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第三話 出発

今回ちょっと短いです

 王都に伝書鳩を飛ばしてから四日後に返しの伝書鳩が届いた。手紙には二日前に返しの鳩を飛ばしたこと、飛ばしたその日の内に馬車を向かわせたことがしたためられていた。


 そうして、準備や何やらであっと言う間に五日が過ぎた。


 食堂で全員でお茶を飲みながら馬車が訪れるのを待つ。


「いつ頃くるかな?」


「お昼には着くかと」


「そうか。早めにお昼食べておいて正解だったな」


「ええ」


 などと話していると玄関からノッカーを叩く音が聞こえてくる。どうやら馬車が到着したらしい。


 ロズウェルがすぐに立ち上がり玄関に向かう。暫くするとロズウェルが戻って来た。


「アリア様。馬車が到着いたしました」


「分かった。それじゃあ行こうか」


 アリアの声を合図にメイドちゃんズが立ち上がる。アリア自身も立ち上がり皆と共に玄関へと向かった。


「そう言えば荷物は?」


「御者の方が積み入れているので問題ないです」


「そうか」


 玄関を出ると屋敷の前には一台の大きな馬車がついていた。装飾は華美ではないが上品さを漂わせており見るだけで貴族が乗るような物だと分かる。


 マイクロバス程に大きくこれを引く馬はちょっと可哀想だなと思う。


 そう思うと自然と馬車を引く馬に視線が向いてしまう。


 馬を見てアリアは驚愕で目を見開く。


「でか…」


 つい口に出してしまったように馬車を引く馬は大きかった。アリアが小さいから大きく見えると言うだけではない。馬の全長は二メートル半はあり高さは一メートル七十センチはあるだろう。


 地球とは規格外の大きさの馬に呆然としてしまうアリアは、ロズウェルの袖をクイクイっと引っ張る。


「ロズウェル。馬というのはあんなにでかいのか?」


「いいえ、普通の馬はもう少し小さいです。あの種類が特別大きいだけです」


「そ、そうなのか…」


 とりあえずはあれが普通じゃなくて何よりだ。


「アリア様で相違ないですか?」


 ロズウェルと話していると今までは気付かなかったが大きな馬車の後ろに止まっている荷馬車から一人の青年が降りてきてアリアに話しかけてくる。


「そうだけど…」


 アリアが青年の言葉を肯定すると、青年はその場で恭しく膝をつき頭を垂れた。


「お初にお目にかかります。私、イルセント・セラーと申します。此度、アリア様を王都へと送り届ける役目を仰せつかりました。以後お見知り置きを」


「お、おう…」


 あまりの仰々しさに思わずたじろいでしまうアリア。すると、荷馬車からもう一人、今度は少女が降りてきてアリアの前に膝をつき頭を垂れた。


「挨拶が遅れて申し訳ありません。私はステリア・セラーと申します。イルセントとは兄妹でございます。此度は荷馬車の御者を勤めさせていただきます。以後お見知り置きを」


「お、おう…」


 これまた仰々しい挨拶に先ほどと同じ間抜けな返事しか返せなかったアリア。前世では一般人だったため仕方ないと言えば仕方がないと言えるだろう。


 アリアの返事に気分を害したような雰囲気もなく二人は未だ頭を垂れている。


 なぜ頭を上げないのかと思っているアリアにロズウェルが耳元に顔を近づけて助言をする。


「アリア様の許可があるまで二人は顔を上げられませんので許可を与えて下さい」


「え、あ、そうなの?……えと、顔を上げて結構ですよ。それに敬語でなくても大丈夫です」


「「はっ!」」


 返事をすると二人とも顔を上げてくれる。すると、兄のイルセントが言う。


「敬語を解くというのは難しいのでこのままの口調で喋らせて貰いたいのですがよろしいでしょうか?」


「ああ、大丈夫だよ」


「ありがとうございますアリア様。それと、私の事は気軽にイルとお呼び下さい」


「私の事はスティとお呼び下さい」


「うん分かった。イル、スティ、王都までよろしく」


「「誠心誠意勤めさせていただきます!」」


 再び頭を垂れる二人を立たせた後作業の進展具合を聞くとどうやら荷物は全て積み終わったらしい。


 と言うわけで、アリアとセラ以外のメイドちゃんズは馬車に乗り込み、ロズウェルはイルと御者台へ、セラはスティに気を使ってかスティと一緒に荷馬車の御者台へ乗った。 


 ロズウェルが御者台に乗ったのは周辺を警戒するためだ。それに外にいればすぐに戦闘を始めることが出来るからだ。


 セラはスティと歳が同じなので話し相手になれると言うことでスティと御者台に乗った。行きは暇だったのかスティはその事を喜んでいたので問題は無いだろう。


 全員が馬車に乗り込むと、馬車は王都へと出発した。


 揺れると思っていた馬車は以外と揺れは少なく快適に過ごすことが出来た。ミーナによると庶民の使う馬車は揺れが酷くこんなに揺れないと言うことは無いとのこと。やはりこの馬車は性能の良い物だった。


 馬車の内部の作りは、席が左右で向かい合うように作られておりテーブルもある。椅子はふかふかで良い物だと言うのが座り心地ですぐに分かった。


 椅子の後ろの壁には窓がありそこから景色を一望することが出来た。


 アリアは首だけ後ろを向いて窓の外を流れる景色を眺めている。


「アリア様、なんだか嬉しそうですね」


 対面に座るミーナがクスリと笑いながら言う。アリアは前を向くと答える。


「そうだな、生まれて初めて馬車に乗るからな。多少なりともワクワクするさ」


「ふふふっ」


「ん?何かおかしな事言ったか?」


 自分の言葉の後にふふふっと笑うので何かおかしな事を言ってしまったかと思うアリア。


「いいえ、そう言うわけではないです。ただ、そう言うところは年相応だなと思っただけです」


「うっ」


 痛い所を突かれたので思わず唸ってしまう。アリアはこの二週間で年不相応な言動をしてきている。まあ、見た目は子供でも中身は十七の青年なのだ。年不相応になってしまうのは無理無からぬ事だろう。


 それに、ミーナにその気は無くとも、アリアにとっては言外に子供っぽいと言われてしまったのだ。唸ってしまっても仕方無い。


 だが、このままやられっぱなしと言うのも何だか癪なのでアリアも反撃に出る。


「そう言うミーナこそ尻尾ビュンビュン振って楽しそうだな」


「はっ!」


 言われて初めて気づいたのかミーナはふりふりしている尻尾を顔を赤らめて抱き寄せる。その顔は羞恥のせいでほんのりと赤かった。


「しょ、しょうがないじゃないですか。王都、初めて行くんですし…」


「そうなの?」


「ええ、そうです」


「二人は?」  


「初めてです」


「初めてッス!」


 ワクワク顔をした二人も王都は初めてのようだ。


「そうなんだ」


 アリアの言葉にちょっとプリプリしたミーナが説明を入れる。


「王都に行くにはお金と時間がかかりますし、何より皆今日を生きるのに必死ですから王都に遊びになんて行けないんです。遊びに行くのも精々休日に近隣の町か自分たちが暮らす町で服や小物を買うくらいです。それに、近隣の町に行くにも魔物がいるから命懸けなんです」


「んじゃあ、どうやって行ってるんだ?」


「相乗り馬車に乗せてもらうんです。馬車の人が護衛を雇って、その護衛代の何割かと乗車代を支払って乗せてもらうんです」


「へ~」


 こっちの世界の人は色々と苦労をしているらしい。都心に行くにも一苦労。近隣の町に行くにも一苦労。前世のように東京に「ちょっと遊びに行ってくるわ」なんて事も出来ないのだ。


 そう考えるとミーナが嬉しそうにしていた理由が分かった気がする。アリアも、シーロの村まで行くのに二匹の魔物と遭遇したのだ。そんな中では気軽に町に遊びに繰り出すなんて出来るわけがない。


「苦労してるんだな」


「それはもう。……ですから、何にせよ王都に行けるのは正直嬉しいんです」


 ミーナはそう言うと恥ずかしかったのか少し顔を逸らしてしまう。


「からかって悪かったな…」


「いえ、そんな!気にしないで下さい。それに、からかったのは私も同じなんですから」


「それじゃあ、お互い様と言うことで」


「はい、そうですね」


 にこやかに笑うミーナにアリアも微笑む。


 チナの尻尾がビュンビュンと振られているのが視界に入り、二人に視線を向けると、ユニとチナは窓の外を見てきゃいきゃいとはしゃいでいる。今の所木々しか見えないが何やら楽しんでる様子。ミーナも二人にならって窓の外を見ている。


 アリアも視線を窓の外へと向けるとぽつりと呟く。


「年相応か……」


 アリア自身も自身の行動が年不相応なことは分かっている。その事を一度ロズウェルに言われたこともある。


 自分の年不相応な言動で人々を救えるかもしれない。年相応にして人々を救えるかもしれない。という考えがアリアの中にはある。


 年不相応な言動をして逆に頭の良さを出し人々から信頼と信用を勝ち取るか。年相応な言動をしてその純粋さで人々の信頼と信用を勝ち取るか。


 アリアにはこれらを使い分けるという選択肢は無い。自分がそこまで器用でないことをアリアは知っている。それをするとどこかで必ずぼろが出る。どちらかに徹しないといけないのだ。


「はぁ…」


 一つ小さな溜め息をもらす。


 こういう時は自分だけではなく他人に聞いてみるというのも一つの手だ。


 そう考えると、アリアは席を立ち御者台と通じる窓のある所まで移動する。


 コンコンと気の窓を叩く。少しすると窓が開く。


「どうしました?何かございましたか?」


 聞いてきたのはロズウェルだ。イルは手綱を握っているので視線だけちらりとこちらに向けていた。


「なあロズウェル。私は年相応に振る舞った方がいいか?それとも今のままが良いか?」


 唐突な質問に目をしばたたかせるロズウェルにこれに至までの経緯を話した。


 ロズウェルは若干難しそうな顔をすると言った。


「私は、今のままでも充分だとは思いますが…」


「そうですね。どちらかと言われると私も今のままでよろしいのではないかと思います」


 話を聞いていた、と言うかこの距離では聞こえていたのだろうイルも意見を出す。


「理由を聞いても?」


「人間は感情よりも理屈で考えることの方が多いですから。特に何らかの信憑性を得たいときにはそれなりの理由と証拠が必要です。年相応の女の子では出来ることが少なすぎます。ですから、今のままがよろしいかと」


 話半分に聞いていたのかと思っていたが意外とまともな答えがイルから出たことに若干驚くも、なる程確かにそうだとも思った。


「すみません。ただの御者役が出過ぎたまねをしてしまって…」


 アリアが感心しているとばつの悪そうな笑顔でイルは言った。


「いや、構わないさ。意見は多い方がいい。特に何かに悩んでるときはな」


「そう言っていただけると無い頭をひねった甲斐があります」


 無い頭をひねったと言う割にはラグ無しで言えていたが、そこは突っ込まない方がいいだろう。謙遜に突っ込むのも野暮なものだ。


「そうか…今のままでもいいのか…」


「そうですね。ですが、情報は多い方がいいでしょう。アリア様、年相応となるとどんな感じでございますか?」


「どんな感じ、か…」


 ロズウェルの質問にうーんと考える。前世でアニメやラノベを見て来たアリアは幼女系の物をリストアップしていきどのキャラが今の自分の外見にマッチしているかを脳内で検証していく。


 そうして弾き出された結論を口にした。


「私は活発と言うより大人しい、または凛々しい、綺麗と言うのが当てはまるな」


「と、言いますと?」


「うむ、実践してみるか。シチュエーションはどんなのが良いと思う?」


 こんな質問が出てくるのだからアリアはだいぶノリノリだ。まあ、何のお題も無しにやるのが難しいと言うのもあるが、暇つぶしと言うのもある。


「そうですね…それでは無難に『お兄ちゃんに好きな気持ちを伝える』というのはどうしょでしょう?」


「どこが無難なんだ…まあいいか。よしやってみよう」


 真面目な顔をして変なことを言うイルにそう突っ込むと、アリアは「んんっ」と可愛らしい咳払いをするとロズウェルに視線を合わせる。


 そしてーー


「いつも一緒にいてくれてありがとうお兄ちゃん!私、お兄ちゃんの事大好きだよ?」


 ーーと言った。


 するとーー


「「ぐはっ!!」」


 ーー二人は大量の鼻血を吹き出し体を仰け反らせた。


 イルは馬車の壁に盛大に頭をぶつけ、横向きになっていたロズウェルは馬車からはみ出るほど体を仰け反らせた。


 体を元に戻し鼻にティッシュを詰める二人は爛々と光る目をアリアに向けて言った。


「「もう一度、もう一度お願いします」」


 二人の真剣な顔にアリアは満面の笑みを浮かべると言った。


「お断りします」


 アリアは顔を引っ込め窓を閉めると内側から鍵をかけた。


 外で何か言っているが気にしない方向でいこう。


「あの、アリア様。大きな音がしましたが何かあったんですか?」


 見ると馬車の中にいた三人娘が不思議そうな顔をしてアリアを見ていた。


 三人に笑顔を向けると疑問に答える。


「何でも無いよ。外に変態がいただけ」


 嘘は言ってない。確かに外に変態はいた。ただし、その変態は御者と従者だが。


 勿論三人はそんな事知る由もないので不安げな顔で言う。


「まあ、怖いですね。大丈夫でしょうか?」


「だ、大丈夫ッスよ!この馬車には師匠がいるんスから!」


「そ、そうだよね!うん、大丈夫!」


 と、安心している三人娘には変態が外の二人だとは言えない。


 話す三人を尻目にアリアは結論を口にする。


「とりあえず…今のままでいいか…」


 完璧超人のロズウェルの意外な一面を知りアリアは少し残念な気持ちになった。


(もうちょっと違う面が知りたかったよ)


 アリアは苦笑しながら、ロズウェルならどのようにして変態を倒すのかを話す三人娘に目を向けた。


 そのお題の場合ロズウェルは自滅しか無いなと思ったりするが勿論口に出すことはしなかった。      

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