五話 問い詰める
朝山ビルに向かう途中、やはり厄介なのは雪。
積もった雪はコンビニに行った時より増えている様な気がする。
そういえばアサミに声を掛けることもなく家を出てきた。
一度引き返そうとも一瞬考えたが俺はこのまま先に急ぐとした。
多くのビルが立ち並ぶ大通りに出た。
いつもなら人々の流れで騒がしいこの場所も今は静かだ。
走っている車はもちろんない。
しかし歩きにくい。
積雪量がどのくらいかはわからないがこれで外に出ようと思う人も少ないだろう。
やっとの思いで朝山ビルに辿り着くと、入り口の前に見知った人物がいた。
「アーサっ」
無視して俺はビルに入っていく。
「ちょい待ち」
もちろん無視する。
受付には顔パスが効くので「お疲れ様です」とだけ言い先に進む。
「まぁそうカリカリするなって。俺も社長に呼ばれたの」
「嘘つけ」
「いやマジよ。話したいことがあるから来いって」
「・・・・・・」
立花正志。
同じ学園でのクラスメイトであの時電話をしてきたヤツだ。
「この雪の中来るの大変だったよなー。関東がこんだけ雪降るって珍しくない?」
「・・・・・・」
「なんかさー、関東に住んでると雪積もってるところ見てワクワクするんだよな。だけど雪かきが面倒で途中から早く止まないかなー、になるんだよな」
エレベーターの中でごちゃごちゃと喋る正志。
俺は返事もせず黙っていた。
社長が待つ社長室は18階。
エレベーターでも多少の時間がかかる場所にある。
ちなみに19階は会議室。その上の20階は屋上、俺が自殺を行った場所である。
エレベーター自体は19階までしか通っておらず、屋上には階段を使って行くしかない。
18階に着き、社長室に向かう。
この階には部屋が二つあり、その一つが社長室でもう一つが副社長に与えられる副社長室だ。
もっとも今回は社長室で待つと言われてそこに向かっているが、本来社長は社長室なんて使わない。
大体はどこかの階にいて普通の社員たちと一緒に仕事をしている。
扉の前に立ち、ノックをした。
「社長、俺だ」
『入れ』
扉の向こうから入室の許可を貰い、扉を開け社長室に入る。
「今日は随分と静かだな」
「この積雪量だ。出社したくても出社出来ない社員が多いだろう。だから今日は休みだ」
「しかし受付社員はいたな」
「家が近くなんだそうだ。休みにしたから帰っていいぞと言ったが受付は必要ですよ、と言われてな。良い社員を持ったものだよ。ハハハ」
社長は笑いながら「まぁそこに座れ」と促す。
俺と正志は大きめのソファに座った。
「しかし悪かったな立花君まで来てもらって。大変だったろ?」
「いえいえとんでもない。自分も事件に関しては知りたかったですし、一応この会社の関係者ですから」
そう、未だに認めたくは無いが正志はここで働いている。
もっとも正規社員としてではなく、あくまでバイトだ。
学園が長期休業に入ると、ほぼ毎日ここに顔を出しては雑用をこなしている。
そんな彼を社長は気に入っており、いずれはここの社員になるか? と聞いていたりする。
「社長、今回の事件・・・・・・自殺事件に関してですが情報は如何ほどで?」
正志が切り出した。
社長も向かいのソファに座り、胸ポケットからタバコを取り出した。
一本を口に加えて火を点ける。
ソファが挟むテーブルの上に灰皿が無かったので、俺は立ち上がり灰皿を社長の仕事机から持ってきた。
俺もタバコに火を点ける。
「一応、警察がやってきて色々と聞いたよ。その上で自殺現場らしい屋上を見ていったけど手がかりは無いって言って帰ったよ」
「警察が来たって事はそれなりにご存知なんですね」
「うむ。だけどハッキリ言って情報が少ない。死体が出ていないこと、君たちの通う学園、〝桜蓮学園〟の制服を着た人が二人が自殺を行ったと言うぐらいで」
「時間とかご存知ありません?」
「午後の6時ぐらいだったそうだ。ちょうど私は仕事をしていたし受付に聞いても、そんな人は見掛けなかったそうだ」
午後6時。
やはり食い違いが起きている。
俺が自殺を行った時間は午後の8時だ。
「そもそもなんで桜蓮の制服なんですかね? だって地上から20階の屋上を見上げるわけでしょう? わからないじゃないですか普通」
「それに関してだが目撃者の話で、〝落ちてくる二人が桜蓮の制服を着ていた〟と言っていたらしい」
「午後6時って言ってもなー。雪降ってたし、確実に真っ暗じゃないですか。まぁこの大通りは明るいけど、わからないですよね」
「だから警察は見間違いではないかと言う方向で片付けたらしい。目撃者自体も3人と少ないし、一番肝心の死体が出ていないからな」
俺はこの時になって何か引っ掛かっていた事を思い出した。
一人で自殺をしたが、飛び降りる寸前に誰かに呼び止められた事を。
その人も一緒に落ちたのではないかと考えたが難しい。
俺は呼び止めを無視して落ちたからだ。
「やっぱり自殺は無かったんでしょうか。ニュースにもなってませんしね」
「それが無難な考え方なんだろうな。〝落ちてきた二人〟に関しても気付いたら消えていたと言うらしいし」
しばらく正志と社長は事件について話していたが新しい情報は出てくることは無く、事の真相は謎のままだった。
俺はタバコを吸い終えると腕を組んだ。
ここで手に入れた情報を整理してみる。
午後6時に桜蓮の制服を着ていた二人がこのビルの屋上から飛び降り自殺を行う。
しかし落ちてくる途中で二人は消え死体は無い。
目撃者は3人。
現場となった屋上に手掛かりは無く、この事件は無かったことに話が進んでいる。
「朝美?」
「はい」
「どうしたさっきから黙って? 具合でも悪いか?」
「別になんでも」
社長が俺の顔を覗き込む。
どういった顔をしたらいいかわからず、ただ社長の目を見ていた。
「はぁ・・・・・・。まぁあんまり気にしないことだ。きっと何かの嫌がらせだよ」
その後はしばらく正志と社長は世間話をしていたが、やる事もないので家に帰るよう言われた。
仕事をしていく気分にもなれなかったので素直に従うことにした。
「朝美クン?」
私は彼を探していた。
どこかに行ってしまったらしい。
しばらくベッドで横になっていたが、その間に家を出て行ったようだ。
「・・・・・・どうしよう」
私は悩んでいた。
今回の自殺に関して朝美クンが手に入れた情報を聞いたときに理解してしまった。
平行世界が壊れたのは私のせいであると。
それをどうやって彼に伝えるかを。




