ACT.4 Chap.5
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「話は終わったか」
部屋に入ってきた那由多は、両手に和綴じの冊子を抱えていた。
「流惟、こいつに何もされていないだろうな?」
「されてないってば。もう、せんせは本当に心配性なんだからなあ」
流惟はむぅと口を尖らせてみせる。サイプリスが苦笑して、彼女の頭を撫でた。
「随分とすっきりした顔しているじゃないか。感謝しろよ―――流惟が手を汚さなくても、お前が死ねる方法を見つけてやったんだからな」
「せんせっ! でもサイプリスさんは、生きるって……」
「話は最後まで聞け、ばか。死ぬと言ったって、残念ながら今すぐではない。寿命が来たら、の話だ」
流惟の肩を引き寄せた那由多は、手にしていた冊子のうち一冊を覗き込ませる。
「しかし、ヴァンパイアの血は不老不死の力を持っている」
「そうらしいな。だが、曾祖父さんの研究では―――吸血鬼の血液同士は強力すぎて、互いに殺し合うとある。丁度、酸とアルカリの中和反応のようなものだ。そうなんだろ?」
「ああ、それは事実だ。―――だからヴァンパイアは、同族の血を吸うことは許されていない。自滅に繋がるからね」
サイプリスが神妙な顔をして頷くと、那由多は口角を持ち上げて、冊子の黄ばんだページを繰って続ける。
「そこで、だ。あんたは言ったな、流惟の血液の中には吸血鬼の血がまだ残っていると。それを継続的に飲み続ければ、ごく僅かずつではあるが、あんたの中の吸血鬼の血は死んでいくわけだ。もちろんその死んだ分は、俺の血をくれてやる。吸血鬼の体内の血液は、骨髄で生成するのではなく摂取した血液を予めあった吸血鬼の血液によって同質のものに作りかえることによって満たされているらしいな。それならば、何年かかるかは分からんが―――いずれ、あんたは『人間』になるってことだ」
「すごい……! 先生、それすごくいいじゃん!」
流惟が目を輝かせて那由多の腰に縋る。驚きを隠せずに言葉を失ったサイプリスも、少なからず表情が明るくなっていた。
「ただし、あんたが吸血鬼の血を失って、どんな副作用があるかが分からん。一度は死んでいる肉体だからな。すぐに衰えて死ぬかもしれない。それから―――流惟にも、負担がかかる」
「たとえすぐに死んでしまったとしても私は構わない。それまでに、精一杯生きればいいのだから。もちろん、それはルイに無理をさせないならば、の話だ。君の体調を崩すようなことをするくらいなら、今のままの方が遥かにマシだ」
那由多とサイプリスの視線はひたと流惟に向けられた。両者とも整った顔立ちをしているだけに、こうして注目されると威圧感がある。
流惟は二人の顔を見比べて、
「わたしは、それでサイプリスさんが救われるなら喜んで血をあげるよ。―――と言うか、小さい時に助けてもらった恩返しが出来るんだよね。だから、すっごく嬉しい!」
無邪気な笑顔に、那由多とサイプリスも相好を崩した。
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