猫は尊い
「ふむ⋯⋯まぁ、こんなもんか?」
俺の名前は志木村優希、24歳のイラストレーターのただの一般人だ。
俺は今、暇つぶしに書いた猫のイラストの最終確認をしながら次に何を書くかと悩みながら、部屋に1人、液タブを見つめている。
『──でも、行ってみたはいいものの、何故か全然猫ちゃん達が私の前に集まってくれなくて⋯』
《猫にさえ嫌われてるんだ⋯》
《前も動物に懐かれづらいって言ってたもんね》
《前世で猫にとんでもないことでもしたのでは》
『そんなわけないよぉーー!!』
正面から声が聞こえ、俺の視線は自然とパソコン画面に行く。
聞こえてくるその声の正体は、最近見始めた御堂夕陽ちゃん。
大手VTuber企業のNEOに所属している子で、NEO2期生のチャンネル登録者は64万人の超大物。
人と遊んだり話したりすることが大好きな子らしく、人当たりもよくリスナーの声に応えようと努力している姿が人気で、実際見ていてもいい子なのが伝わってくるし、納得の数字だ。
そんな子の配信を耳に流しつつ、イラストをSNSに投稿するためにとぅいったーを開く。
「猫を描いたんだから猫って書いて投稿でいっか⋯⋯それにしても、このアカウントもだいぶ伸びたなぁ⋯⋯」
投稿ボタンを押し、自分のフォロワー数をみながらぼんやりと言葉をこぼす。
0から始めたものが、数年でいつの間にか11万人まで伸び、コメントを見てみると【冬さんの絵好き!】などの嬉しい声をよく見かけるようになった。
冬ってのは俺のとぅいったーのペンネームで、冬が好きだからそのまま冬って名前にした。
「さて、と⋯猫カフェの予約時間そろそろだったかな」
何を隠そう俺は生粋の猫好きで、日常的に猫カフェへよく足を運ぶぐらいには猫を愛してやまず、今日もその足は猫カフェへと向かって歩き始める。
「そろそろ着くな⋯今日こそあの黒猫を懐かせてみせる!」
猫カフェの距離が残り目と鼻の先ぐらいになり、前回来た時に全く懐いてくれず、いつもどこかへ消えてしまった黒猫のことを考える。
あんまり猫に好かれない夕陽ちゃんとは違い、俺は割と猫に好かれる体質なはずなのだが、あの猫だけが懐いてくれずで、そんな様子にむしろ俺の闘争心は燃え上がっている。
そんなかんやで店の前の信号で止まり、信号が変わるのを心待ちにしていると──
「あ⋯黒猫だ、あの猫カフェの子?」
可愛いで脳内が埋め尽くされた。
車道にいるなんて危ない、信号が変わったら道に連れ戻してやろう⋯⋯ん?
信号が、変わったら⋯!?
「あ、あぶないっ⋯!?」
止まる気配のない車が突っ込んでいるのを見ると体が勝手に動いてしまい、慌てて猫を抱きよせ車に轢かれるのを助け出せた⋯のだが──。
「うぐっ⋯⋯!」
自分の体に気を回す余裕はなく俺は轢かれ、地面に倒れる。
「みゃぁお?」
「お⋯⋯お前は、無事か⋯よかった」
いや全然良くないが、何も知らない黒猫は俺の手を舐める。
「っ⋯⋯」
少しでも長く意識を保ちたかったがもう、限界だ。
瞼が閉じては開き、閉じては開き⋯限界といってるかのように瞼が重くなり、俺はそこで意識が途絶えた───。
「⋯⋯はっ!?」
おはよう世界、なんて呑気な事を思いながら目を開け、起き上がる。
「夢⋯⋯だったのかな」
それなら、本当に良かった。
まだ猫を十分に堪能してないし、VTuberにせっかくハマったのにまだ満足に見れていない。
それに⋯⋯せっかくNEOから依頼が来て描いた俺の娘となる子の初配信も、見れてなかったし。
「⋯⋯⋯?」
何かがおかしい、起きてからどこか明らかにひとつ、変な部分が⋯⋯。
「あ、あー⋯⋯!?」
その原因の主である声を出してみると、これはこれは可愛い声⋯⋯じゃなくて。
「女性の、声⋯⋯俺、どうなって⋯⋯!」
よく見ると服装もおかしい、適当にズボラな服を着ていたはずなのに、買った記憶のない可愛らしいパジャマまで着ている。
そこで俺は慌てて鏡を確認してみると⋯⋯
「わお、可愛い⋯⋯じゃなくて!お、女の子になってる───!?」
鏡の前に目をぐるぐる回しながら立っているその女の子は、冷静に見れば見るほど可愛く見えてきた。
透明感やツヤのある黒髪ロングに、少しつり目に見える綺麗な目、黒目や、それに手入れを感じる肌。
VTuberやアイドルの人だと言われても納得のいくぐらいには何もかもを持っているが、その中身は俺で──
「いやいや⋯何事⋯!?」
猫カフェに行こうとしたら猫を庇い轢かれ死んで、夢かぁ⋯と思いながら違和感に気が付き、鏡を覗いてみると女になってて⋯⋯いや、何事⋯?




