彼女さん?
_知らないうちに、知らない場所にいた。
_周りにあるもの、動いているものが、何かわからない。
_何をしようとしてここにいるのか。何をするべきなのか。
_何も、何も解らなかった。
_僕は誰だろう。周りにいるのは誰だろう。
__________________
「…。」
自分の周りに大きな建物が並んでいる。
大きさは色々。すごく大きなものもある。
周りに、動いている物がある。
どれも大きさはそれほど変わらない。ゆっくり動いてる物や、忙しそうに動いてる物もいる。
そんな、物がたくさん動き回っている、その真ん中で。
僕は、いた。
何をしてるのかはわからない。
何がしたいのかわからない。
考えても、何も解らない。
そしてなにより。
…凄く、うるさい。
周りの建物からだろうか。よくわからない音が立て続けに聴こえてくる。
それは一つではなく、複数の建物から出てきてる音だろう。
それらが変に入り混じってとても、とてもうるさい。
「おーいっ!轢かれちまうぞぉ!」
そんな風に聞こえた音もあった。これは周りの建物からではなかった。
周りで動いてる物の集まりからか、または別の処からか。
目の前から何かがこっちに近づいてきている。すごい速さで。
あれはなんだろう。
それは、「キィィィィッ」という音と共にすぐ目の前まで来たら、今度は周りの音とは違う「プーッ」と、複数回間抜けな鋭い音を出し始める。
「何してん!はよどけ!死にたいんか!」
うるささに耐えきれなくなって、呟いた。
「静かに、してください。」
そう、言った。そうしたら―
静かになった。なぜかは解らないが、周りで動いてる物の幾つかが、ピクリとも動かなくなったのだ。
さっきから目の前でわけもわからずうるさい「水」みたいなのが張ってある塊みたいなのも音を出さなくなり、動かなくなった。
でも相変わらず建物から出てくる音は聴こえてきて、うるさい。
「…イヤだ。どっかいきたい。」
そう何となく呟いて、うるさくない場所にいくことにした。
その場を離れても、相変わらず周りの「物」はピクリとも動かなかった。
__________________
さっきとは全く景色が違う場所まで来た。
周りにあった建物から出てるよくわからない音の連立はいまだに聴こえる。でもさっきまで嫌気がさすほどうるさかったあの音も、こう離れた場所から聴くと思ったより聴き心地はいい気がした。
今いる場所には、さっきまでのとは違う、同じ形の物がいくつも並んでる。
しかも凄い数。同じ景色が遠くの方まで広がってる。
ここに来る途中で「森林公園」と書かれた物があった。何て意味なのか、どういう物なのか解らない。
辺りは、なかなか静かだ。
居心地は悪くない。あの奇妙な音さえ聞こえてこなければ。
周りの物が、すべてが奇妙で仕方ない。
けれど何も解らない。
そんな考えばかり出てくる自分がだんだん嫌になってきて。
「僕は、誰」
自分自身に、そう訊いてみる。
…
……
相変わらず、何もわからないままだ。
何か、変化が欲しい。
さっきから、思考の片隅にある、とある言葉が気になった。
「水」
その言葉がどういう意味かは解らず、でも、なんと発言するのかはわかる。
何かはわからない。でも、今の状況に何か変化が欲しくて。
「『水』が、欲しい」
何か解らないそれを、とりあえず求めて見る。
なにも無い所へ。
そう、呼びかけるように言ったら。
「お水ならここにあるよ♪」
今度は返事があった。今のは何だろう。
すると、自分の方へ知らない物が近寄って来た。
「お水をお探しです?ん?」
さっき建物の周りで動いていたものと同じような形のものが自分に話しかけてきている。
「………あなたは、何?」
「私?私は~」
目の前の物はくるっと回って、イタズラするかのように、上目遣い気味に言った。
「私は~、君の、彼女さんだよ♪ふふふっ。」
そう言って、自慢げに笑いかけてくる。ちょっと恥ずかしそうにしているようにも見える。
どう答えればいいのか解らず、呆然とするしかなかった。
「え~っまさかノーリアクション?ひどいなぁこっちはすっごく探したのに…」
「………。」
ただ、僕の呼びかけに反応した「これ」に、もう一度求める。
「………あの。」
「お!なになに?」
「……『水』、欲しい、です。」
「…ガクッ」
そういうと、ちょっと残念そうに、でもそう言うと解ってたかのようにサッと、『水』の入った透明の器を差し出してくれた。
「はいっ、おーみーず。」
「………。」
これだけは解った。
今目の前にあるのが、間違いなく「水」であること。
その事象に感動にも近い物を覚え、「水」を受け取ろうとした。
のだが。
「…………。」
今、その「水」を。
上からだらだらと、かけられている。
思っていた水の受け取り方とは違っていた。
そのことに、少し困惑したが。
「……ありがとう、ございます…。」
「い~えっ♪」
自然と、そう答えてしまった。
むしろこの水の受け取り方の方が満足している自分に気が付いた。
そして、さも当然かのように水をかけてきた目の前の存在に興味が出てきた。
「水」を渡してきたそれは、自慢げに笑いながら、しゃべりだした。
「イーダーって言うの。」
「……え?」
「ほらっ、私の名前っ!」
「………。」
「…覚えて、る?」
「……名前、いーだ…」
「そう!」
「…………」
知らない名前を聞かされ、何か出てきそうで出てこない、そんな悪寒にも近い気分にさらされた。
「……あのう。」
「お?」
「……僕って、誰なんですか?」
「…おおぅ、そっからか~…」
見るからに残念そうな素振りを見せ、何かを決心したような顔でこちらに言ってきた。
「ふふっ、私に付いてきてくれたら、君の今解らないこと、全部教えるよっ!」
「……。」
そう言って、強引気味に引っ張られた。そして_
「さぁ行こ!クーぅ!」
なされるがままに連れていかれるしかなかった。




