偉そうな1日 ≪自分こもり≫
私はいつだってスター。
私の放つ輝きは、誰にも負けないわ。
偉そうな1日 ≪自分こもり≫
「いきなりなんですか、先生」
先生を完全に見下した目つき。苛立った声が響いても、先生には、黙って受け止めることしかできなかった。だって、この相手――何があっても『教え子』とは呼べない少女――は、ただの問題児ではない。目の前にいるのは、政府公認の魔法少女なのだ。腰に手を当てて首を傾げるその態度すら、先生には注意できなかった。
「泉さん、えっと、今日来てもらったのはね、ほかでもない、泉さんの仲間である樹色さんのことで――」
「ああっ、またしおりの話?!」
彼女、泉みずえは長い髪を乱暴にかき上げて、反射的に顔をしかめた。
「何度も言うけど、あいついじめられてるわけじゃないし、むしろ世界をいじめてるって感じだし~」
「泉さん、声が大きすぎます…」
「いじめとか、暴力行為ってわけでもないし、よくある『引きこもり』って感じでもないし……見てると、なんか一人でかくれんぼしてるみたいだし……」
ほんの少し考え込んだあと、みずえはぱっと顔を輝かせ、ぽんと手を打った。
「そう、まるで『自分こもり』だ!」
「泉さん、それは言いすぎです!」
「は?」
「…じゃなくて」
怒鳴りかけた先生は、自分の声が大きくなっていたことに気づき、慌ててトーンを落とした。忘れないようにしよう。相手は、政府から特別扱いされている魔法少女だ。何かあったら、勝ち目はない。
「泉さん、いつも皆に優しくしてくれてありがとう」
「ま、まあ…どういたしまして…?」
「だから、あの、樹色さんとも仲良くしましょう…?」
「先生」
氷のように冷たい声だった。
「遠足のバスの席のことだけど」
氷柱が砕けるような、鋭い声だった。
「どうして私の隣、いつもしおりなの?」
先生の腕に鳥肌が立つ。
「魔法少女はみんな仲間でしょう?だから、仲良くなればいいんじゃないかなってー」
「誰が決めたの、それ」
「それって、どれ…?」
「『みんななかよし』、『誰もが仲間』ってこと」
誰が決めたのよ、みんな仲間だなんて。笑っちゃう。あいつらと私は、住む世界が違うのに。
「私は、あいつらとは違うの」
もう話す価値もない。そう判断したみずえはランドセルを背負い直し、挨拶もなく教室を出る。残された先生はみずえの背中に手を伸ばしてみたが、すぐ手を下ろした。
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「わっ、みずえちゃん!」
「みずえちゃん、こっちこっち!」
下駄箱のそばで待っていた二人の女の子が、嬉しそうに笑いながら駆け寄ってきた。みずえは当然のようにランドセルを下ろした。すると、二人は慣れた様子ですぐにみずえのランドセルを受け取った。
「めんどくさっ」
「え、どうかしたの?」
「ゆきなのこと」
ゆきなは、三人のクラスを受け持つ担任教師の下の名前だ。本来なら、児童が呼び捨てにしていい相手ではない。
「あいつ、私たちにしおりを押し付けようとしてる」
「やだ…先生、最悪!」
「だよね」
みずえの言うことなら、二人は何でも信じた。どう見ても二人は『友達』というより『部下』のようだった。
取り巻きたちに持ち上げられたみずえは、いつの間にか先生が言ってもいないことまで勝手に付け加えていた。
「『三人だと一人あぶれるでしょう』とか、『しおりさんを入れて四人組にしたほうがいい』とか」
「そ、それって、まさか私たちがみずえを捨てるって…」
「そんなわけないのに!」
「ひどい……信じられない」
二人は怒り出した。みずえは驚いた。先生のことは大嫌いだったが、嘘までつくつもりではなかった。なのに、気づかないうちにこうなってしまった。
「う…」
今からでも引き返せるだろうか。どれだけ考えても、そんなことはできそうにない。今さら『嘘でした!』なんて言えるはずがない。絶対に軽蔑される。嫌われたくない。自分が嫌われるくらいなら、誰か別の人が嫌われるほうがいい。
(あの二人はもともと先生のことを嫌ってた。先生だって、どうせ気づきっこない)
「うそじゃないわよ!」
「ねえ、今のひどすぎじゃない?お母さんに言おうか……?」
「そう、そう!」
「そ、そんなことしないで!」
「え、なんで?」
「そうだよ。みずえが言った通りなら、ゆきな先生、学校に怒られるよ?」
駄目だ。このままでは。みずえの背筋を、不安がじわりと這い上がる。だが女王は、いつだって余裕を失わない。だから、崩れかけた心を必死に押し隠す。不安なんて、少しもないふりをして。本当の気持ちなんて、誰にも見せたりはしない。
「放っておいて」
嘘がバレたら今までのみずえは終わり。『傷のない美しい女王』は消える。だからみずえは嘘で嘘を覆う。
「いずれ自滅する敵に手を出す必要はない」
「さすがは魔法少女……考え方が違うね! 」
「厳しい女王みたい!」
「女王の域をはるかに超えてる!だって、人類最後の魔法少女の一人だもんね!」
2999年。地球に残った魔法少女は、四人だけ――。
21世紀を通して積み重なった汚染は、地球そのものを限界へと追い込んだ。自浄の能力を失った地球は、ゆっくり、けれど確実に壊れていった。人類をさらに苦しめたのは、突如現れた怪物『苦しみ』。
どこから現れたのか、なぜ現れたのか。すべてがベールに包まれている正体不明の化け物によって、人類は未曾有の危機へと追い込まれた。
そんな絶望の最中に現れたのが、魔法の力を持つ少女たち。彼女たちは魔法を使い、『苦しみ』を一体ずつ討ち滅ぼしていった。人々は、いつしか魔法少女に熱狂するようになった。
「そうだね。足も速いし、頭もいいし!」
「それだけじゃない。クラスで一番可愛い!」
「みずえちゃん、すごい!憧れちゃう!」
誰もが女王を称える。女王はその声に揺れたりしない。賞賛されることなど、女王にとっては日常の一部だから。
飽きもせず喋り続ける二人を、みずえはふと振り向いた。追いかけてきていた感嘆の声が止み、二人がみずえを見上げる。
「どこまで追いかける気?」
まあ、一緒に歩くとかなり楽しい。何をしても褒めてくれるし。だが、どこまでもついてくると、めんどくさい。
「え…今日は一緒に遊ぶ約束だったんじゃない?」
「水曜日の約束、忘れたの…?」
「私、疲れた。今日は休みたい」
「あ、ああ…そうだね…」
「そりゃ疲れて当然だよ!昨日も『苦しみ』との戦いで、大変だったよね?」
みずえは返事せず小さく頷いた。声を出すのさえ面倒だから。女王蜂の気持ちを察した働き蜂たちは、慌ててみずえにランドセルを返した。
「みずえちゃん、バイバイ!」
「また明日!」
二人の挨拶が終わる前、みずえは振り向かずに家へ向かって歩き出した。残された二人の気持ちなど、少しも気に留めずに。




