新しい趣味がおかしい
事件解決後、報道や各種機関の調査などで町の中は大変なことになっていた。化け物たちの映像もすぐに広まって、ネットの内外を問わず最大の話題となった。
今回も、やはり事件解決の立役者となった初雪たちであったが、自ら名乗り出なかったこともあって、取材の申し込みなどもなかった。一応、念のため、テレビ局のカメラを見つければ、それを避けて通る行動も取った。これは、結果的に水澄江を守るための行動でもあるのだ。彼女が関係した事実だけは、公にするわけにはいかない。水澄江と、その家族を守るためにも。そう判断した初雪によって、仲間たちも口を閉ざした。真実は闇に紛れたのだ。
町から化け物がいなくなると、再開した学校生活には梨理夢とアンヨも戻ってきていた。
梨理夢は「魔界の晒し首団地のみなさんが行方不明になって、団地にも入れなくなってしまったので梨理夢探偵団を結成して調査していたんです」と、いなかった間の出来事を説明した。ということは、町に現れたのはその「晒し首団地」のみなさんということなのだろう。
梨理夢探偵団のメンバーは、わたしと側頭部に巨大目玉ひっつき大先生と、右から入って左から出ていく子ちゃんの3人だったんですけど━━とか言われても、なんのことやらだ。おそらく初雪探偵団の真似事だろうが、そもそも初雪探偵団も真似事である。みんな真似事ばかりだった。
片やアンヨは単純に、家にこもっていたらしい。
外に悪魔が現れて、身動きが取れなくなったようで━━「魔界はダメなのです」と「悪魔もダメなのです」という二つの理由から、父親と二人<虹色カタツムリさんの殻>に閉じこもって耐えていたのだという。
気配がなくなるまで、じっとしていたらしい。
それを聞いた初雪は、早期に解決して正解だったと、心から思った。アンヨちゃんが早めに助かったことが、なによりなのだ。
「寿々木ちゃんたち、なんで黙っていなくなっちゃったのよぉ」と、宮田先生に言われたけれど、彼女の存在自体をすっかり忘却してしまっていた初雪は「あ……めんごです」と軽く謝っておいた。宮田先生もあれから、カーテンの中で震えていたらしい。悪いことをしたなと、少しだけ感じる。
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学校の一日が終わり、帰る時間になった。
特に合わせるでもなく、自然と一緒に帰るはずの梨理夢がどこかへ向かうのを見つけて、初雪は声をかける。
「あれ、りりちんどこ行くの?」
昇降口とは反対に向かっていた梨理夢が振り返って口を開いた。
「図書室に行こうかと思って」
「本でも借りるん?」
「ううん、そーじゃなくて━━小説を書こうと思って」
意外な言葉に「え?」となる初雪。梨理夢からそんな言葉が出るとは、予想していなかった。
「ふーん、愛野にそんな趣味があったとは、初耳だな」春風も、初雪の隣にきていた。
「最近はじめたんですよ。ほら、これ、せっかくスマートフォンを手に入れたから、なにかできないかなぁと思っていたら、たまたま見つけた『小説家になれる!』っていうサイトがあって━━」
梨理夢の右手にあるスマホは、最近になって母親からプレゼントされたという代物だった。今まではガラケーを使用していたので、これでようやく、SNSのグループにも梨理夢の名前が加わった。
「ああ、それならわたしも知っているぞ。やってはいないが、素人が自分の小説を投稿できるサイトで、すべて無料で読めるんだったな」
「そうです。もう登録はしてあるんですけど、まだ投稿はしてなくて━━いちばん最初にフレンド登録してもらった<鈴木智一くん>というかたに『投稿するかどうかは置いといて、まずは書いてみるのはどうでしょうか? 誰でもはじめは初心者なんです、最初からうまい人もいるでしょうが、そんな才能のあるかたは本当に「ひとつまみ」程度の少人数ですよ。ぼくなんて、どんなにがんばっても届かない世界ですねwww』とのメッセージをいただきまして、わたしでもなにかできるかもしれない、やってみようと思ったの」
ユキちゃんのお兄さん以外に、趣味もなかったですし━━と、余計なことも言ったのだが。
「なるほどな、いいんじゃないのか。愛野の小説か……楽しみ……だなぁ…………」なんとなく歯切れ悪く、春風は愛想笑いで笑った。
九割がた、官能小説になるのではないかという不安は、口には出さなかった。




