第六話 メイドを雇おう⑥
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暫く歩いていったアリア達だったが最初に通った通路以外に通路は無く、道の終着点まで来てしまっていた。
「おかしい…部屋も無ければ通路も無いなんて…」
「部屋が無いなら連中は何でここに来たんですかね?」
アリアとハイロがう~んと唸って考えているとロズウェルが壁をコンコンとノックして歩いている。
ロズウェルがあるところで止まって壁の二カ所をコンコンとしているのを見てアリアはロズウェルが何をしているのか理解できた。
「隠し扉か?」
「ええ、その様です。壁の音が軽すぎます」
「よし、壊せ」
「分かりました」
アリアが命令するとロズウェルは躊躇うこともなく軍刀を抜き壁を数回斬りつけた。すると、ロズウェルが斬った壁がバラバラと崩れていった。
「ビンゴだな…うっ!?」
通路が見え中に入ろうとした瞬間に悪臭が鼻についた。思わず袖で口と鼻を押さえた。
ハイロは臭いにあてられてその場で吐いてしまっていた。だが、アリアはこの臭いを嗅いで吐いてしまったハイロを情け無いとは思わない。それだけこの臭いは強烈だった。
アリアが吐かないのは意地のような物だった。ハイロがいなくお供がロズウェルだけだったらアリアも吐いていただろう。彼が縋っている自分が情け無い姿を見せるわけにはいかないのだ。
未だに咽づいているハイロをロズウェルは背中をさすって落ち着かせていた。
ロズウェルはこの臭いを嗅いでも何ともない顔をしている。これも王国最強故なのだろうか?
「ロズウェル、ハイロを頼む。私は先を見てくる」
「…分かりました。何も無いとは思いますがお気をつけて…」
「待って下さい、アリア様!お、俺は大丈夫です!俺も行きます」
袖で口を拭い青白い顔をしながらも気丈に付いて行くと言う。だが、アリアはそれが強がりだと分かっていた。足手纏いになりたくないと思っていることも知っ分かっていた。多分、アリアじゃなくても分かっただろう。
そんなハイロの頑張りは買う。買うが連れては行けない。
「ダメだ。お前を連れては行けない」
「どうして!?」
「お前は、この先で見る物に耐えられない。それに、向こうで吐かれても困る。だから連れては行けない。お前だって分かってる(・・・・・)だろう?」
「……はい、すいません…」
ハイロもアリアの言葉の意味が分かったのか素直に頷いた。だが、その顔は自分に対する不甲斐なさで一杯だった。
アリアはそれを見るとハイロに言った。
「今はそれで良い。お前はまだ若い。これから強くなればいい」
「…はい」
アリアはそれを聞くとロズウェルに視線を向ける。ロズウェルは「お任せ下さい」とばかりに頷く。
アリアは通路の先を進んでいった。
通路は臭いが充満していて入り口の非では無いくらいに異臭がした。異臭が目に染みるが構わず進む。
通路はそんなに長くは無く、直ぐに広い空間に出ることができた。アリアは部屋の景色を見た瞬間に怒りで奥歯を噛みしめる。
「…これは…なんて事を…っ!!」
アリアの目に映った光景は凄惨をなものだった。
「許されないぞ…こんなの!」
アリアの目の前には死体が無数に積み上げられた山があった。百は優に越えているだろう。
入り口まで漂っていた異臭はこの死体の放つ腐敗臭だったのだ。
アリアもロズウェルもここが死体置き場であろうことは臭いで理解ができていた。ハイロも途中からそれに気付いたようで、吐いてしまっていた自分に不甲斐なさを感じてしまったのだろう。
付いて来ると言ったハイロを止めたのはこの死体の目の前で吐いてしまえばそれは死者への冒涜なるからだ。ハイロもそれを理解してアリアの言葉に従ったのだ。
アリアは歩きすすめ死体の状況を見る。
比較的に新しい死体を見つけると観察する。死体には暴力の限りを尽くされた後があり、彼女に行われた行為の卑劣さを物語っていた。
よく見ると死体の全てが女性だった。つまり、彼女達は性欲の捌け口にされて殺されたのだ。
アリアは数歩下がると祈るようなポーズをとり目を瞑ると囁くように言った。
「貴女達の仇は私が必ずとろう。だから、安心して逝ってくれ…」
アリアは女神だが人を生き返らせることは出来ない。だから、せめて彼女達が安らかに眠りにつけるように祈るのだった。
アリアが進んでいったのを見守るとハイロはぽつりと呟いた。
「俺は…自分が情け無いです…」
「…それは、どういった意味で?」
「全部ですっ!家族を守れなかったこと、ここで吐いてしまったこと、人に頼ってしまうこと、頼った相手に任せっぱなしのこと、その全部ですっ!!」
ハイロは拳を握り締めて地面に叩き付ける。何回も何回も。
「この先は多分死体置き場のはずです!なのに吐いてしまった!死者への冒涜だ!」
ハイロの地面を叩く手が次第にゆっくりとした物になっていき、やがて止まる。
「何で俺は弱いんだ…!なんで自分で助けられない…!なんで助けに来ても足手纏いなんだ…」
「それは、仕方の無いことです」
ロズウェルの言葉に涙に塗れた顔を上げるハイロ。
「仕方無い…?」
「ええ、貴男は新米の兵士。場慣れをしていなくてもし仕方はありません」
「でもっ!…それでも…俺は…」
新米だから場慣れしていないのは自分でも理解していた。だが、気持ちは理解に追いついていなかった。
何でも出来るなんて端から思っていない。それでも、自分のやらなくてはいけない事くらいはやり遂げる力が欲しかった。
「ですが」
ロズウェルは未だに下を向いているハイロに言った。
「仕方の無い事を仕方の無い事と受け入れるのは格好の悪い事だと、私は思います」
「っ!?」
ロズウェルの言葉に弾かれたように顔を上げる。ロズウェルはハイロの目をしっかりと見据える。
「今は出来なくても仕方はありません。ですが、それを受け入れないで下さい。出来なくて仕方無い自分を否定してください。否定して、その先を目指してください」
ロズウェルの言葉を聞きハイロの目に力が入る。
「さあ、分かったなら立って下さい。今の地面に這い蹲る貴男は仕方の無い事なのですか?」
ハイロは拳を握り締めて立ち上がる。
「仕方無く…無いです!俺は立てます!」
「その息や良しです。…差し当たっては…」
ロズウェルは通路の奥を見据える。
「我々も行くとしましょう。先ずは第一歩です」
「はい!」
祈りを捧げていると通路から足跡が聞こえる。数は二つ。恐らくはロズウェルとハイロだろう。
目を開けて後ろを振り向き部屋に入ってきた二人を見据える。
「来たんだな」
「ええ、大丈夫そうでしたので」
そう言うとロズウェルはハイロを見る。その顔は青白く我慢しているのが分かる。だが、その目には確かな思いが宿っていた。
ハイロは死体の山を見据える。彼は顔色は悪いものの吐いたりはしなかった。
ロズウェルに「何かしたのか?」と目で聞く。
「一歩前進、と言ったところです」
わけが分からなかったが、取り敢えずハイロにとって良い方向で何かあったのは分かった。
ハイロに視線を向けると、ハイロは不安そうに死体を見続けていた。
「安心しろハイロ。その中にお前の妹はいない。それより、手遅れになる前に先を急ごう」
「……はい!」
ハイロは一度黙祷をするとアリアの後に続いた。
死体置き場を出て来た道を戻りながらも隠し通路を探す。見つけた二つ目と三つ目はただの物置だったようで外れだった。
「ありました、四つ目です」
ロズウェルが四つ目を見つけると今度は壁に丸い穴を開けて慎重に扉を開けていく。
今まで扉を壊していたのはロズウェル曰わく中に人の気配がしなかったかららしい。そのロズウェルが慎重に開けると言うことは中に人がいると言うことなのだろう。
ハイロもその事を理解してか緊張の面持ちで腰の剣に手を添える。
ロズウェルが先行して中に入っていく。その後にアリア、ハイロと続いた。
中に入ると、女の泣き声混じりの喘ぎ声が聞こえてきた。それと同時に甘っとろい臭いも漂ってきた。恐らくはそう言うことなのだろう。
アリアはロズウェルを止めると囁いた。
「殺せ。複数いたら全員だ」
「かしこまりました」
ロズウェルだけを行かせる。すると、男の怒号や叫び声が聞こえてきたが暫くするとそれも止んだ。
「終わったな、行くぞ」
「はい」
アリアとハイロは無警戒に進んでいく。少し歩くと開けたところに出た。そこには三人の少女と八人の男の死体が転がっていた。
三人の少女は血塗れた剣を持つロズウェルを前に震えていた。
「ロズウェル、下がれ」
「はい」
ロズウェルを下がらせてアリアが前にでる。すると少女達の顔が信じられないという顔をした。それも、仕方の無い事なのだろう。アリアは女神なのだから。アリアの銀の髪はこんな薄暗い地下でも綺麗な輝きを放っていた。
アリアは少女達に微笑むと言った。
「もう大丈夫だ。私達は救助に来たのだ。よく耐えたな」
アリアが慈しみの笑顔を向けると少女達はやっと現実を理解できたのかその目を潤ませると泣き出した。
アリアは少女の頭を撫でると少女はアリアに抱きついてきた。他の二人もアリアに抱きつき滂沱の涙を流す。
「ロズウェル、物置にあった毛布を持ってきてくれ」
「かしこまりました」
「ハイロはロズウェルに付いて行け」
ハイロを連れて行かせるのは二人の内一人が運搬で一人が護衛というのもあるが、女性の肢体を見せるのもどうかと思ったからだ。
「はい、分かりました。ですが、一人で大丈夫ですか?」
「ああ、問題無い」
魔法の手加減は出来ないが、いざとなったら殺せばいいだけだ。
二人が毛布を取りに行くとアリアは少女三人を見る。
一人は黒っぽい茶髪にそばかすのある女の子。一人は黒い髪の毛の落ち着いた感じの女の子。一人は赤毛の活発そうな女の子。
そして、茶髪と黒髪の子には共通点があった。それはーー
(ケモミミついてる…)
ーー獣の耳が付いているというところだ。見れば、尻尾もついていた。
ここで、念願のケモミミ少女を見ることが出来、モフモフも可能なのだが場所と雰囲気があれなのでそんなことはしない。もっと違う場面で会いたかったなと思う。
アリアは少女達を順番に撫でながら言った。
「それで足音消してるつもりか?」
言葉を放つと後ろに向かって風の弾丸を放つ。
「ぐはっ!!」
声を上げながら男が吹き飛んでいく。アリアは振り返ると呆れを隠さない声音で言った。
「それで足音消してるつもりとかド三流にも程があるぞクズが。って聞こえてないか…」
壁に頭をぶつけたのか白目を剥き口から泡を吹き出して気絶している男を見る。
「彼の者を捕らえよ《捕縛》」
魔法を使って男を地面に縫い付けると少女達を見る。少女達は男が来たことで震えていたが男を無力化すると段々と震えが止まっていった。
暫くするとロズウェル達が毛布を持って戻って来た。男が増えている事に驚いていたが訳を簡潔に話すと納得した。
毛布をそれぞれの少女にかけてやる。
「私達はこれから他の隠し部屋に行かなくてはいけない。悪いが付いてきてくれ。少なくともここに留まるよりは安全だ」
「は…はい…」
黒髪の子が返事をすると他の子もこくこくと頷いて肯定を示す。
「よし、それじゃあ行こうか。なに、安心しろ。ここにいるのは王国最強の剣士だ」
少女達を安心させるために少しおどけた調子で言ってみたが、王国最強の剣士と聞いて安心したような顔をした。流石は王国最強様だ。
「よし、それじゃあ行くぞ」
残る部屋を探りにアリア達はこの部屋を後にした。




