表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/114

第二十一話 夜明けの強襲

すみません。いつもより遅い上に短いです。

 マシナリアを囲む城壁の上で、いつものように警備に勤めるマシナリアの兵士。


 夜勤の彼らは眠たげに欠伸をしながら秋の夜明けの寒さを耐えていた。


「おい、気を抜くなよ。昨夜"蜘蛛"の一人が捕まったんだ。周りに"蜘蛛"がいるかもしれないだろ」


「す、すみません!」


 欠伸をしているところを先輩に見咎められ、慌ててシャキッとした返事を返す。


 だが、それでも眠たいものは眠たいのだ。今度は先輩にバレないように欠伸をかみ殺す。


「なあ。"蜘蛛"の一人が捕まったって言ったけどよ。その"蜘蛛"がたいそうなべっぴんさんだったって噂なんだが、お前なんか知ってっか?」


 先輩の目を盗み小声で話しかけてくる同僚に、迷惑そうな顔をしながら答える。


「やめろよ。先輩に怒られるだろ?」


「先輩はいつも見回りしてんだ。ここからの小声の会話なんてもう聞こえねえさ」


 そう言われチラリと先輩の方を見やれば、確かに、小声であれば聞き取れないほどの距離にはなっていた。


 その事実があり、渋々だが話を続ける。 


「…悪いがオレは知らん。だけど、噂は聞いた」


「やっぱお前も噂だけか~」


「噂が出回ってるってことは、べっぴんだという事実は変わらないんじゃないか?」


「…確かにそうかもなぁ…」


 同僚はそう言うと会ってみてえなぁと呟く。


「あっ、だけどよ。他にも噂があるんだってよ」


「へえ、どんな?」


「なんでもその"蜘蛛"は、ハーフらしいぜ?」


「ハーフ?別にそんな珍しいことでもないだろ?」


 事実、ハーフはそんなに珍しいことではない。この魔工都市マシナリアにも獣人はいる。獣人がいると言うことはつまり、人族と交われば自然とハーフが生まれると言うことだ。


 魔工都市マシナリアやメルリアでは獣人を差別すると言った風習はない。そのため、他の国よりもハーフは珍しくはないのだ。仲間の兵士にも何人もいる。


 だが、同僚の顔を見るにそう言った別段珍しいことが言いたいわけではないようだ。


 今まで以上に声を潜めた同僚が周りを少し気にしながら言う。


「…実はよ…人と魔人族とのハーフらしいんだ」


「んな!?」


 大声を出しそうになったところを、同僚が慌てて口を塞いで止める。


 先輩を見やればどうやら気付いてはいないようであった。ただ、周りの後輩や同僚には訝しげな目を向けられたが、それは無視すればいいことだ。


「……ったく。大声出すんじゃねえよぉ…ひやっとしたぜ」


「悪い悪い。って言うか、お前も大声出すなよとか言ってくれりゃいいのに」


「それもそっか。まあ、いいじゃねえか」


 少し、いや。とってもはぐらかされた気がしないでもないが、今は気にしないでおこう。


「それよりも、本当か?」


「いやいや。だから噂だってば」


「そんな噂が出てるってことはそれも事実かもしれんな」


 火のないところに煙は立たない。噂も案外外れているわけではないかもしれない。


「あ、あの」


 と、隣で見張りをしていた後輩が話しかけてくる。


「その、勝手にはなし聞いてたんですけど…人と魔人族のハーフっていけないことなんですか?」


「ん?ああ、お前田舎育ちだから分からんのか」


「そうだよなぁ。人だけで構成された村じゃあそう言う意識がないのも当たり前か」


 そういうと、同僚はわざとらしく咳払いをしてから言う。


「いいか?人と魔人族は今戦争中だろ?そんな戦争中の相手との子供を生んでんだ。裏切り者と、その裏切り者の子として周りから迫害されんのも珍しいことじゃねえんだ。それは人に限ったことじゃなくて、魔人族の方でも一緒だ。裏切り者の子として村八分とか、酷い時にゃあ殺されちまうのさ」


「そんな……それって酷くないですか?魔人族の血が混じってるからって殺すだなんて…可哀想ですよ…」


「かあ~っ!お前は兵士に向いてねえなぁ」


「まあ、オレも分からんでもないな。半分とは言え人の血が混じってるんだ。何も悪いことはしていないのに殺されるのは理解できん」


「お前もかよ」


「…そう言えば、奴隷にはされないんですね?」


 魔工都市マシナリアでは奴隷制度はある。だが、それはメルリアにならった奴隷制度だ。つまりは

   

「犯罪者じゃなきゃ奴隷にはできねえよ。魔工都市は犯罪者以外は奴隷にしねえんだ」


 と言うことだ。


「なるほど…でも、それでも殺しちゃうのは酷いです…」


「…んまぁ、お前にも分かるさ。自分の大切な人を殺した種族は例え半分でも四分の一でも混じってりゃあ、それだけで忌避の対象になっちまうんだよ。ま、分かんねえ方が良いかもだけどなぁ」


「分からん方が良い。この世が平和になったときに、そんなしこりがあっちゃ生きにくいからな」


「おめぇ、それこそ夢のまた夢の話だろう」


「いいじゃないですか!そう言うの素敵だと思います!」


「ばっかお前!そんな大声出したらーーー」


「さぼってるんじゃない」


「あて!!」


 同僚がいつの間にか後ろにいた先輩に頭を小突かれる。


 男と後輩は素知らぬ顔で警戒しているふうを装う。


 先輩が言ったのを確認すると、同僚は怨めしげな視線を送ってくる。


「は~あ。もちっと手ぇ抜かせてくれんかねぇ…」


「じゃあ、一生手を抜かせてあげるよ?」


「はあ?」


 同僚の呟きに返事を返したのは突如として目前に現れた黒衣の人物であった。


 同僚、男、後輩は瞬時にそれが誰なのかを理解する。だが、理解するのが少しだけ遅かった。


「あの世に行けば何にもしなくてすむよ?それじゃあね」


 黒衣が手を横に薙ぐ。数瞬後、同僚の体の至る所から血を吹き出して、バラバラに崩れ落ちる。


 そうしてもう一度、今度はこちらに向かって手を横に薙ぐ。


 それを男は槍を立てて防ごうとした。目に見えない何かが迫っていると瞬時に考えての行動であった。


 だが、それでも防げなかったようであった。


 槍がバラバラに崩れ、右腕も崩れ落ちる。


「ぐっ、がああああぁぁぁぁあぁっ!!」


「せ、先輩!!」


「馬鹿野郎ッ!!早く笛吹けッ!!敵襲だ!!」


 駆け寄ってこようとする後輩を叱責する。


「いいよいいよ~笛吹く時間くらいあげるよ」


 ヘラヘラと軽薄そうな黒衣はそう言うとまっすぐに歩く。


 ーーーーーピイイイイィィィィィィィィィィッ!!    


 ここで漸く後輩が笛を吹く。


 黒衣はそれに目もくれずに壁の内側の端っこまで来ると、腰の辺りまで盛り上がっている縁の上に立つ。


「それじゃあねぇ~」


 黒衣はそう言うと軽く飛んで宙に身を投げた。   


 黒衣が去ったことにより、自分達が助かったこと。そして、都市に黒衣が行ってしまったことに考えが及ぶ。


 だが、敵襲を知らせる笛は吹いた。これで都心の方まで知らせは届いているはずだ。


 そう考えると、今度は今まで忘れていた右腕の痛みを思い出す。 


「ぐっ!くそぉ…」


「せ、先輩!!」


 後輩が倒れ込む男に駆け寄る。


「だ、誰か手伝って…」


 一人では無理だと思い周りを見やる。だが、後輩は一人でどうにかしなくてはいけないという事実を知る。


 壁の上には一切人は立っていなかった。つまるところ、生き残ったのは二人だけであったのだ。


 いつ殺されたのかが分からない。気付いたら皆死んでいた。


「ど、どうすれば…」


 許容範囲を超える事態に混乱する後輩。 


「……おい…」


「せ、先輩!」


「お前は…王城に、襲撃の……一報をいれろ…」


「で、でも…」


「い、いから!行けぇッ!!笛を鳴らしたのに街が静かすぎるんだ!恐らく遮音されてる!!街の住民はまだ気付いてない!!だから早く行けぇッ!!」


 最後の力を振り絞り腹の底から声を出す男。  


「は、はい!!」


 その、言葉にことの重大さを理解したのか、後輩は弾かれたように走り出す。


 壁の上には、何カ所か休憩室がある。その休憩室には遠話の魔道具があるのだ。


 後輩は休憩室まで入ると受話器を取りもともと少ない魔力を注ぐ。


「早く!早く出てくれぇ!!」


 苛立たしげにトントンと指で壁を鳴らす。


 そして数秒後受話器の向こうから声が聞けてきた。


『どうした?なにかあったか?』


 その問いに後輩は間髪入れずに答える。


「襲撃です!!"蜘蛛"が攻めてきました!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ