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第五話 メイドを雇おう⑤

 涙混じりのハイロの説明を聞いたアリアはこの町の空気が嫌に張り詰めていたのはそのせいかと理解した。


 アリアは後ろにいたムスタフに鋭い視線を向けると言った。


「ムスタフ、捜索隊を出せ今すぐにだ」


 ムスタフは若干気圧されながらも言った。


「そ、そんな、二人のためだけに捜索隊なぞ出せませんよ」


「二人だけじゃ無いだろ!何人もさらわれてる!!」


 アリアの剣幕にムスタフは数歩後ずさる。


「た、例えそうだとしてもそいつの言っていることが本当とは、か、限らないではないですか…」


 アリアは捜索隊を出そうとしないムスタフに違和感を感じた。


「う、嘘なんか付くもんか!!お願いだ捜索隊を出してくれ!」


 涙を流しながら懇願するハイロにムスタフは汚物を見るような目をすると言った。


「ふん!証拠がないなら動きようがない!それに何だ!男の癖に涙なんぞ流しおって、情け無い!」


 それを言った直後、ムスタフが後方に大きく吹き飛んでいった。それを見た者全員が目を丸くした。


 何故ならばそれをしたのがアリアだったからだ。


 アリアはムスタフの言葉を聞くや否や自分の倍以上の背丈のあるムスタフの顔の高さまで跳躍するとその手で殴り飛ばしたのだ。


 どこにそんな力があるのか、ムスタフは五メートル以上も吹き飛んでいった。


 着地したアリアは今まで見たことのないくらい凄みのある剣幕で言い放つ。


「家族のために流す涙を情け無いなんて言うなっ!!!!」


 アリアは振り向き、先程の剣幕が嘘のような優しい顔をするとハイロに言った。


「安心しろハイロ、ユニとニケは私が必ず見つけ出す。何があってもだ」


 ハイロはアリアの言葉を聞くと一瞬何がなんだか分からない顔をしていたが、アリアの言葉を理解すると滂沱の涙を流す。


「あ、ありがどう…ございばす…っ!!」


 アリアはハイロの頭をポンポンと叩くと、ロズウェルに向き直る。


「行くぞロズウェル!ユニとニケの捜索をする!これは急務だ!」


「かしこまりました。…ですが、それらしい所は恐らくはハイロとソロージが捜し尽くしたと思われます。土地勘のない我々ではハイロよりも捜すのは困難かと」


 ロズウェルはアリアを抱き上げつつ現状を冷静にアリアに伝える。アリアは少し考えるとハイロに言った。


「ハイロ、今日感じた違和感とか、捜してないところとか無いか?」


「違和感…捜して、無いところ…」


 ハイロは思考をフル回転させる。そして今日感じた違和感にたどり着く。そしてその違和感は、ハイロの中で確信に変わった。


「そう言えば、今日、ソロージ先輩の家の前で木箱を運ぶ男四人を見ました。運んだ先には店なんか無いので納品するという訳じゃ無いと思います!…多分、ですけど…」


 自信なさげなハイロであるが、恐らくその線で間違いはないであろう。


「ああ、恐らくはその木箱の中身がユニとニケだ。そうと分かれば行くぞロズウェル!」


「あの!」


 駆け出そうとするロズウェルをハイロが止める。


「僕が案内します!あそこは道が入り組んでるので、直ぐに迷子になると思いますので!」


 アリアは涙を拭いながらそう言うハイロに言う。


「走れるか?」


 ハイロは誰がどう見ても疲労困憊だ。とても走れる様子ではない。だが、ハイロはアリアの問いに力強く頷くと立ち上がった。


「はい、走れます!」


 アリアはそれを見て満足そうに頷く。


「それでは案内を頼む」


「はい!」


 ハイロは返事をすると駆け出す。


「こっちです!」


 先を走るハイロの少し後ろを走るロズウェルにアリアはムスタフに感じた違和感を口にした。


「ロズウェル、ムスタフは何かを隠してる。多分人攫いがらみのことだ」


「アリア様もそう思いますか?」


「ああ、大体おかしいことがあり過ぎる」


 アリアは指を一つ立てると、これまで感じた疑問を言っていく。


「一つは時間帯だ。何故奴らはこんな白昼堂々と人攫いが出来る?人攫いの起きた時間は恐らくは昼頃だ。普通、人をさらうのは夜中とか、人が少ない時間帯だろ?これじゃあ、リスクが高すぎる。それなのに奴らは平然とやってのけた」


 言い終わるとアリアは二本目の指を立てる。


「二つ目はムスタフのあの態度。何故奴は町で噂になるほどに人攫いが起きているのに捜索隊の一つも出さない?領民が行方不明なんだ普通は出すだろう?それなのに奴は出さない。私が促しても渋っていて、非協力的だった」


「理由として考えられるのはやはり?」


「ああ、裏で糸を引いてる奴がいる。それがムスタフだ。…ただ、なんで人攫いをしているのかが分からない。奴は別に金に困ってるわけではないだろ?」


 ムスタフの太った体を見る限り奴はかなり裕福な暮らしをしているののが一目で分かった。それなのに金を必要とする理由は何か。


「まあ、それは人攫いの頭目とムスタフ本人に聞けば良いだけだ」


「そうですね」


 話をそれで終わらせるとロズウェルは黙々とハイロの後を追った。


 暫く走るとハイロが言っていた怪しい男達が入っていったと言う裏路地に到着した。


 そこは、確かに家以外には店も無く、そこに大きな木箱を運んでいたと言うのはいささかおかしな話である。


「取り敢えず、ここらの家を捜索するか」


 そう言うと三人は二手に分かれて捜索を始めた。家はそんなに数があるわけではないので直ぐに全ての家を調べることが出来た。ここまですんなり捜索が出来たのはアリアが女神であることと、ロズウェルが公爵家の子息だったからだろう。


 だが、ユニとニケは見つかることはなかった。


 ハイロは落胆した声音で言った。


「ここじゃなきゃどこなんだ…クソッ!」


 ハイロは苛立ち、石畳の道を蹴りつける。それをアリアがたしなめる。


「落ち着けハイロ。焦ったら、見える物も見えなくなる」


「………はい」


 だが、いくら落ち着いていても手掛かりらしい手掛かりをアリアは掴めないでいた。


「見えるものも見えない……そうです!それですアリア様!」


 何か閃いたらしいロズウェルは石畳の道を見る。そして何かを見つけたのかアリアを抱えるとそこまで走っていく。


「おいロズウェル、何を見つけたんだ?」


「これですアリア様!」


 ロズウェルが指差す先にあったのはそれなりに大きなマンホールだった。


「マンホール何てあったのか…」


 この国にもマンホールがあるらしく感心するアリア。


「感心している場合ではありませんアリア様!マンホールが有ると言うことはこの下には空間があると言うことです!」


 ロズウェルにそう言われアリアは気づく。


「そうか!地下の下水道か!!」


 アリアはこの世界に下水道などという物が有るとは思っていなかったので、これは完全に盲点だった。


「ハイロ!この穴にお前の見た木箱は入るか?」


 アリアの問いにハイロは数秒マンホールを見つめ考えると力強く頷いた。


「はい、入ります!」


 それならばここで間違いないだろう。アリアがロズウェルに視線を向けると、ロズウェルは即座に頷きマンホールを開けた。


 穴の高さは意外に短く、あって二メートルだ。恐らくはそこから階段になっているのだろう。


「ロズウェル、私を降ろして先行しろ」


「かしこまりました」


 ロズウェルはアリアを降ろすとその穴に飛び降りていった。安全を確認したロズウェルがアリアに言う。


「問題ありません。降りてきても大丈夫です」


「分かった。ハイロ、私が先に降りる。お前は最後に蓋を閉めてくれ」


「分かりました!」


 ハイロに指示を出すとアリアはそのままぴょんっと飛び降りる。その後にハイロが続き蓋を閉めて降りてくる。


 飛び降りたアリアをロズウェルが受け止めて地面に降ろす。ハイロが降りてきたのを確認すると三人は歩き始める。


 通路は人一人分は余裕を持って通れる広さだったが剣をふれるほど広くはないのでロズウェルは軍刀を抜かずに進んだ。


「ロズウェル、一応言っておくが全員生け捕りにしろ。奴らには犯罪奴隷になってもらう。ただし、やむを得ぬ場合は殺してもかまわん」


「分かりました」


 一応声を潜めて喋ったのだが閉鎖空間故か音がだいぶ反響してしまう。音をたてないように気をつけながら歩く。


 暫く歩くと広い空間に出た。


「何ですかね…ここ…」


「大方、マンホールは地下に下水道があると見せかけるためのダミーだ。ここが奴らの本拠地なんだろうな」


「二人ともお静かに。誰か来ます」


 ロズウェルに言われ元来た道に戻り身を潜める。


 複数の足跡と共に複数の声が近付いてくる。反響して聞きづらかった声は近付いてくるにつれ聞きやすい物になってきた。


「今日の仕事は楽だったな~」


「そうだな、騎手にも手伝って貰ったしな~」


「それにしてもよぉ。今回の娘、結構上玉じゃねえか?うっぱらう前に輪姦まわさねえ?」


「おっ、いいねえ!」


 男達の下品な会話と笑い声を聞いてアリアは言う。


「やれ、ロズウェル。聞くに耐えん」


「かしこまりました」


 ロズウェルはおもむろに小道から出て行くと軍刀を抜いた。それを見た男達は怪訝な顔をしながらも己の得物を抜いた。


「なんだてめぇは!どっから湧いて来やがった!」


 男の誰何すいかにロズウェルは剣を構えて答える。


「クズに名乗る名は、生憎あいにく持ち合わせておりません。ですが、あえて言わせていただくならば…敬愛する女神様のしがない従者でございます」


 その言葉を言い終わるとロズウェルは颯爽と駆け出す。相手の数は四人。


 ロズウェルは一番手近な男に駆け寄る。


「クソが!!」


 男が上から振るう大剣をロズウェルは余裕をもってかわす。かわしながらロズウェルは大剣の男の手の腱を斬りつける。手の健を斬られた男は大剣を取り落とす。大剣を取り落とした男の鳩尾に鋭く左手で手刀を入れる。それだけで男はうずくまり嘔吐しながら気絶してしまう。


 次にロズウェルは同じ軍刀を持った男に接近し、今度は男が攻撃する暇も与えずに両手の腱を斬り軍刀の峰で首筋を打ち付ける。


 そして、打ち付けたと同時に駆け出し三人目に肉迫するとまたもや両手の腱を斬り無力化して軍刀の峰で首筋を打ち付ける。  


 最後の男は逃げようと踵を返したが時既に遅くロズウェルの手刀により昏倒させられる。


 流れるような動きで四人を昏倒させたロズウェル。


 得物はどれも安物の剣のみ。そして、構えもなっていない。そんな連中が王国最強に適うはずがなかった。


「す、すげぇ…」


 ロズウェルの戦いをひょっこりと顔を覗かせて見ていたハイロは感嘆の声を上げる。


 アリアもロズウェルの戦闘を見ていたが周りにはちゃんと気を配っていた。完全に無防備なハイロの脇腹に肘鉄を入れつつロズウェルに近寄る。


「お疲れ様ロズウェル。…こいつらどうやって拘束する?」


 手拭いで軍刀に付いた血を拭っていたロズウェルは軍刀をしまうと言った。


「お任せを。の者を捕らえよ《捕縛》」


 ロズウェルがそう唱えると男達の倒れている所の地面の一部が浮き上がり男達を地面に縫い付ける。


「便利だな魔法は」


「そうですね。…それでは先を急ぎましょうか」  


 ロズウェルの言葉でアリア達は道が続いている方へと歩き始めた。    


  

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