偉そうな7日 ≪訳のわからない拍手≫
本当におかしいのは、ばらばらの私たち。
偉そうな7日 ≪訳のわからない拍手≫
「しおりちゃん、来たのね?」
「こんにちは」
しおりは礼儀正しく頭を下げた。ぺこりとお辞儀をするしおりのもとへ、司書の先生がすぐに歩み寄ってくる。
「返却?」
「それもあるんですけど……この前の話、もしかして覚えていてくださったかなと思って……」
もしかして、なんて言葉をつけても、不安は消えなかった。あの笑顔は、ただのお世辞だったかもしれない。それなのに、自分は勝手に踏み込みすぎているのではないか。また何も考えずに、誰かを困らせているのではないか。
「もちろん」
けれど、しおりの迷いとは反対に、司書の先生は笑って手を差し出した。
「私は毎日、このカウンターからあまり離れられないでしょう? だから、しおりちゃんが聞かせてくれる話を、どれだけ楽しみにしているかわからないわ」
身に余る褒め言葉が照れくさくて、しおりは頬を赤らめた。
「座って話しましょう」
図書室のいいところは、ほとんど誰も来ないことだった。たいていの子どもたちが校庭や廊下に集まっている時間、しおりは司書の先生と並んで座り、おしゃべりをした。二人きりの空間なら、少しくらい話しても咎める人はいない。とはいえ、気の小さいしおりが大声を出すわけではなかったけれど。
「昨日はどうだった?」
「聞かないでください」
しおりはうんざりしたように、首を横に振った。
「水と光は毎回喧嘩ばかりで、チームワークどころか、一緒にいるだけでも大変なんです」
「あらあら、二人ともまた喧嘩したの?」
「はい」
「理由は?」
「水は日差しが眩しくて光に苛立っているみたいで、光は助けてくれない水が気に入らないみたいです」
しおりは先生からもらった紙コップを指先でもてあそんだ。中に入っていたココアが、落ち着きをなくしたみたいに揺れる。
「でも、こう言っても、理由なんてもう関係ない気がします。今はただ、お互いを見るだけで唸り合っているので」
しばらく黙り込んだしおりを見守っていた司書の先生は、そっと話題を変えた。
「私が貸した本はどうだった?」
「え?」
「おすすめはしたけれど、気に入らなかったらどうしようって、少し悩んでいたの」
「そんなことありません。すごく面白かったです。特に、主人公が自分の人生を『車輪の下』に押しつぶされているようだと表現するところが印象的でした」
しおりが熱を込めて感想を語っているあいだ、図書室の扉が静かに開いた。
(あれ、誰かいる?)
そっと周囲を見回したそらは、司書の先生と向かい合って話しているしおりの表情に目を留めた。
「本当に?」
「私もあの一節がとても好きなの」
「本当ですか?」
「ええ。私たち、本当によく似ているのかもしれないわね」
司書の先生が微笑むと、しおりも笑った。ためらうことなく、誰よりも素直に自分の感情を表に出している。それは、普段のしおりとはまるで違う姿だった。
いつも平坦な表情ばかり見ていたそらは、新しい事実に気づいて、思わず手で口を覆った。そして、図書室の扉の陰に身を隠す。
(樹色しおりって……あんなふうに笑うんだ)
そらが知っているしおりは、いつだって他人を警戒して、硬い反応ばかりしていた。
(私たちが戦っているロボットより、しおりのほうがロボットみたいだと思ってたのに。あんなに明るく笑うこともあるんだ)
そらにとって、しおりの感情表現はそれほど衝撃的だった。
(みんな、私の知らないところで、いろんなことを考えて、いろんな顔で生きてるんだ。それなのに私は……)
混乱していた。これまでしおりを表面だけで判断してきたそらは、自分が見てきたものだけを、ただの事実だと思い込んでいたのだから。
「ちょっと、そら!」
「え?」
廊下に響く大きな声に、そらは驚いて振り返った。
「何回呼んだと思ってるの?」
「な、何かあったの?」
「訓練だって。召集がかかったの。早く来て」
「他のみんなは?」
「泉みずえは先に車で行ったよ。あとは私たちだけ」
「私たちだけ?」
そらはちらりと図書室を見た。扉の向こうにいるしおりに、この話が聞こえていなければいい。そう願うことしかできなかった。
「何言ってるの? 行かないの?」
「いや、その……行くなら、みんなで……」
そらの言葉が終わる前に、図書室の扉が開いた。外に出てきたしおりは、当然のように二人を無視し、反対側の階段を下りていった。
(そういえば、今まで私たち四人で集まって、一緒に行ったことなんてあったっけ?)
そのときになって、そらはようやく気づいた。自分は一度も、しおりを迎えに行ったことがなかった。一人でやって来るしおりを、他の魔法少女たちは当たり前だと思っていた。そうするのが当然だと言わんばかりに。
「早く来て。私たちだけで行けばいいんだから」
サンがそらの手首をつかんだ。サンに引っ張られていくあいだ、そらは混乱した気持ちをどうすることもできなかった。
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「わざわざ呼び出した理由が、それだけですか?」
みずえは苛立たしげに前髪をかき上げた。
「私たち四人で必殺技を撃てってことですか? ロボットは何もしないで、ただ立っているだけ?」
「そうだ」
「何それ。訓練にもならないじゃないですか」
「はあ、本当に。汗をかくの、嫌なんですけど」
みずえはちらりとサンを睨んだ。
「合体技を使うと、無駄に光ばっかりギラギラして苛立つのよね」
「何?」
サンは目を見開いて、みずえを睨みつけた。けれど、みずえは平然とサンを無視する。
「あのエネルギーの塊も熱すぎて、肌が焼けちゃうんですよ」
「始めろ」
「でも……」
「命令だ」
「ちっ」
国家公務員の冷ややかな声に、みずえは不満げに唇を尖らせた。全員が顔をしかめる中、そらだけは別の意味で混乱していた。
(おかしい。私たち四人の合体必殺技なら、ロボットが耐えられるはずないのに。せっかく作ったロボットを、どうして壊そうとするの?)
「ねえ、そら!」
そのあいだに準備を終えた三人が、考え込んでいたそらを呼んだ。
「早くしようよ。私、家に帰ってアニメ見なきゃいけないんだから!」
「あ、うん。わかった」
そらまで準備を整えると、四人の足元に魔法陣が浮かび上がった。
「行くよ!」
「オッケー!」
「わかったってば」
「……」
四人は全力で、ロボットに必殺技を放った。けれど、真っ白な光が消えたあと、彼女たちの目に映ったのは、傷ひとつないロボットの機体だった。
「これって、いったい……」
そらは息を呑んだ。
(ロボットって、いつの間にこんなに強くなったの?)
いつも別々に動くばかりの彼女たちには、互いの力を測る機会がなかった。もちろん、全員でまともに練習する時間もない。だから彼女たちの目には、ロボットが突然強くなったようにしか見えなかったのだろう。
呆然と立ち尽くし、ロボットを見つめていたそらは、背後から湧き起こる拍手に、全身に鳥肌が立つのを感じた。
「お疲れさまでした!」
「これで完成ですね!」
(え? どういうこと?)
驚いたそらは、慌てて他の魔法少女たちを振り返った。
「みんな、何かおかし――!」
けれど、三人の少女はそれぞれ別のことに気を取られていた。
「あーもう、本当に! だから必殺技なんて使いたくなかったのに!」
少し焦げた髪を見つめながら、泣きそうな顔をするみずえ。
「だいたい光なんて、ピカピカ光るだけで何の役にも立たないんだから」
「あんた、それ本気で言ってるの?」
みずえの苛立ちに腹を立て、周囲など見ようともしないサン。
「……」
このすべてに、まるで興味を示さないしおり。
「やりました!」
そして背後から、絶え間なく聞こえてくる拍手喝采。すべてが重なり合い、ひとつの不協和音を奏でていた。




