#15 偉大なお金の力
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テアミナはテフィの手紙に書かれてあった邸の裏の森にある小屋に向かった。
馬車に乗る前には街へ様子を見に行くと言ったものの、邸に着くとすぐに着替えてテフィの様子を見に行っていた。
相変わらず、面白い人だとマリーは思う。
小屋がやっと見えたところでテアミナは彼女にしては珍しく、大きな声を出した。
「テフィ!!」
姉が来るのを待っていたのか、テフィは小屋の外にいた。初夏とはいえ、この時期の夜は冷えるのにも関わらずだ。
「お姉様!!」
テフィもテアミナに気付いた途端に駆け寄って来る。相変わらず、姉妹仲が良さそうで何よりである。
テアミナは駆け寄って来た妹を腕の中で抱きとめて、頭を撫でていた。
「ごめんなさい。一人にしてしまって。そして、ありがとう。あなたのおかげよこの子たちが助かったのは」
そういつもとは異なり、気弱な声でそう言った。テフィは姉に褒められたことがよほど嬉しかったのか、向日葵のような笑顔を見せていた。見ているこちらも幸せになるほどに。
「お姉様!テフィは大丈夫です。それにテフィが勝手に行動したこと。お姉様に罪はないです」
そう言うテフィはどこか気恥ずかしそうだ。しばらくそうやって、抱きしめ合ったあと、二人は手を繋いで小屋へ向かった。
(本当に仲がいいですね。……自分の命の危険があっても、お嬢様はテフィ様のために事を『なす』方ですからね)
マリーは五年この二人を見ているが、喧嘩をしたところは愚か、互いの事を悪く言っているところを見たことが無い。
それはきっと、互いを尊敬しているからなのだろうと思う。
小屋に入ると、教会の孤児たちがいた。不安に震えている者もいれば、そうでなく走り回っている者もいた。
「みんな!!テアミナ様が来たよ!」
そう真っ先に気付いたニナが言うと、孤児たちは一斉に扉の方を向き、安堵の表情を浮かべた。
今まで子どもだけいたため、大小あれど心細さはあっただろう。泣き出す者さえいた。それに気付いたテアミナは「あら」と言って子どもたちを抱きしめた。愛情のこもった温かいものであった。
「テアミナ様。どうしてここに?」
ある一人の孤児が言った。
「あら?テフィから聞いていないの?」
首を傾げるテアミナに、皆は総じて縦に首を振った。テアミナはテフィを手招きすると、テフィの体を自身に引き付けて言った。
「テフィはね、私の妹なのよ」
ニナ以外は皆、「えぇ〜」と言う反応であった。ニナはというと、何か合点がいったような反応をしていた。
「テフィは貴方達のことについて連絡をしてくれたのよ。舞踏会があってこの事を知られなかったの。遅れて申し訳ないわ」
皆、驚きである。もちろん、舞踏会があったのにも関わらず来てくれたテアミナに対してである。と同時に、感謝の気持ちもあった。
「テアミナ様!ありがとう!!」
そう誰かが言うと、皆口々に「ありがとう!」と言う。とても微笑ましい様子である。
「ところで不思議に思うのだけれども……」
テアミナは妙に明るい子どもたちに向かって言った。
「神父様の心配はしていないの?」
そう眉尻を下げて言うと、子どもたちは元気いっぱいに次々に言う。
「神父様はムキムキだから!」
「前に酔っ払った男の人がね、教会に入って来て、暴れ出したの。でもね、神父様は、一発でバゴーンって!」
「あそこには農具もあったから、大丈夫だよ!」
きっと「あそこ」と言うのは襲撃があった場所であろうか。にしても、神父らしく無い物騒な話ばかりだ。全く、初めて会った時のあの憔悴しきった姿はなんだったのだろうか、とテアミナは頭を抱えた。
※ ※ ※
ジョアは侯爵領に戻ったあと、屋敷には帰らず、子爵領との境にある関所に向かった。
というのも、ある意図があるからだ。
ジョアはリルクと共に関所前で馬車を降り、そのまま衛兵がいる方へ歩いて行った。
関所は石を積み重ねて作られており、それが成人男性の身長、三人分ほどの高さまであった。ここでは普段、侯爵領から子爵領またはその逆の人、物などの往来を取り締まっている。故に、関所には数名の衛兵が常駐している。
それまで談笑していた衛兵たちはジョアに気付き、敬礼をする。
「面を上げよ」
そう言うジョアの声は柔和だ。しかし、その歳には似合わない威厳も孕んでいた。
衛兵たちは「はっ」と短く返事をして、顔を上げた。
ジョアは衛兵たちを見渡し、にっこりと微笑んだ。きっと、この場に令嬢がいたのならば、黄色い悲鳴が聞こえたのだろう。その微笑みを浮かべたまま、話し始めたのであった。
「少し、お願いがあってね。ここの関所に来た傭兵については皆、ここを通さないでくれないかい?」
そう言うと、衛兵たちは互いに目を合わせた。まるで、「どうしようか」とでも言うようにだ。どうしようも何も、貴族階級からの命令である。一介の衛兵が逆らえることはない。
つまり、ジョアが来る前にこの件について何者かの介入があった、という可能性が高い。
衛兵たちの反応を見てジョアは思った。
(うん。やっぱり。……僕の予想通りだったようだね)
「流石の私でも、無料で通すなとは言わないよ。通さなかった人数につき、君たちには褒賞を与える。……例えば、お金。そうだね、一人につき、金貨五枚はどうかな?」
金貨五枚。その言葉に衛兵たちの顔は明らかに違ったものになっていた。
金貨一枚は大体、農業を営む家の平均月収である。それはたまったものでは無い。
衛兵たちは決して、接待のためだけでは無い笑みを浮かべた。そして、リーダーらしき衛兵が言った。
「はっ。喜んでお受けいたします。」
「うん。期待しているよ。」
そう言うと、ジョアは馬車に戻って行った。そして、衛兵たちは先ほどより深く敬礼するのであった。
(やりたいことは一つやった。後は……)
そう考えて、ふと月を見たのであった。
(相変わらず、綺麗な月。)
そう、憎らしげに月を見つめるのであった。
日にちが空いての投稿になりました。
次の投稿も日にちが空いて、8/1になるかと思います。
連続投稿できず、申し訳ないです。ですが、是非、楽しんでいただけると幸いです。




