面倒くさい遊覧飛行。
「ん~…はすた~きもちいい~。」
「はいはい。」
「ん~……はすた~もっとはやくとんで~。」
「はいはい。」
ボクは今、「イエイブ」を背中に乗せたまま洞窟の外を遊覧飛行している。
まぁ当然遊覧なんて言えるほど楽しい物じゃないけど。
ボクがこいつに「言う事を聞いてあげる」なんて口走らなければこんな事には…。
早く帰りたい。
「ん~…はすた~たのしい~?」
「…これが楽しんでる様に見えるかい。」
「ん~………楽しくなさそう~。」
「うん、正解。」
「ん~…はすた~いえいぶのこときらい~?」
「…。」
嫌いかって?
まぁそりゃ嫌いだよ。
ボクは君たち二人に「腕」を食い千切られた事がある訳だし。
好意が湧くことはまずないだろう。
でも、嘘でも好きって言わないと何されるか解らない。
ここは機嫌をとる為にも…。
「まぁ、別に嫌いじゃあないって感じかな?」
「やった~!いえいぶもはすた~すき~。」
「…はいはい。」
好きとは一言も言ってないぞ。
でもいいや、こいつの機嫌をとれるならそれに越したことはない。
あとボクにしがみ付いて来るな。気持ち悪い。
「ん~…はすた~もっとたかくとんで~。」
「…はぁ。」
まったく、面倒くさい奴だ。
こう、普通に接しているだけなら別に怖くはないんだけど。
イエイブだけじゃない。ナグも、何もしなければ只のやんちゃなガキなんだ。
何も怖くはないんだけど。
逆らえない怖さがあるんだ。
こいつ等にも、「目的」があるから。
「ねぇイエイブ。」
「ん~。」
「…もしボクが君にお願いしたら、君は言う事を聞いてくれる?」
「ん~…『おとうさま』しだい~。」
「だよね。」
「でも~…はすた~すきだから~、おはなしはきく~。」
「はいはい。」
こいつらは、何の目的もなくボクの所に遊びに来ているんじゃない。
ボクの所に来る理由は、二つある。
まず一つ、ボクの側に「シュー」がいるから。
シューは元々、こいつらの父親の「ヨグ=ソトース」と一緒に住んでいた奴だ。
ただ、ボクが「使命」を果たす上で「シュー」がボクの側に来ることになった。
ボクが彼女を呼んだんじゃない。「クト」がボクの所に連れてきたのだ。
だから仕方なく、ボクはシューを側に置いている。
勿論それが嫌なわけじゃない。もう何度もシューに命を助けてもらっているわけだし。こいつの持っている「土」の力は便利だ。
でもやっぱり…「よそ者」はイマイチ信用できない。
そして、ボクがシューに何か仕出かさないかとこの「双子」を通して、父親がボクを「監視」しているのだ。
まったく、嫉妬深い父親だな。別に何もしないのに。
心配しなくても全部終わったら返すよ。
全部、終わったらだけどね。
そしてもう一つは―。
「あ~…はすた~。あいつのとこいって~?」
「ん?」
「あいつのとこ~。」
「…。」
イエイブが、遥か遠くの空を指さしている。
ボクの目には何も見えないけど。
きっとイエイブの目には見えているんだろう。
でも、大体何を指さしているのか解った。
だから。
「…いいよ。飛んで行ってあげる。」
「わ~い!」
ちょっとニヤけながら。
イエイブが指さしているその方向へ、ボクは飛んで行った。
さて、どんな反応するかな?
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「ふははははははははははははは!今日も今日とて、空は蒼く美しい!そう、まるで僕のように!ふはははははははははははははは!」
まだその「目標」からは距離があるが、何となくそんな高笑いが聴こえてくる気がした。
聞いているだけでムカつくような、イライラする笑い方だ。
「そいつ」に近づくにつれて、段々とその姿がはっきりしてくる。
「ふはははははははは!漂う雲は白く!太陽は白く眩しい!あぁ眩しい!まるで僕みたいじゃないか!ふははははははははははははは!」
風にあおられてボサボサになっている、深紫色の長髪。
痩せた顔立ちに、鮮紅色のキラキラ光る瞳。
ピンク色のネクタイを首から垂らし、服は全身緑色のスーツ。
背中に「雲」の様なふわふわな帯を纏っている、その姿。
こいつのの名前は「イタクァ」。
ボクと同じ「風」の力を司っている、友達みたいな奴。
まぁ正直こんな気持ち悪い友達いらないけど。
ボクの、数少ない理解者だ。
さて、話しかけるか。
「相変わらずうるさいなぁ、イタクァは。」
「おや~?その声は『ハスター』じゃないか!いやぁ久しぶりだね~!わざわざこの美しくもエレガンスでビューティフルな僕に会いに来るだなんて、一体どういう風の吹き回――――――ふぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
「うるさいうるさい~。」
ボクの姿を見るや否や、いきなり絶叫し始めた。
やっぱりこいつ解りやすい反応するなぁ。流石だ。
それもそのはず。
ボクの背中には「イエイブ」が乗っているからだ。
このイタクァの様な通常の「旧支配者」にとって、イエイブ達「双子」は恐怖の象徴のような物なのだ。
で、泣き叫ぶこいつの姿が見たくて、あえてイエイブを乗せてここまで来たって訳だ。
思い通りの反応をしてくれて、大変満足だ。
「ふぎゅわあああああああああああああああああ!!!!ハスター!!どういうつもりだい!!そんな汚らわしい奴をこの美しい僕の所まで運んでくるだなんて!はっ!まさか僕をそいつの『昼ご飯』にしようだなんて言うんじゃないだろうね!!ね!!!」
「ぷっ…クフフフフフ!」
「く、来るな!くるなああああああああああああ!!!」
イタクァがくるっと向きを変えて、ボクとは正反対の方向へと逃げていく。
だから、ボクは追いかけていく。
怯える姿がいちいち面白くて仕方ない。
「ふわあああああああああああああ!!!!!なんで追いかけてくるんだハスター!!!嫌だ!来るな!来ないで!!おいでなさらないでくれえええええええええええええええ!!!」
「アハハハハハハハ!ねぇ待ってよ~イタクァ~!」
「まてまて~。」
イエイブもにこにこと腕を掲げて叫んでいる。
きっとイエイブも、こいつのこの怯えっぷりが見たくてわざわざここに飛んで来させたんだろう。
なかなか解ってるじゃないかイエイブ。
「はすた~、あいつにおいついて~?」
「…よし、任せといてよ…クフフフ!」
もう、何でもいいや。
なんか楽しくなってきた。
こうなったらとことんイタクァを苛めてやろう。
別にうらみがあるわけじゃないけどね?
「ひゃああああああああああああああああ!!!お願いだああああああああああああああああああああ来ないでええええええええええええええ!!」
「アッハハハハハハハハハハ!」
「わっはっは~。」
子供同士がじゃれ合っているような、高い叫び声と笑い声が。
しばらく、空に響き渡っていた。




