第68話:スイーツ巡りと、世界樹の根の噂
『世界樹の果実』という、雲を掴むような伝説のアイテムを探しに出たニーナとスオウ、そして二匹のモフモフたちは――迷宮都市の大通りにある、オープンテラスのカフェに陣取っていた。
「コォン♪」
白銀の九尾の狐――ハクビは、『季節の王都フルーツ特大パフェ』を前に、九つの尾をパタパタと嬉しそうに揺らしている。
言葉こそ分からないが、そのとろけるような表情からは「マヂで果汁エグい! 最高っしょ!」という歓喜の声が聞こえてきそうだ。
「ニャァ……♪」
漆黒のクァール――ノワールも、『三ツ星シェフ特製・幻の魚介テリーヌ』を上品に味わいながら、満足げに喉を鳴らしている。
伝説級の魔物と漆黒の暗殺者が、テーブルの上で優雅にスイーツとフレンチに舌鼓を打っている光景は、道行く人々の度肝を抜いていた。
遠巻きに人だかりができているが、二匹は全く気にする素振りはない。
「あはは……よく食べるね……」
ニーナは引きつった笑みを浮かべながら、手元の伝票をそっと裏返した。
(どうしよう……すでに金貨三枚分くらい食べてる。エルヴァンさんがいれば二匹の念話を通訳してストップをかけてくれるけど、私じゃ言葉が分からないから「もうおしまい!」ってタイミングが掴めない!
テイマーとしてはスオウさんの方が先輩だけど、『白竜の翼』に入ったのは私の方が先。それに、スオウさんはあの性格だし、ハクビちゃんには絶対に逆らえない……。
ここは先輩である私が、しっかり手綱を握らなきゃ!)
ニーナが心の中で密かに決意を固めていると、スオウが優雅にティーカップを傾けながら扇子を広げた。
「案ずるな、若き先輩よ! これも大いなる使命のための必要な投資!
真の美食を知る者こそが、究極の食材に辿り着けるのだ!
――すいませーん、この『黄金のモンブラン』をもう一つ!」
「スオウさんまで追加しないでくださいよ! もう、情報収集する前にお小遣い尽きちゃいますからね!?」
ニーナが慌ててスオウの追加注文を制止した、その時だった。
「……グルルルルッ」
ニーナの足元で控えていたノワールが、食事をピタリと止め、スッと目を細めて低い唸り声を上げた。
ノワールの視線は、カフェの向かいにある薄暗い路地裏へと向けられている。
「どうしたの、ノワールちゃん? 路地裏に何か……」
ニーナが目を凝らすと、路地裏の暗がりで、こちらを指差してコソコソと話しているゴロツキのような男たちが数人見えた。
ノワールの優れた聴覚が、彼らの不穏な会話を拾い上げたらしい。どうやら、派手にスイーツを楽しんでいたせいで、悪い連中に目をつけられてしまったようだ。
「コォン」
パフェの最後の一口を飲み込んだハクビが、路地裏の連中に気づき、ニヤリと人の悪い(狐だが)笑みを浮かべた。
そして、「ちょっとシメてこようぜ」とでも言いたげに、前足でニーナのブーツをポンポンと叩く。
「……なるほどね。こういう『おとぎ話』みたいな裏情報は、裏社会の連中の方が詳しかったりするかもしれない!
――行くよ、みんな! 頼れる先輩の姿、見せてあげる!」
数分後。
薄暗い路地裏には、ハクビの前に正座させられ、涙目になっているゴロツキたちの姿があった。
ハクビは女王様のように優雅に座り、自慢の極上のモフモフ尾で、ゴロツキたちの首元をファサファサと撫で回している。
「ひぃぃぃっ! すんません、すんません! 出来心だったんです!」
「お命だけは! ……フヘッ、くすぐったい、いや、なんでもしますからぁ!」
「コォン」
パァンッ!
ファサファサと優しく撫でていたかと思えば、時折容赦のない尻尾ビンタがゴロツキの頬に炸裂する。
飴と鞭の巧みな尋問術だ。言葉が通じなくとも、彼女が「ちゃんと答えなさいよ」と凄んでいるのは痛いほど伝わってきた。
「おおお……っ! 伝説の霊獣様による直々の尻尾ビンタ! なんと羨ま……いや、なんという恐るべき制裁!
ハクビ、このスオウにもぜひその一撃を……!」
「スオウさんは黙っててください! 変な性癖出さないの!」
興奮して身を乗り出すスオウをピシャリと制し、ニーナはゴロツキのリーダー格の前に立った。
「あんたたち、情報屋とも繋がってるわよね? 『世界樹の果実』について、何か知ってること全部吐きなさい!」
「せ、世界樹!? あんなのただの神話だろ……っ!?」
「シャァァッ!」
誤魔化そうとした男の首筋に、ノワールが音もなく歩み寄り、鋭い爪をチラつかせて威嚇した。エルヴァンの前では甘えん坊だが、主であるニーナの任務となれば、ノワールは立派で冷徹な相棒だ。
「ひいいいっ! ま、待って! 目がガチだから!
果実があるかは知らねえけど……最近、裏の冒険者たちの間で噂になってる『ヤバい場所』なら知ってる!」
ゴロツキの言葉に、ニーナの目がキラーンと輝いた。
「ほう? 詳しく言いなさい」
「こ、ここから南にある『ロアの大穴』だ! あそこは底なしの渓谷だったはずなのに、最近になって急に、大穴の底から『とんでもなく巨大な植物の根』みたいなのがせり出してきて、新しい迷宮を形成しやがったんだ!」
「巨大な植物の根……?」
「ああ! 異常な魔力濃度で、並の冒険者じゃ近づくことすらできねえ。裏社会の連中は、あれこそが神話に語られる『世界樹の根』の一部が顕現した姿じゃないかって噂してるんだ……!」
ニーナとスオウは顔を見合わせた。
世界中で起きているという魔力の異常なうねり。その影響で、失われていたはずの世界樹の根が姿を現したのだとすれば、筋は通る。
「……なるほど。根があるなら、その先には幹があって、果実が実っているかもしれないわね。でも……」
ニーナは腕を組み、真剣な表情で顎に手を当てた。
「ゴロツキの噂話だけじゃ、裏が取れないわ。本当にそんな規格外の迷宮ができているなら、いくら王都から離れた南の渓谷とはいえ、冒険者ギルドも事態を把握しているはずよ」
「うむ、確かに。罠やデマの可能性も捨てきれん。さすがは『白竜の翼』の先輩、冷静な判断だ!」
ニーナの的確な状況判断に、ノワールも「ニャァ」と同意するように鳴いた。
「でしょ?
――よし、目的地は一旦保留! まずはこの足で冒険者ギルドに向かって、ガストンさんに聞き込みに行くよ!」
ニーナがゴロツキをポイッと解放し、力強く指示を出した。
「コォン♪」
ふと見ると、ハクビが気絶したゴロツキの懐から器用に口で財布を引き抜き、前足でポンポンと叩いて「これでマカロン買えるっしょ」とでも言いたげなドヤ顔をしていた。
「あーっ、ハクビちゃんダメ! カツアゲは冒険者として御法度だからね! 返してきなさい!」
ちゃっかりと金貨をくすねようとするハクビから財布を取り上げながら、ニーナはドタバタと路地裏を後にする。
言葉の通じなくとも、頼もしい(?)従魔たちと、変態気味の先輩テイマーをまとめ上げ、新米を卒業(自称)したニーナの奮闘は、賑やかに続いていくのだった。
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