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妹のトモダチが全員なんかおかしい  作者: 虹ケ原光輝


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常連ばかりでおかしい

(お金が貯まりますように……)

 壁のパンティに手を合わせながら、そう願う。

 そんな願いを聞き届けてくれる神様などいようはずもないし、仮にいたとしても、この場所ではないだろうとは思うけれど。

 でも、ただわけのわからない行動をするよりかは、なにか願い事でもしてみれば、少しは納得できるかもしれないと考えたのだが━━結果としては、やはりこの行動に納得ができるということはなかった。


 いよいよ、本格的に働きはじめた夏樹は、放課後から夜にかけての時間をようやく有意義に過ごせるようになったという気がしていた。

 労働ははじめてだけれど、それがこの店でよかったと思える。

 店の雰囲気もよく、店長であるタケシさんも悪い人じゃない。教え方も丁寧でやさしく、好感が持てた。

「バイトのお兄ちゃん、あめ玉あげるわね」

 店長いわく、常連さんであるらしい初老の女性からなぜかキャンディーをもらう夏樹。

『げろマズ腐肉(ふにく)味』と書いてあったので、あとで捨てるか妹に押し付けようと思った。が、よく見てみると小説と映画が大ヒットした『ヘリーホッパー』の商品だったので、すぐさま興味が湧いた。


山城(やましろ)さん、ヘリーホッパーが好きで、イギリスまで旅行に行ったらしいよ」

 と、タケシさんが教えてくれた。

 山城さんは近所に住んでいるらしく、ほとんど毎日のように来るから覚えておいてね、とも言われる。

 ただ、残念なことに、言われるまでもなく覚えられるといった事実があった。なぜならば、他にお客がいなかったからだ。

 訊くと、だいたいこんなものだという。

 それで経営が成り立つのか━━夏樹が訊くよりも先に、タケシさんがそれについての説明をはじめる。

「ぶっちゃけると、売り上げがなくても、ウチは大丈夫なんだよね━━というのも、出資者というか、お金に関しては全部上にいる浄玻璃所長が出してくれているから、正直、まったく心配ないんだよ」

 夏樹は「そうなんですか」としか言えず、しかし店が潰れる心配がないということには、安堵した。


 ガラガラの店内で、とりあえず山城さんにお出ししていたコーヒーのカップを片付ける。軽く手洗いしてから、食器洗浄機に入れる。この手順はすでに教わっていた。

 取り出して棚に片付けたころ、またお客さんがやってきた。

 入り口のほうへ身体を向け「いらっしゃいませ」と言ってすぐに、その客が顔見知りであることに気がつく。

 制服姿の水沢季瀬姫だった。

「おお、本当に働いてましたねぇ」

 当然、初雪から聞いていないはずはないので、知っていて来てくれたようだ。

「お知り合いのかた?」

 タケシさんに訊かれたので「はい、妹の友達です」と答え、季瀬姫を席へ案内する。

 他に誰もいないから、どこでも座り放題ではあったが、なんとなく自分的に一番オススメの席へ案内する。カウンター近くの、ちょうどタケシさんたちのコスプレ写真が飾られている席だ。


「季瀬姫ちゃん、また除染作業かなにか?」

「いいえ、この町の放射線はあらかた消し去りましたので、今回は別件ですね。それで、近くにはっちゃんのお兄さんがバイトをはじめた喫茶店があったなと思いまして、こうして訪れたわけです」

 コーヒーは飲めないんですよ、と言ってバナナジュースを注文した季瀬姫。夏樹はそれをタケシさんに伝えて、また戻る。

 飲食店におけるホール担当に相当する仕事しか、まだ教わっておらず、「話相手がほしそうなお客さんがいたら、お話するのも仕事のうちだよ」と言われていたこともあって、知り合いである水沢季瀬姫の近くに行く。


「なんか悪いね、わざわざ来てもらって」

「なにをおっしゃいますか、わたしも、お兄さんには多少なりと興味がありますので、わりと積極的な気持ちで来たんですよ?」

 などと、梨理夢でも言いそうなセリフを聞かされて、ドキッとする。

 まさか、これがモテ期というものなのか? と勘違いしてしまうのも無理からぬところだった。


 季瀬姫にバナナジュースを提供するころ、再び来客があった。

 これは、珍しいことなのではないか。

 立地条件的にも、人通りの多い場所ではない。なので、新規のお客さんというものは、平日にはほとんど望めないのだとか。つまり、来るのは山城さんのような、近所に住む常連さんがほとんどなんだ。それも、たいした数ではないようだが。

『いらっしゃいませ』ほとんどタケシさんと同時に言ってしまい、なぜか気まずくなる。

 訪れたのは、フードを深く被った小柄な人物だった。

 また怪しい人間が(オレの人生に)やって来たと思ったのだが━━フードを取ったその顔はやさしそうな表情の女性であった。

 フワリと、柔らかそうな髪を整えて、自らカウンター席へと向かう。

 その様子から、おそらく常連さんであるらしいことがわかったし、タケシさんにも「彼女も常連さんだよ」と教えてもらった。


「いつものお願いします」

 まさにこれ常連といった伝説の注文方法で、女性は頼んだ。

 タケシさんが手際よくコーヒーを入れてお出しする。

「マスター、アルバイトを雇ったんですね」

 一口、コーヒーを飲んでから女性が言った。

「ええ、そうなんですよ。ちょっと楽しようと思いまして」

 ははは、と笑いながら返すタケシさん。

「ひな月さんに紹介しますね」

 言って、手招きするので夏樹は従うしかなかった。

「寿々木夏樹くんです━━たまに来る、初雪さんのお兄さんなんですよ」

 そのように紹介される。

「へぇ、そうなんですか。初雪ちゃん、かわいいですよねぇ」

 女性がそう言ったところを見ると、初雪とも面識があるらしい。いったい、あの妹はどこまで顔が広いのだろう。この調子だと、まだまだ兄の知らない顔見知りが、わんさか出現しそうな気がして恐ろしい。


「で、こちらは、ひな月雨音(あまね)さんといって、絵本作家をしていらっしゃるかたなんだよ」

 と、女性を紹介される。あまり聞かない職業の人だったので、物珍しく眺める。

「それと、詩も書いていて、あとは、黒魔術を少々……」

 女性━━ひな月さんがそんな情報も聞かせるので、夏樹の顔が少しだけ歪んだ。

 最後に、変なことを言わなかったか?


 なにも変なことなど言っていませんよ━━というような涼しい顔でコーヒーを飲みはじめたので、ひな月さんから、それ以上の言葉はなかった。

 再び季瀬姫の近くに行ってみる。邪魔なら邪魔と言うだろうから、迷惑には思っていないはずだ━━そう、自分に言い聞かせながら。


「ところでお兄さん、セニョールとの生活のほうは、いかがですかね?」

 そうだった━━夏樹はがんばって忘れようとしていたけれど、今現在、自分の家には黒人がいる。

 厳密にはロボットとはいえ、あまりに精巧に作られたものなので、本物の人間と大差ないと言ってしまえば大差ない。

 その産みの親、というか創造主というか飼い主が、この水沢季瀬姫ちゃんであったのだと思い出す。

 最近では初雪が飼い主みたいになっているけど、それは間違いなのだ。そして、できれば早いうちにお帰り願いたいところだが……いまだ、その兆候は見られない。


「いかがですかね」なんて言われても、いかがもなにもなかったので口を尖らせて白目を見せて無言の抗議にうってでた。

 が、なんの効果もなく━━

「超絶たのしい、の顔ですね」との解釈をされてしまう。「はっちゃんも喜んでくれていますし、貸した甲斐がありますよ」

 などと言って笑顔を見せるので、文句も言えなくなってしまった。


「ところでなんですけど、実は今日は『おにぎり山』を調査しに行っていたんです」

 突然話が変わって、季瀬姫ちゃんの本日の行動が語られた。

 おにぎり山というのは━━その通称が定着しすぎていて夏樹にも本当の名称はわからなかったが、町の小学校の近くにある小高い山のことで、おにぎり━━というよりはピラミッドの形状に近いのだが━━のような形から、そう呼ばれている山である。

 そんなところで、いったいなにを調べてきたというのだろう。

「これはまだ、わたし自身が半信半疑な情報なのですが━━」

 そう前置きして、話しはじめる。

「H氏の情報によると、近々、異星人の『偵察係』みたいな方々が来られるという話でして━━その場所が、どうもこの町らしいということで、宇宙船の飛来場所になりそうなポイントをチェックしているところなんです」

 まるで当たり前の話をするかのように、普通に話す季瀬姫だが、そんな作り話みたいな話、にわかには信じられない。

 時折、彼女の口から語られる『H氏』という存在に関しても、怪しいだけのものでしかない。実在しているのかどうか、まずはそこからして疑わしいだろう。


「って、宇宙人が来るってこと?」と、尋ねる。

「はい。異星人でも宇宙人でも地球外生命体でも侵略者でもおもしろ外来スペーストラベラーでも、呼び名はなんでも構いません。要するに、この地球に悪意を持ってやって来る存在がいて、それが訪れるかも知れない、という話です」

 真顔で真剣に語る季瀬姫だが、これは、いよいよ頭がどうにかなってしまったのではないだろうか。

 それくらい、信じられない話だった。

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