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無能と追放されたはぐれテイマー、実は【古のテイム】の継承者でした ~ブラックギルドを捨てて美味しい手料理を振る舞ったら、伝説の神獣たちが懐きすぎて世界最強のギルドができました~  作者: たくみ
第四章 レア食材探求〜腹が減っては厄災は防げない〜

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第78話:王都への出立

 二匹のドラゴンにより半壊したギルドハウスの居間に、死んだ魚のような目をした男が座っていた。


 王都軍務局から再び来訪した、特務調査官 ユリウスである。


「エルヴァン殿。まずは……この度のご結婚、誠におめでとうございます。セリア殿とお幸せに」


「だから誤解ですって! 街の連中どころか、ユリウスさんまで信じ込んでるんですか!?」

 俺の悲痛な叫びをスルーして、ユリウスは幽鬼のように呟きながら、震える手でドンッ! とテーブルに木箱を置いた。


 中には、最高級の霜降り肉と、特製のドライフルーツがぎっしりと詰まっている。


「……どうか、私に至高の癒やしを……」


『おっ、最高級ジャーキー持参とか、マヂ分かってるっしょ! 今日だけは特別に隣に座ってあげるし』


『しかたないにゃー』


 貢ぎ物に目を輝かせたハクビとノワールが、ソファに座るユリウスの両脇に、どっかりと腰を下ろした。


 右には、艶やかな黒い毛並みを持つ大型の山猫ノワール。

 左には、九本の見事な尻尾を扇状に大きく広げた美しい九尾の狐ハクビ。

 二匹はユリウスを両側から挟み込み、すりすりと身を寄せる。


「おおおお……っ! ああ、猫様……! 狐様……っ! 命の、命の洗濯です……!」


 ユリウスの目に強烈な光が戻った。大の猫好き・モフモフ依存症である彼は、両手で交互に二匹の極上の毛並みを撫で回し、完全にだらしない顔でデレデレととろけている。


 ……王都の夜の街にある、貴族御用達の高級夜会サロン。そこで美しい夜の蝶たちを両脇にはべらせて、高い酒を貢ぎながら鼻の下を伸ばしている客——そんな光景にそっくりだった。


「……ユリウスさん、軍務局の特務調査官としての威厳はどこに置いてきたんですか?」

 俺が呆れてお茶を差し出すと、ユリウスはノワールのお腹に顔を埋め、ハクビの尻尾を頬にすりすりしながら、深々とため息をついた。


「威厳など、あの説教の前では無力ですよ……。先日、王都の軍務将軍から直々に、通信魔導具で一時間以上も怒鳴られ続けましてね」


「ああ……なんだか、すみません」

 数日前に起こった、ギルドハウス半壊&巨大ドラゴン二頭お披露目事件。当然ながら、王都の軍務局にも即座に報告がいっていたらしい。


「『辺境の街に、あれほど強大な力を持つドラゴンが二頭も潜んでいたというのに、特務調査官であるお前はなぜ察知できなかったのだ! 無能か!』と、それはもう酷い言われようでしてね。……それにエルヴァン殿! ナイトメアを二十頭も引き連れて白昼堂々パレードするのも、常識的に考えてダメに決まってるでしょう!?」


「うっ……それは、不可抗力というか……」

 責め立てるように身を乗り出したユリウスは、しかし、すぐにすんっと真面目な顔つきに戻った。両手はしっかりモフモフを堪能したままである。


 ユリウスは、白竜であるファルの存在に、気がついていながらも、俺の獣魔達の事を案じ、軍務局への報告を隠匿していた。

 ユリウスは根が真面目な男だ。職務放棄をしてまで俺の従魔たちを守ってくれていたと思うと、頭が上がらない。


「でも、さすがに家をぶち抜いて巨大化したドラゴン二頭の隠蔽は、私にも不可能でした」

「厚意を無にしてしまい申し訳ない……」


「気にしないでください、私が勝手にやっていたことです。

 ……ところで、エルヴァン殿。その、巨大化したという白竜と黒龍を、私にも見せていただけないでしょうか?」

「あー、裏の庭にいますよ。ちょっと庭が埋まってはいますけどね」


◇◇◇


 俺たちは居間を出て、ギルドハウス自慢の広大な中庭へと向かった。


 そこには、かつて美しい花壇や芝生が広がっていたはずの庭を、文字通り「埋め尽くす」ようにして鎮座する、二つの巨大な影があった。


 一頭は、黒曜石のように輝く鱗を持つ漆黒の黒龍ゼノス。

 もう一頭は、純白の長い毛並みを優雅にたなびかせる白竜ファル。

 二頭は広大な庭の隅から隅までを使って、丸くなって日向ぼっこをしていた。たまにファルが尾を動かすと、庭木が一本なぎ倒される。


「おおお……なんという、大きさ……! そして、なんと美しい……!」


 ユリウスは驚愕を通り越し、感嘆の声を漏らしながらフラフラとファルに近づいた。その純白のロン毛に恐る恐る手を伸ばす。

 ファルは「がぅ?」と首を傾げたが、撫でられるのがすきなファルは、大人しく目を閉じている。


「この絹のような手触り! ドラゴンでありながら、この極上のモフモフ感……! 素晴らしい!」


 ファルのロン毛を堪能したユリウスは、今度は隣で微睡むゼノスの方へと向き直り、重厚な輝きを放つ鱗をうっとりと見つめた。


「黒龍のこの神々しいまでの迫力……。

 これほどの竜たちを『庭のペット』として飼い慣らすとは、エルヴァン殿、あなたはどこまで規格外なのですか……」

 存分にモフモフ分を補給したユリウスは、ふと軍務局の調査官としての顔に戻り、居住まいを正した。


「……さて。現実逃避はここまでにして、本題に入りましょう」

 ユリウスの懐から取り出されたのは、王家の紋章が蝋で封印された、重々しい一通の書状だった。


「国王軍からの、正式な召喚状です。

 ……ドラゴン二頭に、ナイトメアの群れ。これだけの戦力を個人で保有しているとなれば、国としても放置はできません」


「……だろうな。隠し通せなくなった時点で、こうなる気はしてましたよ」


◇◇◇


 翌朝。迷宮都市の正門前には、かつてない規模の見送り客が集まっていた。


「エルヴァンさん、どうかお気をつけて! 帰ってきたら、食堂の再建、手伝ってくださいね!」


「ああ、任せとけ」

 セリア、ニーナ、スオウの三人に留守を託し、俺は先頭に立つシリウスの背に跨がった。


「では、参りましょうか」


 俺の後ろには二十頭のナイトメア。そして庭から解き放たれ、空を覆い隠すほど巨大な白竜と黒龍が、悠然と羽ばたきながら付き従っている。


「……王都についたら、魔物の襲来だと攻撃受けないよな……」

 自分で自分にツッコミを入れながらも、俺たちは王都へ向けて出立した。


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