決着
私は潰れてしまったアイスを眺めながら、もうどうでもいっか、という気持ちになった。
遥が携帯から呼びかけてくる。
「ユメ、どうしたの? 試合始まっちゃったよ!」
ケイコさんは自信満々に後攻を宣言したらしい。
完全に終わった。
「私、最後にどじっちゃったよ。 せっかくアイス作戦を思い付いたのに、転んで潰れちゃった。 近くにコンビニはないし…… あーあ、何でいつもこうなのかなぁ」
「諦めちゃダメっ、姉さんに伝えないと!」
そんなこと言ったって、試合中に携帯には出られないだろうし……
あっ!
「一回切るよ!」
私は最後の望みをかけて、枝豆さんに連絡した。
もし会場にいれば、伝言を頼める。
祈りながら携帯にかけると、繋がった。
しかし……
「もしもし、どうしたの?」
「あ、枝豆さん! 今どこにいます?」
「今はお店でケイコの試合を見てるよ」
「……そうですか」
希望はとうとう潰えた。
電話してしまった手前、一応事情を説明した。
すると、予想外の言葉が返ってきた。
「心配しなくてもいいよ。 ケイコ、ちゃんと対策考えてたから」
対策?
前もってカレーパンの中身が麻婆豆腐だと知っていたのかしら?
「まぁ、試合を見てみなよ」
私は一旦電話を切り、スマホから生放送を見ることにした。
試合は、木村さんの番が終わり、ケイコさんがパンの用意をしている所だった。
「さぁ、次は塩辛選手の番ですが、ここで何やらトレーに飲み物を乗せて現れました!」
ケイコさんの持ってきた飲み物がアップで映し出される。
ガラスのコップに葉っぱのような物が入っており、ワカメ? とか、海藻? などといったコメントが画面に流れた。
いや、あれは……
「モヒートだ」
モヒートは、ミントの入ったお酒だったと思う。
まさか私と同じ答えに辿り着くとは。
恐らく、カレーの香辛料の対策として考えていたんだろう。
「勝者、塩辛ケイコ!」
結果は3対0でケイコさんの圧勝だった。
しかし、この後準備していたカツサンドが足らなくなり、不戦敗となった。
「いやー、まさか不戦敗とはなぁ。 惜しかった!」
夕方、ケイコさんの店で2位祝いをやった。
ケイコさんは始終上機嫌で、木村さんに勝てたことがよっぽど嬉しかったらしい。
「ちゃんと準備してたら優勝だったかも知れないのに」
私は呆れながら答えた。
しかし、パンの商品化に、ケイコさんはあまり興味はなかったようだ。
「それよりお前ら、今度吹奏楽のコンクールだろ?」
そうだ、次は私たちの番だ。




