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ACT.4 Chap.2-3


     *     *     *


 目が覚めたとき、私は酷く喉が渇いていることに気がついた。砕かれたはずの骨々はすっかりくっついたようで、体を動かすのに伴う激痛もない。一体どれほど長く眠っていたのだろうかと立ち上がり、ふと窓の方を見た。部屋は灯りが点っていて、外は日が暮れていたものだから、窓ガラスは鏡のように部屋の中を映していた。

 音を立てないように扉を開けて入ってきたリョウが、視線を上げて驚いたように目を丸くしたのが見えた。私は彼のその表情と、光を反射して鏡になった窓ガラスを見て全てを悟ったのだ―――私は、私が最も恐れた生き物になってしまったのだ、と。

 どういう意味かは、言うまでもないね。ガラスに何が映っていたのか―――何も映ってはいなかったんだよ。私は鏡に映らない、ヴァンパイアになってしまったのだ。

 私は、あの忌まわしい事件の直後に危篤状態に陥ったのだという。リョウは私を三日三晩手当したが、四日目の早朝―――その甲斐もなく、私は死んだのだと言った。悲しみのあまり何も手に付かなかったリョウは、私の屍体を寝かせたベッドサイドから離れられず、ひたすら自責の念に駆られていた。けれどもそれから二日経ったとき、彼は私の屍体に奇妙な点を認めたのだ。

 全身の切り傷が無くなっていることに。全身の骨が、すべてくっついていることに。脈拍は確かにないのに、私が呼吸をしていることに、ね。

 その後すぐだそうだ、私が目覚めたのは。

リョウはこのような身体になってしまったと悲嘆する私を抱きしめて、もう一度話が出来てよかった、と泣いた。いつもどこか高慢な態度を私に対してとっていた彼が、そのように涙を見せると言うことはもちろん初めてだったから、私はたいそう戸惑った。それでも彼が喜んでくれたことは本当に嬉しく思ったし、紛うことなき化け物となってしまったこの身でも、再び至福を手に入れられるかもしれない、と―――わずかではない希望が見えたよ。


     *     *     *


 こうして私は再びリョウとの生活を始めたのだ。町人たちにはリョウから、私がなんとか一命を取り留めたのだと伝えた。屋敷には大量の謝罪の手紙と見舞品が届いたが、私はそれらをすべて焼却して、生前以上に町に出なくなった。

 血は相変わらずリョウからもらっていたが、生前とは飲む量が違う。それまではほんの嗜好する程度だったのが、この身体になってしまってからは血液そのものが『食事』となった。私が恐れていたのは、リョウの血を吸いすぎてしまうのではないかということだ。リョウには黙っていたが、一度の『食事』を腹一杯摂るとすると、成人男性の血液量のおよそ半分は飲まなければならないようだった。そんなことをしては失血死させてしまうだろう?

 私は常に空腹をこらえていた。

 この身体になって良かったことは、酷く鼻が利くことかな。私はリョウと共に、女学生が殺された現場に毎夜通った。どうしてあのように惨たらしい目に遭わなくてはならなかったのか―――真犯人を見つけたい一心だった。あの夜、リョウに届いた手紙はまるきりの偽物だったらしい。そのように手が込んだことまでして私を貶めようとする人間に、正直心当たりはなかったのでね。藁をも掴む思いだったよ。

 現場に共通していたのは、ひどくきつい香水のような、甘ったるい臭いがどこにもこびり付いていたことだ。それが犯人のものであることは、明白だった。

 そのように毎夜動き回っていれば、より腹が減るのは当然のことだ。けれどもこの頃、リョウは疲労と貧血が重なって体調を崩しがちだったのだ。―――私は、『食事』を絶った。彼の身体を蝕んでまで生き長らえようとは思っていなかったからね。私は、食事を絶てば人間のように餓死をするものと思っていた。だが実際は……昨晩のとおりだ。自らの身を守ろうとして『暴走』してしまうのだ。意識がなくなり―――気づけば、私は理性を失って『食事』をしていた。リョウのためにと思ってしたことは、結果として、彼の命を奪ってしまったのだ。―――あの時ほど自分を呪ったことはない。私は、絶望の闇に囚われた。様々な方法を使って自らの命を絶とうとした。―――だが、死ねなかった。

 私は屋敷の庭にリョウの墓を建て、それから犯人捜しを再開した。そうでもしなければ、私は狂ってしまいそうだったから。

そして私はついに見つけた。






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