六話 現実には逆らえない
私の名前は常盤朝美。
それはわかっている。
だけど私は常盤朝美ではない。
この世界には存在しない者だから。
この世界に存在する常盤朝美は男。
彼は自殺をした。
どういった理由で自殺をしたのかはわからないが失敗に終わった。
なぜ失敗したか。
それは平行世界での私が自殺をしたからだ。
本来、現実世界と平行世界では人物の行動が重なることがない。
何故ならそれは〝もしも〟の世界だからだ。
この場合に例えるなら、彼が自殺をしたならそれに習って平行世界の私は自殺をすることは無く生きる道を選択しなくてはならない。
だけど、平行世界の私は自殺をしてしまった。
それによって現実世界と平行世界の区別が無くなり両方が繋がってしまったことになる。
当然、そうなれば狂いが応じる。
彼の情報で、飛び降りたのは二人、と言っていた。
それは間違いなく彼と私だ。
飛び降りたのが一人でも別の世界でのもう一人が同じタイミング飛び降りたことにより現実と〝もしも〟が区別されなくなった状況だから目撃者の目に二人が飛び降りたと映ったのだろう。
私は、それを防止するためにこの世界に来た。
しかし、防止できなかった。
なぜなら止める相手を間違えていたからだ。
常盤朝美の自殺を止めるのではなく、トキワアサミの自殺を止めるべきだった。
初めに私は彼に言った。
君が自殺をしたのにも関わらず、死ななかったのが原因だって。
初めから勘違いしていたのだ。
残酷だけど現実には逆らえない。
彼は絶対に死ぬはずだったのだから、彼女を呼び止めていれば平行世界が壊れることなんてなかった。
全て、私の責任だ。
「ごめんね、朝美」
―――失敗したよ。
流れる涙は、謝罪の涙だった。
会社を出て初めに気付いたことは、雪が止んでいたと言う事だ。
相変わらず空は灰色だが、もう振り出す事はないだろう。
なぜなら、ここから遠くの空は晴れていたからだ。
ここもそのうち晴れるだろう。
積もった雪も溶けてくれれば雪かきの必要なないはずだ。
正志とは既に別れた。
いつまでも一緒にいても疲れるからだ。
時間が気になって携帯電話で確認すると昼の1時が過ぎようとしていた。
アイツの事が気になった。
腹を空かしているのではないだろうか。
「ありえる・・・・・・」
幼い見た目でも朝から朝食を勢い欲く食べていた事から出た結論だ。
「久しぶりに、何か作るか」
俺はスーパーで買い物をして家に戻ることにした。