到着?
要塞とも屋敷とも言える異様な建物の内装は、外観相応の広さと豪勢さがあった。
入り口であろうゴシック様式の巨大な扉を開けると、ドーム状の広く薄暗いエントランスが出迎えた。
歩く足音すらこだまする、圧巻の広さ。見上げれば、ドームの天井に幻影的にも見える絵のようなものが描かれている。
左右を見渡すと、エントランスから続く果てのないような長い廊下。廊下にはアーチ状の窓が遥か遠くまで連なっているのがわかる。
目の前には幅のある階段が幾多にもかさばっており、螺旋階段とは言い難い、不規則にカクカクした繋がり方をしながら上へ上へと伸びていっている。
入って間もなく、後ろで扉が閉まる「ガコンッ」という音が、エントランスに鳴り響く。
その音は、なぜか。
僕をここに「閉じ込める」つもりで固く閉まったような。
そんな風に聞こえた。
「こっちこっち!」
「……はい。」
僕はいーださんになされるがままに付いていく。いつの間にかこのいーださんに尊敬や信頼にも似た感情を覚えるようになっていた。
ここまで半強制的に連れられてきたが、彼女の言動や行動に嫌悪感などはあまり感じず、むしろ好意的な物を感じている気がした。
彼女と話せば話すほど、彼女のことについて、その他の今解らないことについてもどんどん興味が溢れ出てくる。
次はどんなことを彼女に聞こうか、質問の内容を断片的に整理しているうちに、彼女の手がようやく手首から離れて、それと同時に、一つの大きな扉の前でそろって立ち止まった。
いーださんはゆっくりその扉を開け、扉の中の部屋を僕に見せびらかすようにして言った。
「じゃじゃ~ん!とうちゃ~く!ここがっ私たちのお部屋だよ~♪綺麗でしょ~」
「…はい。」
この部屋が、彼女の目指していた目的地らしい。
入って正面に見える二つの大窓から、深い霧越しにぼんやりとした青白い光が射し、部屋全体を照らしている。
部屋の中央には長方形の大きい黒机、机の真ん中に少し禍々しさを感じる植物のようなものが生けられている。
周囲の壁と天井にはエントランスで見たものとはまた違う、特徴の掴みにくい模様が一面を覆っており、天井の中心から一つも灯りがついていない大きなシャンデリアがだらりと垂らされている。
明らかに薄暗い部屋。
だが、その暗さに不安などを微塵も感じない、居心地のよさそうな印象を受けた。
部屋に入ってすぐ、彼女は部屋の左奥にある控えめな扉に向かって歩いて行く。
「ねぇ~、歩き疲れたでしょ。ちょっと休も♪」
「……はい。」
先ほどまでずっと手を引かれていたからか、自ら歩き出すには少し時間がかかった。よろよろと躓きそうになりながら、彼女の向かっている方へと懸命に歩いていく。
彼女の入っていった部屋は、寝室のようだった。
さっきまでいた大部屋とは裏腹に、この部屋は狭く感じた。
この部屋も薄暗く、入ってすぐ右にある窓の光が主な光源だった。
二つの白いベッドと、棚のような物が置いてある。
二つのベッドの間には小机とランプがあり、ランプは灯りは灯していない。
窓側のベッドにはすでに、いーださんが寝そべっている。
「ひや~、疲れた~疲れたよ~。ふぅぅ…」
そうぼやきつつ「ん~~」と唸りながら伸びると、大の字になりながら話しかけてきた。
「クーはそっちのベッドだよ~、一緒にちょっと休もっか~」
「…はい。」
ベッドに寝そべる彼女は、そうとう疲労がたまっているのだろう、さきほどまでと比べて急激に元気がなくなったような感じがした。
目もうつろになり、今にも眠ってしまいそうな雰囲気だ。
「んーごめんねクー。後でいっぱいお話聞いてあげるから~…」
「……はい。解りました。」
「んー…おやすみぃ…。」
そう言って、すやすやと眠り始めた。
彼女に聞きたいことはまだまだある。
一つ、さっきからどうしても気になっていたのは、彼女は僕のことを「クー」と呼んでいた。
「クー」というのが僕の名前なのだろか。
気になるが、彼女はもうすでに寝てしまったのですぐには聞けない。
そんなことやきもきもあり、こちらもついに疲労が表に出てきた。
部屋の奥側にあるベッドに吸いこまれるように寝そべり、僕も休むことにした。
今、頭の中が凄く吹き乱れている。
ここに来るまでに何が解ったのか、これから何を知るべきなのか、何をしていればいいのか。
それらを、なるべく早く解決しなければいけない気がした。
なるべく早く、自分自身のことについて理解しておかなければいけない気がした。
僕は、何かとんでもない危険な存在らしいから。
僕は、「生命」と呼ばれる物を自在に操ることができるらしいから。
そんなことを考えてると、次第に意識が遠くなってきて…―――




