表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/26

ACT.4 Chap.3


     3


 すっかり話が長くなってしまったね、と笑んだサイプリスは、ふと視線を落として流惟を見た。あどけない寝顔に表情を緩ませる姿からは、おおよそ彼が語ったような壮絶な半生を送ってきたとは予想も付かない。

 ―――だからこそタチが悪い、と那由多は胸中で盛大に毒づく。

 サイプリスは酷く愛おしげに、流惟の髪を撫でていた。那由多は不機嫌そうに顔をしかめてから、青年の美貌を真っ直ぐに見据えた。

「あんたが流惟に助けを求めた理由、―――十年前の流惟の交通事故が何か関係しているのか?」

 眼鏡の下の瞳は、サイプリスの心中を探るようにひたりと彼に向けられて微動だにしない。一方青年も、ふと碧眼を細めたが、何も答えようとはしない。

「答えられねぇってのか。あんたは、車にはねられた流惟を叶医院(うち)に運んできて、俺と共にあいつに輸血をした男だった―――違わねえだろ?」

「驚いたな、その通りだよ……いつから気づいていた?」

「あんたの姿―――子供じゃなくて今のナリの方、だ―――を見てすぐに分かった。まあ、子供の姿の時から、見覚えがあるなという気はしていた」

「そうか……、それは迂闊だったな。ずいぶん前のことだから、君はもう忘れてしまったと思っていたが」

「そんなに耄碌する歳じゃねえ」

 那由多は苦々しげに吐き捨てる。あくまで高圧的な態度を崩さず会話の主導権を握っている彼だったが、その実余裕などまるでなく、手の震えを否応なしに感じていた。サイプリスを恐れているのではない。彼がヴァンパイアであるということは最早那由多には「今更」のことであり、またサイプリスが自分を襲うことはないという確信もしていた。

 恐れているのはただ一つだ―――サイプリスの血液を輸血された流惟が、彼と同様にヴァンパイアになってしまっているのではないか、と。

「ルイならば、ヴァンパイアになどなっていないから安心するといい」

 那由多の手の震えに気付いたサイプリスは、そう落ち着いた口調で言い諭す。たちまち那由多が、安堵したようなそれでいて不愉快そうな表情を作ったことは言うまでもない。

「ヴァンパイアの血は驚異的な回復力と延命効果を持つけれど、あくまでその程度さ。ルイの血には一部私の血が含まれているが、問題はないよ」

「待て。あんたの血が未だ流惟の血液の中に有るはずがないだろう。白血球と血小板の寿命は数日、赤血球さえ保って四ヶ月前後だ。あの事故から一体何年経っていると思っているんだ?」

「それは、人間の場合だろう。生憎と私の血液は人間のそれではない。残念ながら、ね」

 サイプリスが肩をすくめると、那由多は苦渋の表情を作って舌打ちをした。ヴァンパイアに人間の常識など通用しないのだ。

「私が思うに、ヴァンパイアになる条件というのは、第一に『怨恨』だ。一般にヴァンパイアに血を吸われるとその人間もヴァンパイアになってしまうというけれど、それは根拠のない嘘に過ぎない。それが事実であるならば、リョウは今頃私の隣にいたはずだからね。逆にヴァンパイアの血液を与えればヴァンパイアになる確率は、それに比べたら遙かに高まる。だけれどそれは、人間が死んで後に幽霊となって、こちらの世に残る確率と大差ない。―――その程度さ。怨恨や、それに等しく強い心残りが無ければヴァンパイアになれないのだよ。つまり、ヴァンパイアの血などなくとも、強いこの世への心残りで―――私はヴァンパイアになれた。望んではいなかったけれどね」

 だからルイは大丈夫、と。サイプリスは微笑んだけれど、それはどこか自嘲な色が濃い。





.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ