エピローグ「名もなき大地が至高の国となる日」
季節は緩やかに数度の移ろいを巡り、吹き降ろす風の底面にあたたかい日差しがより色濃く染みわたる季節にさしかかった。
見捨てられていた赤茶けた大地――かつて荒野の名前すら記憶に埋もれていた区画は、すでに一つの独立の巨大国として完全に星の一部にある核となっていた。
数百のテントは強固な白い練石の屋敷群へと完全固定され、遠方から訪れる商人の足や難民の大いなる拠り所としての門構えが空高く取り付けられている。
カイ自身が開いた畑地の面積は、元々の敷地全域を遥かに飲み込むほど広がり、周囲の山まで自国の農道のように大樹の道が美しく手配されている。
彼にとってはただの住人が増えて手狭になったから、裏庭の野菜区画をすこしだけ山のほうの余っている場所に伸ばしただけの趣味程度の行動に過ぎなかったが。
それに伴って引かれた一本の結界の拡大と改定は、世界最大の隣国の王すら不可侵条約を持参して直筆にて恭順を示してくる威光を帯びてしまっていたのだ。
今日の快晴。
広い畑の中腹の小高い庭からの景色は最高に見晴らしがよい。
カイの手によって少しずつ広げられた芝草の毛布の上に。
カイはリラックスしたように両腕を後ろに伸ばし深く息を据えていた。
そのすぐ真横の左側、ルシアは細かく作り入れられた刺繍入りの衣服を丁寧にたたみつつ、彼の空けられたままになったお茶用の温かいカップに水差しをしている。
さらに反対側の少し下がった場所から。
フェルリスが籠の中にある数多の色美しい果実を彼の前に嬉々としてより分けて置いていた。
「もうこんなところまで開墾できるとは、やっぱり土がいい土地は見込んでいて正解だったな」
彼が満足している自負は、いかに優れた土壌観察を持ちあわせたかという開拓民としてのみへの素朴すぎる着地点に集約されてしまっている。
彼の視界を透過するステータスの板はすでにもう何か大きな目的で開かれることは長らくなかった。
もう周囲にある生命がみな安定の中枢値に貼り付いており、誰一人として悲嘆となる数字を作ってしまう不安すら生じさせないのだらか。
「カイ様が選ばれた最初の一片の石の記憶こそが全てです。あの日。迷宮でお与えくださった大きな魔法の手順より。何もかもはあなたのために」
柔和に見下ろす微笑みのまま、ルシアは身体を彼の腕のそばまでそっと思いを寄せるように預けた。
フェルリスもまた魔の頂を完全に忘れたかのように、彼と並ぶ草の匂いを嗅ぎつけてもう一度静かに微笑を含んだ息を流した。
「ああ、平和で何よりだよ。飯の種さえしっかり育てていればもう誰も飢えずに済むことだし。やっぱり土仕事が最終的に全ての一番の拠り所なんだよな」
どこまでも彼だけの真実。
誰もそこに反論するものはいない。
王都の奥深くから投げ出され、不用品としての最果ての追放を与えられたあの一日は。
こうして誰かのすべてを根幹からあからさまに書き換え、微笑みという名のカタルシスの頂上へ君臨することになった物語への第一門標だったに過ぎない。
ただの風の流れの間に、世界に何もない青年と称された男の神域はこれ以上何も書き換え続ける必要がなくなったのだ。
誰もが笑顔で暮らす至高の国の庭先からの静かな風が彼ら三人の髪と肩をなでつけ、見守るだけの透明な青空へ融合して輝きの色をさらに高くしていった。
その光景の向こう側は。
ただ幸福の文字だけが全ての人の額に輝き始めるという、優しい余韻だけを一際強く残したまま未来を約束させたのであった。




