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お泊まり会がおかしい

 帰宅部を自称している夏樹は、すでに自宅で夕食の準備に追われていた。

 なぜならば今日、妹の友達たちが泊まりに来るからである。

 いつもの分量ではもちろん足りないので、パーティー並みの量をつくらなければならない。過酷な重労働だ。

(けっきょく何人来るって言ってたっけ……確か、初雪含めて6人だったか━━自分を入れて7人分かよ)

 大家族のお母さん、大変だな、マジで。

 夏樹はスマホでレシピを見ながら、次から次へと準備を進めていった。


「たっどぅわいま〜!」

 初雪が帰宅したようだ。

 夏樹が出迎えると、友達三人も一緒だった。彼女らはすでに私服に着替えていて、全員が初対面の女の子だった。

「紹介するね、これがうちのオナ兄ちゃんだよ」

「はじめま……ちゃんと紹介しろよ」

 初対面の女の子にそんな紹介のしかたをされて、平気なわけがないのだが。初雪は兄の心の強さを過信している。

「左からララちゃんシャモちゃんヤバ子ちゃんだよお兄ちゃん」

「愛称じゃなくて、ちゃんと紹介してください」夏樹は頼んだ。

「仕方ねーな、まずはうちの学校の番長でもある國府田(こうだ)キララちゃんだ」

 はじめに紹介されたのは、背の小さな小学生にしか見えないツインテールの女の子だった。

「わたしがキララじゃ。よろしくな、初雪のお兄さま」

 ちょっと口調が、アニメキャラとかでしか聞かないような感じだが、これも中2病の一種なのだろうか。

 夏樹は気にしないことにした。

「番長って、ほんとに?」

「そうじゃよ。わたしより強い男がいないからな」

「で、お隣の美少女が番長補佐の藤原毘沙門(ふじわらびしゃもん)ちゃんだよ」

「あ、はじめまして……」

 こちらは大人しそうな、長髪の美少女だ。髪を薄く染めてこそいるが、なんとなく梨理夢と外見がかぶっている。どちらも同じく美少女だ。

「きみ、すごい名前だね……」毘沙門って。

「あの、それは、両親が……」

「てめーこら二級自家発電技師、シャモちゃんの名前いじんなよな!」初雪が怒る。

 兄に対する暴言が酷い。自家発電技師ってなんだ?

「すいませんでした」しかし、夏樹は謝ったのだった。


「最後に、見るからにヤバそうなのが、矢場仏子(やばぶっこ)ちゃんといって、ララちゃんの次に強くて喧嘩が大好きなビッチだよ━━通称、ヤバ子ちゃんだ」

「おう、あたいがヤバ子だ、よろしくな、にいちゃん」

 見るからにヤバそうというほどではないが、男っぽい少女だ。そしてやはり性格や言葉づかいはおかしいようだ。

 初雪にはまともな友達がいないのか、それとも学校そのものにまともな女の子がいないのか。

(オレの母校なんだが……)心配になる。

 あとなにげに初雪が友達に対してビッチ呼ばわりしていた気がするが、聞かなかったことにする。当人たちも気にしてない様子だし、触れないほうがいいだろう。


「あの、これ、お土産です……」

 毘沙門ちゃんがおずおずと差し出したのは、紙袋に入った包みで、中身はお菓子のようだった。

「シャモちゃん、そんな気を使わなくったっていいのに。どうせわたしの他には歩く男性器しかいないんだから」

 そんな化け物はいないはずだが、確かに気を使われるとかえって恐縮してしまう。よくできた娘さんだ。

「わたしは持ってきておらんぞ」

「あたいもなんもねーな、悪ぃ」

 キララとヤバ子(ほんとにそんな呼び方で大丈夫なのか?)が順番に、そう言った。

「悪くないって。呼んだのわたしだしね」


「春ちゃんとりりちんはあとで来るって」

「そうか。夕食の準備はだいたい終わってるから、こっちの準備は万端だぜ」

「さすが、夢のJCハーレムにテンションが爆上がりして、いつもよりがんばったんだね、お兄ちゃん!」

 普通に誉めてくれればいいものを、わざわざ余計な要素を含めるなよ━━確かに少しテンションは高かったけどな。

「話に聞いていた通りのど助平のようじゃのぅ、お兄さまは」キララちゃんがほざく。

「はっは、襲われそうになったらあたいが股関節粉々にしてやるよ」

「絶対に襲わないのでやめてください」

 夏樹は女子中学生相手に本物の恐怖を感じた。なんとなく、野生の肉食獣を相手にしている錯覚にとらわれた。おそらく、ヤバ子ちゃんはマジでヤバい。本当に強い気がする。

 そういえばキララちゃんのほうが強いとか言ってたような━━こんな小学生みたいな女子が、そんなに強いのだろうか?

 夏樹は信じられない。


「お土産にわたしのパンティを持って来ましたので、お兄さんのパンティと交換してください」

 来て早々、そう言った梨理夢は本当にパンティを取り出したので、夏樹は後ずさる。

「それは貰えないし、オレはパンティなんて持ってないぞ」

「持ってるじゃん、わたしのやつ」

「ややこしくなるからお前は入ってくるな、初雪」

「え〜、せっかく持って来ましたのに。ではいつも通りお兄さんのパンティだけ、貰うことにします」

「だからパンティは持ってないって」

「そんなこと言って、着用してたりしてな。初雪兄」

「してねーよ!」


 夏樹がまるでどこぞの料理長にでもなったかのように、次々に料理を並べていく。

 どれも出来映えは悪くなく、ティーンエイジャーならみんな大好きな料理ばかりが並んだ。

「おう、これは豪勢じゃのぉ。初雪のお兄さまはシェフを志しておるのかな?」

「すごいです、ユキちゃんのお兄さんはパンツだけじゃなくて料理までおいしそうなんですね!」

 梨理夢の感想がおかしいのは予想できていたので、夏樹はスルーに成功した。

「そういうわけじゃないけど━━レシピ見ながら作っただけだしな」

「あと媚薬とか睡眠薬とか入れてんだよね、エロいことしようとして」

「ヤクと名のつくものは一切入ってないから安心しろ」

「わたしは入っていても平気ですよ?」梨理夢はおかしいので、なんの基準にもならない。

 なんで平気なんだ。


 お風呂タイムはカオスだった。

 容量の都合上、二人づつじゃないと入れないので、女子中学生たちは組み合わせを話し合う。

「ではわたしはユキちゃんのお兄さんと一緒で」

 それだと一人余ってしまうので却下にはなったが、夏樹は勝手にドキドキしていた。

 話し合いの結果、初雪と春風、梨理夢と毘沙門、キララとヤバ子がそれぞれ一緒に入ることになった。

「りりちんとシャモちゃんのが神回だとか考えてるでしょ、エロ兄?」

「そんなことは」あった。まさに考えていた夏樹は能面のような無表情を心がける。けして気づかれないように。

「初雪兄は最初に入るのか、最後に入るのか?」

「最後だとなにするかわかんないから、最初がいいんじゃない?」初雪が提案する。

 なんだか信用がない。いったい、なにをすると思われているんだ━━ともあれ、夏樹に反論の余地などはなかった。

 黙って年下の少女たちに従うのみである。


 夏樹が浴室に入ると、さっそく何者かが脱衣室に侵入してきた。

「もらっていきますね〜」梨理夢だった。

 声をひそめればいいという話ではない。

 まさかこんなに堂々とやられるとは、さすがの夏樹も想定外ではあった。

(初雪には期待できないな━━自分で身を守らねば)

 なんで女子中学生から身を守らなくちゃいけないのかわからないが、とにかく、奴らは全員おかしいので、おそらく常識的なことは期待できないだろう。

 唯一、毘沙門ちゃんだけはまともそうではあったけど━━

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