最終話:世界を繋ぐ元はぐれテイマー
大地の竈での未曾有のスタンピードから数ヶ月の月日が流れた。
あの日、俺たちが世界の危機を救ったという事実は、瞬く間に世界中へと知れ渡った。
王都では国を挙げての盛大な凱旋パレードが開催され、ギルド『白竜の翼』のメンバーは、文字通り世界を救った英雄として熱狂的な歓声で迎えられた。
騒ぎは自国だけにとどまらなかった。
『ぜひ我が国の姫を妻に迎えてほしい』
『我が国の最高位貴族として厚遇しよう』
といった、他国からの熱烈な引き抜き工作や手紙が、毎日のように山のようにギルドへ届くようになったのだ。
「……姫様を貰ってくれって言われてもなぁ。俺にはもう、心に決めた相手がいるっていうのに」
「ふふっ、光栄です……エル」
そう言って俺の隣で微笑むのは、純白のウェディングドレスに身を包んだセリアだ。
他国からの縁談をすべて丁重に断った俺たちは、この迷宮都市で、仲間たちに囲まれながらささやかな結婚式を挙げた。
「まったく、国王陛下ったら『国を救った英雄の式なのだから、絶対に王都の城で挙げるべきだ!』って、最後まで子どものように駄々をこねていたらしいわよ?」
「ユリウスさんが宥めるのに随分苦労したらしいからな。でも俺は家族に囲まれたこう言うのが良いんだよ」
ギルドの仲間たちと、俺の飯を美味そうに食べる魔物たちに囲まれた、騒がしくも温かい宴。
慌ただしくも、そんな平和で幸せな日常が続いていた。
◇◇◇
そんなことがありつつも、今日俺たちは、新天地へと旅立つ日を迎えていた。
迷宮都市のギルドハウスの前に停めた大型の馬車の前で、見送りに来てくれた仲間たちと向き合う。
「エルヴァンさん、セリアさん……っ、いってらっしゃい!」
「ニーナ、泣かないの。迷宮都市のギルドマスターは、今日からあなたなんだから」
セリアが優しくハンカチでニーナの涙を拭う。
ギルド『白竜の翼』は、俺とセリアが新天地に総本部を構えることになり、この迷宮都市のギルトハウスは支部として、ニーナとスオウの二人に任せることになったのだ。
彼らの相棒であるノワールとハクビ、そして迷宮都市の守護者としてすっかり定着し、ご近所のお婆ちゃんが拝みにくるようになったエターナと、ジェイドたちも、ここに残って二人を支えてくれる。
「任せてくれ、エルヴァン。俺とニーナで、このギルドを、必ず立派に守り抜いてみせる」
「ああ、頼んだぞ、スオウ」
力強く頷くスオウと固い握手を交わした、その時。
『プルルルッ!』
「あ、プルちゃん!」
スライムのプルちゃんが、ポンッと跳ねてセリアの腕の中に飛び込んだ。
プルちゃんは元々ニーナが初めてテイムした魔物なのだが、セリアとすっかり仲良くなり、今回はセリアについて行くことになったのだ。
「プルちゃん、向こうでもセリアさんの言うことをよく聞いて、いい子にしてるんだよ?
たまにはこっちにも、顔を見せに帰ってくるんだからね!」
『プルルルルルル!』
すっかりお母さんのような顔つきで語りかけるニーナ。かつては言葉が通じなかった彼女も、今ではしっかりとプルちゃんと念話で会話ができるようになっていた。
「じゃあ、行ってくる! みんな、またな!」
『マヂで無理しちゃダメっしょ!』
『マスター、あっちでも非常識な行為は慎んでくださいニャン』
『エルヴァン様、この地はおまかせください。
たまに視察に行きますわね』
ハクビとノワール、そしてエターナたちに見送られながら、俺とセリア、そして小さくなったファルたちと家財道具を乗せた馬車は、シリウス率いるナイトメア達に引かれて、迷宮都市を出発した。
俺たちが新たな支店を構えたのは、複数の大国が隣接する「国境地帯」だった。
理由は単純だ。世界中に名が知れ渡った結果、他国からの指名依頼が捌ききれないほど届くようになったため、アクセスの良い国境付近に拠点を置く必要があったのだ。
本来、国境付近というのは国同士のいざこざや軍事的緊張が絶えない場所だ。
しかし、俺たちが支店を構えた途端、各国の王たちは争うどころか「エルヴァン殿のギルドを中心に、完全中立の国を作ろうではないか!」と言い出し、こぞって資金や物資を援助してくるという異常事態に発展していた。
「……まぁ、人間同士の争いがなくなるなら、それでもいいんだけどな」
新しく建った巨大なギルドハウスの厨房で、俺は特大の鍋をかき混ぜながら苦笑した。
ギルドが巨大化した最大の理由は、人間の影響力だけではない。むしろ、俺たちのギルドは「人が増えた」のではなく、「従魔が増えすぎた」のだ。
あの大地の竈でのスタンピード以来、俺の作る飯や、始祖竜の加護の気配に惹かれ、世界中から凄まじい数の魔物たちが俺の元へやってくるようになった。
『クゥーン……』
「はいはい、お前も美味い飯が食いたいんだな。ちょっと待ってろ」
ギルドの裏庭には、俺の飯を目当てにやってきた魔物や、「従魔にしてくれ!」とあっちから頼み込んでくる強力な魔物たちが列をなしている。
もはやギルドマスターというより、魔物専用の「大衆食堂の店主」である。
ズドォォォンッ!
不意に、裏庭の空から光が舞い降りた。
現れたのは、見覚えのある青白い顔をした青年――「原初の暴食」だった。
「よう、いらっしゃい。また腹が減ったのか?」
「うん。エルヴァンのご飯、たべにきた」
「……最近は週三で通ってきてるわね、あの子」
「セリア、そんなこと言わないの。ほら、今日は特大のハンバーグだぞ」
俺が焼きたての巨大な肉塊を差し出すと、青年は目を輝かせてかぶりついた。
上空で日向ぼっこをしているファルやゼノスたちも、匂いにつられて顔を上げる。
時には獣医のように傷ついた魔物を特製スープで癒やし。
時には他国で起こりかけたスタンピードを収めに行く。
相変わらず多忙で、目が回るような日々だ。
けれど、このギルドにはいつも、人間と魔物の垣根を越えた、たくさんの笑顔が溢れている。
「エルヴァン様、次のお料理の仕込み、手伝いますわ!」
「ああ、頼むよ、セリア。
……さぁて、今日も世界中の腹ペコ魔物たちに料理を振る舞うか!」
かつてスキルなしと蔑まれ、追放されたはぐれテイマー。
彼の振る舞う温かい料理は、今日もどこかで、世界と命を優しく繋ぎ続けている。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
あんまりテイマーらしくない活躍ぶりでしたが、彼にとってはその方が幸せな日常だった……という感じで、フィナーレとなりました。
沢山の方に読んで頂けて感無量です。話としても書きたいことは書ききれたと感じています。
また機会がありましたら、次のお話でお会いしたいと思います。




