金髪美女たちおかしい
結局、錆びた釘だけをゲットした初雪とキララたちは、屋台を離れた。
ゴンタと別れるのはツラいものがあったけど、所長を頼ればいつでも会えるだろうと思えば、なんとか自分を納得させることはできた。
「そういえば、ゲームの中の通貨も『ネン』じゃなかったか?」
春風が言ったが、初雪はすぐには思いださなかった。
「そうだっけ?」なんて言っている。「そういや、そうだったかも」
ゲームの中ではあまり財産を気にしたプレイをしていなかったので、うろ覚えだった。円だったような気もするし、ネンだったような気もする。正直、どっちでもいい。
その後も町の中を散策していると、通りの向こうから誰かがすごい勢いで向かってきた。
その格好から、一瞬だけ梨理夢かと思ったが違う。まったくの別人だ。そもそも髪の色が違うし、彼女はついて来てはいないはずだ。
見てるこっちが恥ずかしくなるような破廉恥そのもののビキニアーマーを着用した金髪美女が、浄玻璃所長に飛び付いた。
「団長ぉっ! やっぱり団長だぁ! 来てたの知らなかったから、ビックリしたよ。あ、アンヨもいる」
所長の首に手を回したまま、小さいアンヨに顔を向ける。アンヨは「アンヨもいるです」と微笑んだ。
「団長? 所長じゃなくて?」初雪が言う。
「誰だ、こいつら?」
と、金髪美女がムカつくことを言ってきたので初雪は「お前こそ誰だ」と喧嘩を売った。
「なんだお前、オレとやろうってのか」
金髪美女の一人称が「オレ」だったが、まあそれは置いといて、初雪は喧嘩を買った。いや、売った喧嘩を買ってもらったので商品をお渡ししようと思った。
「やってやろうじゃんか、ララちゃんが!」
他力本願だった。
「いや、わたしはやらぬぞ……」いくらキララだって、それほど無闇に戦うわけではない。しかも相手が知り合いの知り合いとなれば、なおのことだ。
とても敵とは見なせない。
「まあまあ、落ち着きなさいお嬢さんたち」
所長の一言で、あんなに攻撃的だった金髪美女が一瞬でおとなしくなり「はぁ~い」とバカみたいな優しい声で返事をする。その変わりようは驚くべきもので、それだけ所長に対しての信頼があるということを示してもいた。
「で、誰なのこいつら?」
やっぱり、変わっていなかった。金髪美女の知らない人間に対する態度が悪すぎる。
初雪はまた言い返そうかと思ったが、所長の手前ぐっと我慢した。自分のほうが大人なのだと示すためにも。
「彼女たちは別の宇宙のお友達。アンヨちゃんのご学友よ」と説明する所長。
別の宇宙という、そのことを不思議に思っていない様子の金髪美女を、初雪たちは不思議に思う。まさか、この世界では「別の宇宙」の存在は常識的なことなのだろうか。彼女はすぐに納得した様子で「へぇ」とだけ言ったのだった。
「オレはフィリエルだ。盗賊団をやってる」
盗賊団⁉ と、初雪は一歩後退した。そんな職業が普通にあるなんてまさに異世界、と。ただ、初雪たちの世界にもいないことはないだろうが、それでも驚く。
「え……ってことは、所長が盗賊団の団長もやっているってことですか?」
初雪の質問に、所長は首を振る。
「フィリエルのセリフは紛らわしかったね━━盗賊団の団長はフィリエルで、わたしじゃないよ。彼女が団長と呼んだのは、魔術団の団長としてのわたしを、そう呼んだのだよ」
「魔術……団?」
ちょっと聞き慣れない言葉に、混乱する。
「え、所長って、魔法が使えるみたいな、そんな人なの?」
「まーねー」と、軽い感じで肯定される。「明かす必要がなかったから秘密にしていたんだけど、フィリエルに会っちゃったら、しょうがないか。それに初雪ちゃんたちになら、バレたって大丈夫だろうしね」
言って、空に手のひらを向けた所長━━その手からサッカーボール大の火の玉が出現して、空の彼方に飛んでいった。
「おわああっ、マジんこマジック!」
しりもちをついた初雪を見下ろして、金髪美女━━フィリエルが「なにビビってんだよ、あはは!」と笑ったが、言い返すこともできなかった。
立ち上がり、気を取り直して自己紹介する。一応━━気にくわない相手だが、彼女がやった以上は返すのが礼儀だ。
初雪、春風、キララ、毘沙門(いまだに混乱状態が持続しているらしくどこか上の空で、浄玻璃所長が炎の玉を出して見せた時にも驚かなかった)と全員が紹介を終えると、そこへさらに知らない少女がやってきた。
「マスター、なぜいる?」
初雪と同じくらいの背丈の、青い髪の少女。だと思うが、年齢などわからない。なにしろ異世界人なのだから、若く見えて実は百歳でしたなんてことも、あるかもしれない。
「国王様が帰るっていうから、連れてきたの。ついでに向こうの世界の仲間たちと、観光」
「なる。向こうの世界の人たちも、同じ」
見た目が、ということだろう。
なんだか言葉数が少ない女の子だ。
「では歓迎━━ほいっ!」
と、少女が片手を振ると、突然なにもなかった路上に氷の彫像ができあがる。空気中の水分が凍りつくような音がしたかと思ったら、一瞬で現れたのだ。
しかも筋骨隆々の全裸男性が逆立ちして足を広げている像で……股間がちゃんとメッセージプレートで隠れていて「いらっしゃい」と文字まで彫られている。そのすべてが、氷でできていた。
「センスはともかく……」
「すごいにょ、リアルマジック! リアルマジシャン!」
ファンタジーのイメージそのままの、剣と魔法の世界を身近に感じて、感動する。ゲームの中では飽きるほど触れているにも関わらず、まったく慣れてなどいなかった。実際に、現実で目の当たりにするそれは、やはり違って見える。
「この人は誰?」
所長に向かって、初雪が尋ねる。
「彼女は氷魔族という氷の王国の住人で、そこの王女様のロゼ。今はコスモスターというオモチャ会社の社長もやっている、わたしの大切な仲間なの」
「チキ・イン社のオヤジを引き抜いて、インチキガチャに力を入れている」
オモチャ会社の社長だという王女(どんな人なんだ)ロゼは、堂々とインチキを口にしていたが、よくわからないのでスルーする。
とにかく情報を整理しきれていない初雪たちではあったが、浄玻璃所長の仲間だということだけは理解した。
「せっかく出会った記念━━これをやろう」
背中に隠れていたリュックを前に持ってきて中を探り、ロゼが初雪たち一人一人になにかを手渡す。
「なんですか、これ?」
渡された紙袋を開きながら初雪。中身を取り出したのとロゼが答えたのが、ほぼ同時だった。
「おっぱいブラジャー」
おっぱ……なにそれ、と言おうとしたけど、言わなかった。広げてみれば、一目瞭然。
ブラジャーなのだが、その柄というか、ブラジャー自体がおっぱいになっている。自分自身に説明するのも難しいが、かなりリアルな肌色の生地で、ちょうど乳頭がありそうな位置に、かなりリアルなピンクの乳頭が描かれていて━━つまり、ブラジャーをしているのに、裸であるかのように見える、みたいな……。
「イラネ」春風が吐き捨てた。ブラジャーも捨てそうな感じだったが、それはしなかった。
「これは……お兄ちゃんにとってのドリーム」
兄というか、男性向けのアイテムに思える。いや、誰向けでもないか。少なくとも、好き好んで着用する女性はいない気がするが……と、初雪でさえ冷静にそう分析する。
「試作品。オモチャじゃないけど、広義の意味で、遊び心」
遊び心というよりは、悪ふざけに近いが。
初雪とキララはそれなりに納得して受け取り、春風は心底嫌そうに指先で摘まんだりしていて━━いまだ混乱状態にある憐れな毘沙門は無意識に受け取ったそれを、無意識に服の上から着用していた。
近くで見れば服の上におっぱいがあるシュールな光景だが、遠目からだともしかして、ほんとにおっぱいが出ているように見えるかもしれない。
どちらにしても毘沙門がかわいそうなので、キララが黙って外してあげた。
「いったいいつまで自失しておるつもりじゃ、毘沙門は?」と、子孫であるにも関わらず、先祖であるはずの毘沙門を呼び捨てにしつづけるキララが、困った顔で呟く。
その後はみんなで、妖精の国にあるレストランで食事を楽しんでから、初雪たちが「元の世界」へ帰還することになった。
かつて浄玻璃所長がこの世界をはじめて訪れた時のことや、フィリエルやロゼと旅をした話などを聞き、楽しい時間を過ごした。
所長はこの世界では「団長」であり「スカーレット」という名前で通っているらしい。そして、喫茶店の店長である只野タケシさんやニーナさんも、実は魔術団のメンバーで、こちらの世界の出身であるということも知って、それに一番驚いた。実は自分の住む場所にも、いろんな宇宙のいろんな人がいたのだと知って、改めて、まだまだ知らないことはたくさんあるなと、そう感じる初雪だった。




