイクを修理していた頃だねー。原因不明の不定愁訴が云々のあれあれ」

「まさか……お前が俺の精神病の原因だったのか?」

「私はね、心に罪の意識がある人間の精神世界を自由に行き来できる。つまりは全ての人類。罪の意識のない人間なんて存在しないからね。だから一時期、私は君の中にいたこともあるんだよ」

 思い出したぞ、確かにこいつは俺の中にいた。あの晩、俺を導き、ルカを助けろと言った声の正体はこいつだったのか。

「君の思考は実に興味深かった。孤高の天才、常に理にかなった選択をし、面倒事を避ける。そういう人間は普通、正義の味方を忌み嫌う」

「ならそのとおりだな。俺は天使よりも悪魔、正義よりも悪のほうが性に合う」

 そのおかげで俺はあの二人に巡り会えたわけだしな。

「そうだね、君は心からそう思っている。だが性根は違ったようだ。私は君の後押しをしたが、強要はしていない。私の『助けろ』という助言に君は自らの意思で行動したんだ」

「お前も馬鹿だな。そんなことを調べるために俺と一緒に死んだのか」

「正確には君も俺も瀕死になっただけだ。俺は命からがら逃げ出したけどもね。いやあ、それにしてもすごいね、執行者の処刑の力は。罪の意識の塊である私には本当に効いたよ」

「逃げ出したのであるなら何故、その後の俺の言動を知っている」

「きみの中に残留思念を置いておいたんだ。二代目ベーゼル・バーグの娘を見たときにピンときた。こいつは使えるとな」

 つまり、俺はこいつの計算通りに踊らされていたわけか。

「ルカをどうするつもりだ」

「別に……あの娘に興味はない。だがその家名は大いに意味がある。幸いにも君のおかげで簡単に手に入りそうだしな。人間界を滅ぼしたら次は魔界だ。そのための力が必要でね」

 こいつと会話をしていると頭がおかしくなりそうだ。憎しみの感情しか湧いてこない。

「……このクズ野郎」

「ホッホ、悪魔のワシにそれは褒め言葉だとは思わんかね? なぁ、少年よ」

 さっきからこいつの口調がコロコロ変わっている。一体俺は今誰と会話しているんだ。

 いかん、惑わされている。このままでは奴の思う壺だ。

「お前の魂胆が読めた。俺の体を乗っ取り、ベーゼル・バーグの家名と軍事力を手に入れるつもりなんだな」

「あなたを乗っ取る? 違うよ。私は個であって群、罪なんて形のない存在でしょう? つまり、あなたが私の一部になるのよ」

 こういうやつのことを話にならんと言うのかもな。

 まあ、なんだ。要するに俺がこいつをぶっ飛ばして全て終わりだな。

 よし、わかりやすい。

 ――戦るか!

「……戦う前に言っておくことがある」

「ああ、ああ。自分を鼓舞するアレか。いいよ、聞いてやる」

 どこまでもやりにくいやつだな。

「俺はお前の万倍強い」

「じゃあ俺はその億倍強いかなー」

 魔力を集中、そして拳を握り込む。

「やればわかるさ、そんじゃあいくぜ」

「こいよ、蝿男(フライボーイ)。仲良く遊ぼう」

 先手必勝!

 魔力を込めた左ストレートを奴の顔面めがけて繰り出す。

「なっ……に!? すり抜けた……だと」

 俺の拳は奴の顔面に直撃した。しかし手応えがまるでない。拳が奴の顔面から後頭部に抜けていたんだ。実態がない……こういうことか……。

「――いつっ!?」

 突如、右肩に激痛が走った。俺の肩に何かが喰らいついている。

「あっはははっひゃ、楽しい、楽しい! 殺すのタノシー!」

 奴の姿が変わっている。銀色の獅子、楽(ファニー)なのか。

 地面を凄まじい速度で駆け回る獅子に何度も攻撃を繰り返す。

 だめだ、かすりもしない。

 俺の攻撃は当たらないが、獅子の攻撃は的確に俺の体を傷つけていく。

 初日に戦ったときより明らかに強くなっている。

「当たれええええーっ!」

 気合を入れて繰り出した左ストレートが難なく止められた。

「あー、弱ええ、弱えよ、弱すぎるよなぁっ!」

 またしても姿が変わっている。この騎士は……怒(アグリー)だな。

「おいっ、お前っ、あの女がっ、いねえとっ、ただのっ、雑魚かよっ!」

 俺の体を殴りつけ、蹴り飛ばしながら怒が叫ぶ。

 拳、蹴り、一撃一撃がとてつもなく重い。

「それにしてもお前、あの女のことばっか考えてんのな。この俺様のことをボロ雑巾のようにしやがったクソ忌々しいハエ女のことをよ」

「ルカのことをハエ女って言うんじゃねえ!」

 怒りを乗せた右フックも容易く躱された。

「おっとっと、あの頃よりも遥かに力強く、逞しくなっていますねえ。勇猛果敢なあなたの鬼気迫る姿に動揺を隠せませんよ」

 この口調、哀(モンルゥ)か。

「それにしても楽しかった。女性が苦手なあなたが、だんだんとルカさんに心惹かれていき、互いに想い合うようになるまでの軌跡は。まるで青春映画でも見ているかのようでしたよ」

 哀の右腕に光が収束されていく。何か仕掛けてくるな。

「あのときは邪魔が入りましたからね。今度こそ、私の手で死になさい」

 あのときと同じ、閃光のような突きだ。

 本当に光のような速度だな。だが俺には一度見せた技は通じないぞ。

 俺は円を描くように身体をさばき、哀の背後に回り込んだ。

「なんですと! 私の突きが躱された!?」

 愕然としている哀の腕を取り、そのまま締め上げる。

「俺は死なねえ。俺が死んだら誰がルカを笑わせる、誰がルヅキを抱きしめてやるんだ」

「グッ……ガガガガァ……」

 苦しみ藻掻く哀、戦闘が始まってから初めての手応えだ。

 瞬間、俺の体が宙に浮いた。状況がわからないままに地面に叩きつけられる。

「安心しろ。君の精神が死んだら、我々が君の肉体で彼女達を楽しませてやる」

 この声は罪人を食ったあの男だな。そうか、取り込まれてしまっていたのか。

「あいつのことを笑わせられんのは俺だけだ。ベーゼル・バーグ・ルカは……俺だけのもんだっ!」

 起き上がりざまにアッパーカットを繰り出すが、奴の顎を捉えることはできなかった。

「面白い、まだそんな力を残していたか。だがここらで終幕としよう」

 男が右手をかざす。

 ズバッ!

 突然の風切り音。俺の体に衝撃が走り、数メートルほど飛ばされた。

「衝撃波……なのか」

 肋骨が折れるかと思うほどの衝撃だ。こんなのあと何発も耐えられないぞ。

「どうだね、罪の意識の弾丸は」

 歩いてきた男が冷笑気味に言い放った。

「こんな豆鉄砲じゃ俺は倒せねえぜ」

「そうか、では下手な鉄砲なんとやらを試みてみよう」

 男は再度手をかざし、執拗に俺の身体に衝撃波を浴びせる。

 俺の体が軋みを上げる。再生が追いつかない。意識が……朦朧としてきた……。

 ダメだ……勝てねえ。俺はここまでなのか。俺はルカとルヅキを守れないのか。

『私はあなたを信じているから』

『弱音を吐くなんてあなたらしくない。私はあなたの勝利を確信しています』

 これは……幻聴、か? いや、違う、間違いなくあいつらの声だ。

「そろそろ諦めたまえよ。劣等種族にしてはよくここまで持ち堪えた、褒めてやるよ」

 俺はお前に負けてやるわけにはいかねえんだ。考えろ、勝つための答えを。

 あいつらを守るために……両親を救うために。

 ……まてよ、ここは俺の精神の中なんだよな。

「お前……負けるぜ」

 バラバラになりそうな身体を奮い立たせ、今出せる精一杯の声で奴に言った。

「ハッタリは手の内を知らない人間に使ってこそ意味があるんだぜ、兄弟」

「ハッタリかどうか、その目でしっかり確かめな……」

 左手を静かに床へとつける。

 さぁ、いくぜ。これで終わらせてやる。


 “――融結(アジャスト)!――”


 俺の体が真紅の光に包まれていく。どうやら俺の考えは間違っていなかったようだ。

「なっ、なんだ、なんなんだ、お前は……」

「……ハエ男」

「何が起きた。この強い心は……そうか、貴様自分の防衛本能と融結を……」

「そうだ、俺は自分の防衛本能を支配した。罪人にできて俺にできないことはない」

 俺は自身の腕や足をみる。真紅の装甲、背中には翼? いや、翅だな。があるのを感じる。顔も触ってみる。コツン、無機質な硬い感触、まるでフルフェイスのヘルメットでも被っているような感覚だ。今の俺を鏡でみたら、きっと特撮番組のヒーローみたいなんだろうな。いや、ヒーローは性にあわない。俺は悪魔でハエ男だ。

 力が溢れ出てくる。俺の心が、精神が、本能が奴を倒せと言っている。

 ……ドクン、ドクン。爆発しそうな心臓。だが心地のいい高揚感だ。よし、やるぞ。

 ダッ!

 奴の懐に一気に潜り込み、腹部に猛烈な連打を叩き込む。

「グォ!? なぜだっ……なぜ俺に攻撃が当たる!?」

 文句のない抜群の手応えだ。これならいける!

「俺は自分の精神世界、防衛本能を掌握した。つまりは空間の支配、そこに寄生しているお前も俺の肉体の一部に含まれる。今、この世界は俺の意のままだ。……わかるな?」

「そっ、そんな馬鹿な……ガゥアアアアオオオッ!」

 たまらず奴が空へと逃げる。逃がすつもりはない。俺も翅を広げて宙へ舞う。

「お前には地面がお似合いだ」

 奴の頭上まで一気に飛び、渾身の左ストレートを叩きつける。

「ガアっ、なぜだ、劣等種族なんかに俺が負けるわけがない、負けてたまるかああっ!」

 大地に落ちた奴の姿が瞬時に消える。

 本当に消えるわけがない。速くて見えないだけだ。気配を探れば見つかる。

「お前は今、再生できない俺の右肩を左の手刀で狙っているな」

「なっ? なぜわかった」

 背後から奴の声が聞こえた。

「ハエ男の目からは逃げられねえんだよ」

 俺の視覚に変化が起きていた。全風景、三六0度全てを見渡せる。もしかすると昆虫の複眼ってやつか? ハハッ、完全にハエ男になっちまったな。

「くっ……死ねえええええ」

 苦し紛れの奴の右、俺は振り向きざまに奴の顔面にカウンターの拳を打ち込んだ。

「グヴォ!! あぁ? ゴエッ……ガハァ……」

 このまま一気に畳み掛ける。

 ガードの上から連打、連打、連打、奴のガードを弾き飛ばし、ボディに右拳を打ち込んだ瞬間に左拳を振り上げる。

 ――ズバァァアアン!!

 奴の体がゴムマリのように大地を跳ねる。

「ぐっ、紅蓮の……悪魔。本物の……悪魔だ……くるな……寄るなぁ」

 倒れ込んだ奴に近づくと突然泣き言を言い始めた。

 目が完全に怯えている。どうやらこいつはここまでのようだな。

「これでお前は終わりだよ。融結(アジャスト)……」

 メセル・ギ・デスの額に手を当て、能力を発動させる。

「たっ、頼む、許してくれ。もう悪いことはしない……心を入れ替える。見逃してくれ」

「……あぁ、赦してやる。いけよ……兄弟」

 俺が額から手を離すと、メセル・ギ・デスは勢いよく飛び立った。

「ハッ! この甘ちゃんが、後悔するなよ! いずれ必ず復讐してやるからな」

 メセル・ギ・デスが俺の体から抜けていく。

 俺があいつを倒すわけにはいかねえからな。

 意識を粒子に変換し、メセル・ギ・デスを追い外に出る。

 ――俺の意識が覚醒する。

「どうなったの?」

「俺が負けると思うか? ――出てくるぜ」

 駆け寄ってきたルカの頭を撫でながら、俺は奴が飛び出してくるのを待った。

 俺の体から靄が飛び出す。靄は意思があるかの如く宙を旋回している。

『今回は不覚を取ったが一年だ。一年で力をつけなおし、必ず貴様らを葬ってやる』

 させねえよ。お前はここで消えるんだ。

「ルカ、ルヅキ、最後の審判だ」

「うん」

「はい」

 後は任せたぜ。

「「判決(ディサイド)ッ!」」

 ルカとルヅキが手と手を重ねて叫ぶ。

『はん、馬鹿が、俺はこれから逃げるんだよ! 審判なんざ必要ねえっ』

「――俺は勝算の無い勝負はしねえ」

『なっ、なんだ? 体が……動かん……』

 お前は俺に……支配されている。

「「処(デス)――」」

『まっ、待て、頼むから待ってくれ。俺はソロモン七十二柱、番外悪、生罪のメセル・ギ・デス様なんだぞ』

「落ち着けよ。判決はまだ下っていない。悪いが控訴はその後だ」

「「――刑(ペナルティ)!!」」

『チクショォォオオオオオオオオオオオオーーッ!』

 ルカとルヅキの腕から放たれた断罪の弾丸がメセル・ギ・デスを包んでいく。

 こうして罪の意識の塊は、ルカとルヅキによって処刑された。

「終わったな……」

 放心状態になっていた二人に近づき、頭を撫でてやる。

「あっ、あの、ありがとうございます。これで私の役目は終わりました」

 それは違うぞ、ルヅキ。ようやく始まったんだ。

「これで晴れて自由の身だな。これからは幸せに生きるんだぜ」

「……いえ、私の身柄は執行者機関のものです。これで自由になれるとは思えません」

「いいや、お前は自由だ。もし執行者ってのが、お前に処刑人を続けろと言うのなら、今度は俺が執行者機関を処刑してやるよ」

「本当にあなたは無茶苦茶な人ですね……」

 ルヅキが俺に優しく微笑む。こいつの心からの笑顔、初めて見られたな。

「お父様……ルカはやったよ。メセル・ギ・デスを倒したんだよ」

 ルカは父親に勝利を報告していた。きっと親父さんも喜んでるよ。

「今までよく頑張ったな。偉いぞ、ルカ」

「うん!」

 ルカが胸に飛び込んでくる。俺はそれを優しく抱きとめた。

「あっ、あの……」

 ルヅキが俺の服を引っ張っている。

「どうした?」

「私も……いいですか」

「ああ、いいぜ」

 ルヅキはパアッと笑顔を作って俺に抱きついてきた。

 こいつもよく笑うようになったな。いいことだ。

 俺はこいつらの笑顔が好きだ。こいつらと一緒にいる時間がたまらなく好きだ。

 これからもずっと一緒にいたい。これからも守ってやりたい。

 メセル・ギ・デスを倒すまでと言ったのは俺だが、それでさよならなんて、できるわけがない。

 なら、俺がこいつらに言うことは一つだよな。

「おい、ルカ、ルヅキ。これからも俺の家にいてもいいぞ。……いや、俺とずっと一緒にいてくれ」

 俺の顔を見て二人はニッコリと微笑んだ。

「「うるせぇ!」」

 ああ、俺も嬉しいよ。        


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