表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/127

梨理夢の家がおかしい

「せーしのお兄さんじゃないですか」

 とんでもない誤解を招く呼び方をされて、夏樹は頭を抱える。愛野梨理夢がおかしいのはすでにしっていたけれど━━いくらなんでもひどすぎる。

 初雪が声をかけて、彼女も合流していた。

「初雪兄、とうとう妹の同級生に手をだしたとは━━」

 春風ちゃんが汚物でも見るような目で、夏樹を見る。

「はっちゃんのお兄さんは変態なんですか?」

 地面から謎のステッカーを回収した水沢季瀬姫もそんなことを言う。

「変態かどうかと訊かれれば、それはもう性犯罪者予備軍の代表取締役筆頭株主番長みたいな感じかなぁ」

 期待はしていなかったが━━妹からのフォローもなかった。


「実験が終わりましたので、わたしは帰りますね」

 結果として愛野梨理夢のスカートをめくっただけだった水沢季瀬姫が帰宅する。

「ところで季瀬姫ちゃんは、なにをしていたんですか?」

「りりちんのスカートめくる実験」

「ええ〜、それじゃあさっきのって、季瀬姫ちゃんの仕業だったんですか〜?」

「お兄ちゃんだけ得したみたいだけど━━」

 あ、このやろ━━夏樹は梨理夢から目をそらした。

「じゃあ、もしかしてせーし出ました?」

「出ねーよ、なんでだよ!」

「出てるかも。確かめてみようか?」

 ズボンに手をかけようとした初雪の頭を、夏樹はがっちり両手で押さえる。

「はぁ、残念です……そろそろエキスが必要なので、ちょうどよいかと思ったのですが」

「じゃあまたパンツ脱がす?」

「またって、前にも脱がしたことがあるみたいな」と、これは春風ちゃんの疑問だ。

「そうですね、そうしていただけると助かります。よろしければ我が家にいらっしゃいませんか?初雪ちゃんの家に行くより近いですし、わたしも助かります」

「じゃあそうしよっか、りりちんの家にも行ってみたいし!」

 夏樹の意思を確認する者は、その場に誰もいなかった。


 愛野梨理夢の家は、数駅離れた地下鉄の駅のすぐそばにある、真新しい高層マンションだった。

「ここの13階にある666号室です」

 夏樹は聞き間違いかと思った。

 部屋番号がおかしくはないだろうか?


 梨理夢に招き入れられた部屋の中は、さらにおかしかった。

「いや、この広さはおかしいだろ……」つい、呟きがもれる。

 どう見ても外観から想像した以上の奥行きがあり、また、どう考えても隣の部屋を突き抜けているだろう横幅がある。

「どうなってんだ、この家?」

「梨理夢は唯一わたしが本当に尊敬している人間だ」

 突然、春風がそんなことを言い始める。

「それはどうしてかというと、梨理夢が厳密には人間じゃない存在だからだ」

「りりちん、悪魔少女なんだよね?」

 中2病というやつか。つまり、設定の話だろう。

 夏樹はうさんくさそうな顔をして、聞いている。

「人間じゃないから、部屋の中に異空間を作ることができる。だからこんなに広いんだよ」

 確かに広いが、フロア全部を繋げているだけなのではないか。夏樹はまだ、そう考えていた。


 入った瞬間にわかってはいたが、広過ぎる空間を見渡せるということは、その一部屋が大きすぎたからだ。区切りもなにもなく、家具も設備もなにもない。ただのフロア。

 なので、人の家というよりは広いトレーニングルームとか道場とか、あるいはパーティー会場などに近いような空間である。こんななにもないパーティー会場はないだろうが。

「ここが大広間で━━」

 大広間って。普通、家にそのような名称の場所がある家庭など、一般ではあり得ないだろう。

 どこぞの王族なのか。

「正面の真ん中が父上の部屋で、右が母上。そして一番左にあるのがわたしの部屋になります」

 片側三車線の道路の向こう側くらい遠くに、扉がある。

 位置的に、そこはもうマンションから外れているはずだが。

 どうなっているんだ?


 なぜか父親の部屋の前に立つ。

「父上、お友達が来ているので、ご了承くださいね!」

 梨理夢が扉を開けないまま、その向こうにいるであろう父親に報告した。


 ゴゴゴゴッ……ゴゴッ…………グアゥゥゥ!


 地鳴りのような、大型肉食獣の唸り声のような、そんな音が扉の中から響いてきた。

「父上の了承を得ましたので、もう安心ですよ」

 今のは言葉だったのか! なんて言ってたんだ。そして父上とやらは人間なのか? しかも了承を得ないと、なにか危険があるのか? あるんだな!

 夏樹の腕に鳥肌がたった。

「やはり本物は違うな━━作り物では出せない雰囲気がある」

 春風がなにやら納得して、頷いている。

「お母さんは、いるの?」

 さきほどの唸り声もまったく気にしていない初雪が、質問した。

「母上は都合のいいデリバリーの仕事についていますので、あまり家にはいませんね」

 デリバリーと聞いて夏樹が真っ先に思い浮かべたのはピザの宅配だったが、ああいった仕事でお母さんたちが働いているイメージはあまりない。多分、違った宅配サービスの仕事なのだろう。


 梨理夢の部屋は思っていたよりまともだった。

 夏樹は少なくとも三角木馬はあるだろうと予想していたが、そんなものはなかったし、普通の女の子の部屋だった。

 ただし、位置的にマンションの敷地を外れた空間あたりなので、それをたしかめたかったのだが、なぜか窓がなかった。

「それではお兄さん、パンツのほうをいただけますか?」

 はい、わかりました━━と、なるはずもなく。

「妹の友達の部屋で、女の子三人に注目されながら下半身を露出できるわけがないだろ」

「いーじゃん、いつもやってんだから」

「一回もやった記憶がないわ!」

「初雪兄、わたしと初雪の裸は見たことあったよな?」

「それは……」夏樹は反論できない。

 彼女たちがまだ小学生のころの話だが、夏休みの暑い日に、部活帰りの夏樹が汗を流そうと脱衣室の扉を開けたら、全裸の二人が立っていたという思いでの一幕だ。

 それにしても、その話は今関係がない。

 だから夏樹が脱ぐという話にはならない。


「あぁん、エキスが切れてきて、もう少しで死ぬかもしれません━━わたしが死んだら、きっとこの場合はお兄さんの責任になるでしょう。父上もそう考えるはずです」

 いよいよ常軌を逸してきたな、と夏樹は思った。

「お兄ちゃん、さすがにしってるとは思うけど、見殺しも罪になるんだよ? それに、人助けはフリキュアの使命でしょ?」

 自分がフリキュアだったことには気づかなかったが、見殺しとか言われると、善人の夏樹はもはや従うしか道がない。

「わかったよ、梨理夢ちゃん、ちょっとトイレ借りるね」

「あの、申し訳ありませんがうちにトイレはございません。あるにはあるのですが、それは父上の魔界━━いえ、部屋の奥になりますので、お客様は使えないんです、すいません」

 今ぜったい魔界って言ったよな……それはそうと、トイレがないなんてことがあるのか?

 確かに、扉は3つしかなかったけど。

「じゃあ、部屋の外で着替えて来るから」

「いえ、それもちょっと……」

 なんなんだよ! 夏樹は内心で叫ぶ。

「大広間に人間のかたがお一人ですと食べられ━━いえ、父上が機嫌をそこねてしまいますので、すみませんがダメなんです」

「じゃあ、無理だな。この話はなしだ」


「ですので、わたしのベッドの、お布団の中で脱いでいただけませんでしょうか?」

 梨理夢がとんでもない提案をする。

「なんだよお兄ちゃん、役得じゃないか!」

 全然役得ではない。はずかしめだろう。

「初雪兄、もう逃げ場はないぞ。早く脱いでしまえ」

 春風ちゃんがドアの前に仁王立ちしている。これで、夏樹の退路は消え失せた。

「くそ、覚えてろよお前ら」


 夏樹は梨理夢の布団の中でズボンを脱いでパンツも脱ぐ。

(これは、完全に変態じゃねーか!)

 美少女中学生・愛野梨理夢のベッドはやわらかく甘ったるいとてもいい匂いがして、夏樹の頭はクラクラする。

 しかも露出した下半身が気持ちよくて、変な気分になった。

(マズイ、もう変態と言われても笑顔で返事するしかない)

 夏樹はパンツを放り投げると、急いでズボンを履いたのだった。

「ご馳走になりま〜っす!」

 梨理夢の元気な声が聞こえた。


 いとまを告げて外へ出た夏樹たちの目の前で、隣の部屋のドアが開いて大学生風のお姉さんがでてきた。

「こんにちは」挨拶されたので、夏樹たちも返した。

 お姉さんの部屋の位置はどう考えても梨理夢の家の大広間があるはずの場所なので、やはりこの家はおかしかった。

「またいらしてくださいね」と言われたけれど、夏樹は二度と来るまいと決心した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ