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第三十六話 激闘の朝Ⅵ

ロズウェルさんって割と主人公っぽい

 幾本も空中で舞うワイヤーをするりするりと避け、避ける合間にも魔法を放ち応戦する。


「的がちっこくて当たらないのじゃ!」


「お前とそう変わらないだろうがのじゃロリ!」


 応戦の合間に幼児体系二人が言い争う。ゼルウィは黙って攻撃を仕掛けてくる。


 ゼルウィは、ケティが攻撃をして避けた後のアリアの行動を予測して攻撃してくる。そのため、実にいいタイミングで次の攻撃が来るため、攻撃を見て判断して避ける、または弾く、防ぐという動作を一瞬で行わなければならない。


(結構きついな~)


 割とのんきに心中で漏らしてはいるが、実際はそれなりに厳しいものがあった。


 アリアはこの世界に来てから数か月しか経っていない。加えて、戦闘経験も豊富ではない。


 バラドラムを除き、今までの敵は直感や規格外の身体能力だけでどうにかなってきた敵が多い。


 だが、今回の敵はそうはいかない。アリアには劣るが、それでも一般人とは一線をきすほどの身体能力を有している。それに加え、アリアには無い数多くの戦闘経験を有している。とても今までどおりで勝てる相手ではない。


 だがしかし、だからと言って負ける気もない。


(様子見はこれくらいでいいか。この分ならいけそうだし)


 アリアは今まで回避に徹していた。これは、ロズウェルに相手をよく見ろ、と口を酸っぱくして言われているのだ。


 最初、「大口叩いた割には逃げてばっかじゃの!大口女神!!」とケティに煽られ、額に青筋を浮かべながら上級魔法を放とうとしたが、街に対する被害が大きいことに直前で気づき、どうにか抑えた。


 それに、それがばれたらロズウェルにどれだけお小言を貰うか分からないのも、抑えられる要因になった。


 ともあれ、相手の行動パターンも読めてきた。そろそろ攻勢にでてもいいだろう。


 アリアはぐっと足に力を込めて踏み込む。


「のじゃっ!?」


 一気に距離を詰めてくるアリアに、ケティは驚愕をあらわにする。


「ふっ!」


 大剣を両手に持ち振り上げる。


「のじゃあっ!!」


 ケティは慌てて跳び退きながらワイヤーを網目状に張り壁を作り出す。


 だが、アリアの膂力の前にはそんな壁は意味をなさない。剣の風圧によりワイヤーの壁が歪む。そのまま、ワイヤーの壁ごと大剣をケティに叩き付けようとする寸前、後ろからなにかが迫るのを感じ後ろをちらりと見る。


 迫っているのはゼルウィのワイヤーであった。アリアは大剣を完全に振り上げ、頭上にまで持ち上げながら後ろを振り向く。大剣を振り上げたときにケティは吹き飛ばされているので、後ろを気にする必要はない。ただ、少し後ろを見ている間に壁を張りなおされてしまったので大したダメージにはなっていない。


 振り上げた大剣に風魔法を纏わせて力いっぱい振り下ろす。


「おぅりゃあっ!!」


 瞬間、大剣の風圧と魔法による風圧でワイヤーがまき散らされる。


 次の攻撃が来ないことを確認してその場から跳び退き、二人から距離を取る。あの場所では二人に挟み撃ちにされるからだ。ゼルウィも、おそらくそれを狙ってわざわざ後ろにまで回りこんで攻撃してきたのだろう。


 二人を視界で納められる位置まで下がる。


(本当に、ゼルウィとかいう男は頭が回って厄介なやつだな)


 相手の隙を容赦なく突くいやらしいことこの上ない攻撃と、一切の隙を見せない姿勢は素直に称賛するところだ。しかし、相手にするにはかなり面倒くさい。


(もう、街の被害とか考えないでいいかな?剣とちょっとの魔法だけで勝てる相手に思えないよこの二人)


 森で使っていたような強力な魔法が使えないので、それだけで戦闘の幅が大きく狭まっている。


(ううっ…相手に被害だけ与えて周りには無害な魔法なんて知らないしなぁ………)


 一瞬、毒の霧や辺りの温度を著しく上昇させたりする魔法も考えたりはしたが、戦闘後に街にどんな影響が出るかわからないので、即座に却下された。


(こんなとき、ロズウェルなら剣だけでスマートに倒してくれるんだろうなぁ)


 最強の剣士であるロズウェルは魔法があまりうまくない。人並み以上にはできるが、それだけだ。人並み以上など探せばいくらでもいるし、メルリアの魔法部隊にもごまんといる。


 人並み以上の才能では女神アリアに仕えることはできない。そのため、ロズウェルは剣の道を歩んだ。剣であれば、ロズウェルは人並み以上、達人以上の力を発揮できた。それに、ロズウェルの一家は代々剣の才能に秀でた家系であった。ロズウェルには、剣の道しかなかったと言っても過言ではないであろう。


 だからロズウェルは、こういう時に剣でどう立ち回ればいいのか理解している。魔法を使った戦闘を想定していないから、必然、剣で立ち回るときの知識だけが溜まっていく。その中から、すぐに最適解を導き出すことができるのだ。


 まあ、ロズウェルであれば、最適解を導かなくとも、圧倒的な強さでねじ伏せることも可能であろうが、アリアにはそれはできそうもない。ポテンシャルは持ち合わせていても、それを十全に発揮できていないのだから。


(ああ、いかんいかん。すぐにロズウェルを頼ろうとするのは私の悪い癖だ。それより考えろ。この後どうする?)


 未だ、少しだけ距離を空けて睨めっこをしている状態が続いている。こっちも向こうも、攻め方を決めあぐねているようであった。


 向こうは、上昇したアリアの身体能力がさらに増加するのではと危惧し、こちらはただ単純に攻め方が思いつかないだけ。それでも、膠着状態になる両者。


(……ロズウェルなら……ロズウェルならこういうときどうする?どう動く?)


 アリアはロズウェルの戦闘シーンを思い浮かべる。ロズウェルを頼るのではなく、お手本にするために。


 だが、思い起こしていっても、一向に打開策は見当たらない。そもそも、こういう状況のロズウェルを見たことがないし、他の戦闘を参考にしようにも、参考にできない。なぜなら―――――


(ダメだ。よくよく考えればあいつほとんど一撃でけりつけてる……なんの参考にもなりゃしねぇ…)


 全てが一瞬、一撃でけりのついてしまうロズウェルは参考になりえなかった。思わず口が悪くなってしまうほど、参考にならない。はずだった。


(ん?いや待てよ……)


 ここにきて、アリアは閃く。


(そうだよ。一撃で倒せばいいんじゃん。全力を一撃に乗せて放てばいいんじゃんか。そうすれば、立ち回りを気にする必要なんてないわけだし)


 そう閃くや否や、アリアは構えを取る。


 大剣を腰の左に据え、腰を少しだけ落とす。


 若干迷走気味の閃きではあるが、言いたいことは理解できる。ロズウェルがすべて一撃の下で敵をくだしているのが立ち回りの参考にならないのであれば、立ち回る必要のない一撃必殺を参考にすればいいのだ。


 思えば、複数相手でも全て一撃の下でくだしたところを何度も見てきているのだ。それを参考にすればいいだけだ。


(でも、この二人はそこらの雑魚とは違うしな……この二人を一撃で倒せるほどの威力と速度をでいかないと)


 失敗すればそれ相応のリスクを伴う。だが、状況を打破するのに最も得策なのは事実。このままじり貧になるよりはいい。


 ただ、一撃で相手を倒すような強力な技をアリアは知らない。そもそも、魔法はあれども漫画やアニメのような剣を使う必殺技がこの世界にあるのも知らない。


 ならば、どう一撃で倒すのか。


(想像するしかないよなぁ……)


 前世で割と漫画やライトノベル、アニメなどといった創作物が好きであったアリアはそういった知識を総動員して今の状況を打開するに相応しい技を探し出す。


 だが、一向に相応しい技は思い浮かばない。なぜなら、アリアは今も昔もど派手な技が好きだからだ。こういう、静かで、かつ周りに被害が及ばないような技は記憶に残らないし、思い浮かびもしない。


 構えを取ったはいいが、そのまま動かないアリアに、二人は怪訝な顔をする。


 二人に怪訝な顔をされ若干恥ずかしくなってきたアリア。


(ああああ!!もういいや!!一歩でガッと行って、シュバッて倒せば!!)


 少しだけやけになりながらも、集中力を高める。


(一発で決める)


 すっと目を細め最初に討つべき方、ゼルウィを見据える。


(魔法で身体強化してアシストしてもいいけど、多分魔力感知で魔法を使うのがばれるな。となると…………気合いか)


 結局根性論で何とかしようとするアリア。普通であれば根性論だけではどうにもできないだろう。だが、アリアは普通ではない。


 高められた集中力は、精神力へと昇華される。


 魔力ではない深紅の色を宿した光がアリアを包み込む。


 その様子を見た二人の顔は驚愕に染まる。


「な、んだ…それは?」


「なんなのじゃ…そなたは」


「え?なにが?」


 本人は、自分に深紅の光が宿っているのに気づいてないのか呆けたような顔をする。そこで集中力が乱れたのか、深紅の光は霧散する。


「あ!なんか、高まった集中力が途切れた気がする!おのれ、集中力を乱す作戦か!こんちくしょう!」


 叫びながらもまた集中する。


 しかし、先ほどの強大な力を感じた二人が、アリアが集中する時間を与えようとするはずがない。


 だが、アリアを止めようにも迂闊に近づくと何があるか分からない。ゼルウィは辛抱強く出方を窺っているが、ケティはそうもいかなかったようだ。


「くっ!さっきのはやらせんのじゃ!!」


「待て!ケティ!」


 ゼルウィが止めるも遅く、ケティはアリアに肉薄する。


 オーラと同様の深紅の色を宿したアリアの双眸がケティをとらえる。


「死ねぇっ!!」


 ケティが跳びかかる、直後。幾本もの赤い閃光がケティに襲い掛かる。


「うっ!?…………があっ!!」


 赤い閃光がケティを襲った直後、ケティの体中から血が噴き出す。


 赤い閃光は幾回にも及ぶアリアの剣閃。オーラが尾を引き、まるで赤い閃光が襲い掛かったように見えたのだ。


 噴き出る血液と赤い閃光は、さながら彼岸花のようであった。


「こんのぉっ!!うっ、がああああっ!!」


 反撃に出ようとしたケティであったが、アリアがそれを許すはずがなく、もう一度先ほどの剣戟を浴びせられる。それも、先ほどの比ではないほどの数を。


「う…あぁ……」


 間断なく、そして容赦なく浴びせられる剣戟にろくな防御をしていなかったケティは、耐えられるわけもなかった。


 アリアに、止めとばかりに胸を貫かれあっさりと絶命した。


「っ!!くそっ!!」


 ゼルウィには珍しく悪態をつき、その瞳に確かな怒りの色を浮かべる。


「くそがぁっ!!」


 右腕にワイヤーを溜め右腕を目一杯後ろに引き絞り、前方へと一気に押し出す。


「らあああぁつ!!」


 右腕の袖から無数のワイヤーが飛び出す。その一本一本がとてつもない威力を有しており、軌道から外れたワイヤーが地面を深々と抉る。それだけで、そのワイヤーが持つ威力を測り知ることができる。


 だが、アリアはそれを見ても臆することもなくその場に佇む。


 ワイヤーがアリアに到達する。が、その凶刃がアリアの肌を傷つけることはなかった。


 実際は剣で弾いているのだが、剣速が早すぎて幾本もの赤い閃光がワイヤーを弾くように見える。


 全てのワイヤーを弾くと、アリアは一歩踏み込む。


 アリアのいたところで土煙が舞い、アリアの姿が掻き消える。


「なん!?」


 驚愕に目を見張る間も無く、何かの勢いに押され後ろにたたらを踏む。アリアが攻撃するときのように周りに赤が舞う。


 何に押されたのか理解が及ばぬまま視認できぬアリアの姿を探そうとするが、不意に訪れる痛みに顔を歪める。


 何事かと痛みを感じるところを見る。痛みを感じたのは右肩であった。正確に言えば、先刻まで右腕とつながっていた右肩であった。


 そう、肩から下が綺麗に切断されていたのだ。

 舞っていたのはアリアの赤ではなく、自身の血であった。


「ぐうっ!」


 痛みを堪えながらも、なおもアリアの姿を探そうとするが、ここで奇妙な現象に襲われる。


 ゆっくりと視界が下に落ちながら反転していくのだ。


 何が起きたのか瞬時に理解できない。


 くるくると回りながら視界が霞んでいく。霞んでいく視界の中、誰かの綺麗な白い足が映る。そこでようやく理解する。だが、理解したころにはもうすべてが終わっていた。


 アリアは、自分が落としたゼルウィの首を少しだけ眺めると、はあと一つ息を吐いた。


「終わった……ふうぅ……う?」


 ようやく事が済んだと安心したのもつかの間。急激に体に倦怠感がおとずれる。


「体……怠い……」


 一歩二歩と後ろに下がるとぺたんとその場に座り込む。


「少し休むか…」


 本当であれば今すぐにでも加勢に向かいたいところではあったが、今の自分では足手まといになりかねないと判断し、少しの間休むことに決めた。


「これまでにない倦怠感……」


 握っていた大剣を離して隣に置き、アリアは皆の無事を祈りつつ休むべく強張っていた肩の力を抜いた。


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