108.聖女の騎士(シリウス視点)
やっと現れた警備兵にジュリアンが事情を説明して、ようやく僕達は王城へと帰宅した。
アリシアがショックを受けているのではないかと心配していたが、当の本人は僕を心配することで頭がいっぱいだったらしい。
王城に着いた途端、アリシアは『もうこれで安心ですね!』と微笑んでいた。
だとしても、あの瞬間は怖かったに違いない。
かなり戸惑っていたようだったから。
僕はアリシアを安心させるため、暫く傍で寄り添っていた。
隣で紅茶を飲みながら他愛もない話をする。そうして落ち着いた頃、僕は名残惜しみながらもアリシアから離れると部屋を後にした。
いや、別にフェリシアに『アリシア様は大丈夫ですので、早く執務室へとお戻りください。今、ここにシリウス様がいる必要はありません』と顔で語られたから、というわけではない。決してない!
気になることがあり、調べたかったからだ。
(あちらの件はジュリアンに任せておけばいいから、僕は僕でやれることをしなくてはな)
執務室へと向かう前に、僕は書物庫へと足を運ぶ。
(帰国して直ぐに関連書物を整理しておいて正解だったな。でなければ、探すのに時間がかかっただろう)
大量の書物の中から、目的の内容が記載されているであろう本を素早く見つけた僕は、何冊かを手に執務室へ戻った。
「しかし……まさか、あんなことが起こるとは」
(今日は僕がアリシアを想って書いた作品のお披露目だったというのに)
何を隠そう、あの舞台のシナリオは僕が書いたものだ。
外国から来たアリシアの人と成りを知る人は少ない。どんな人物かも分からない人間が王太子妃となれば、不安を感じ反発する人も出てくる。だから、王太子妃となる人間がどういう人物か周知するため観劇という形で広めるのだ。
(それに、冷遇や逆境にも負けず、素直で可憐で愛らしいアリシアの素晴らしさを人々に知ってもらいたいしな)
それから、あの舞台が有名になりダノン国に伝わった時も楽しみだ。
アリシアを虐げた人々は、自分達がしたことを後悔すればいい。特にアリシアの両親。いや、彼らは既に後悔していることだろう。ライオネルから聞いた話だと、ダノン国王がひどく叱責したらしいからな。今や、貴族としての立場はないに等しい。
ライオネルの手紙には『自分が婚姻の許可を出したにも関わらず、人の所為にするから呆れるよ』と書いてあった。
ライオネルは父親に似なくてよかったな。
あの国は、王妃とライオネルがいるから上手くいっているようだ。
「それにしても、白昼堂々と僕を狙うとは良い度胸だね」
僕は本を捲りながら、独り言ちる。
僕一人の時ならまだしも、よりによってアリシアが一緒の時に襲ってくるとは。
アリシアが怯えてしまったではないか!
今日はアリシアの初めての観劇だから特別な日にしたかったのに。いや、ある意味、特別な日にはなったのだが。
僕が求めているのは、そういう特別ではない!
アリシアが楽しそうにしていたのに、台無しじゃないか!!
それに、あの後のプランも立てていたというのに……そう、街を満喫してアリシアに喜んでもらう予定だったのだ。僕の計画も台無しだ!
「まったく、どう落とし前つけさせようか」
おっと、思わず強い言葉が出てしまった。アリシアには聞かせられないな。
僕のことに限らず、アリシアには悪いものを見て欲しくはない。アリシアには人や物、景色だけではなく、世の中の綺麗なものを見ていて欲しい。世の中の暗い部分ではなく、明るい部分だけを。
世の中にはアリシアに見せたくないものが沢山ある。そういう暗いものは僕だけが知っていればいい。アリシアは一切知ることはなく、僕だけが背負えばいい。
とはいえ、アリシアは世の中の醜い部分を知っている。
今までアリシアは散々悪意に晒されてきたのだから。
でもだからこそ、これからは暗い部分とは無縁の世界に生いて欲しい。そんな世界を僕は作りたい。アリシアのためなら、僕はなんだって出来る。
そう思っていたのに……今日は残念なことになってしまった。
折角、アリシアに初めての舞台を堪能してもらっていたのに。それらを壊してくれた賊達には、それ相応の報いを受けてもらわなければな。フフフッ。
そんなことを考えていたら、賊達の対応をしていたジュリアンが戻ってきた。
「尋問は、どんな具合だ? 奴らは吐いたか?」
奴らは相当の手練れだった。何せ、ジュリアンが打ち洩らすぐらいの実力者だ。とはいえ、僕が後れを取るわけもないが。とにかく、あれだけ統率の執れた連中だ。誰かに雇われているに違いない。
僕の問いに、ジュリアンは首を横に振った。
「いいえ。どうやら高位の貴族が関わっているようで、かなり口が堅いです」
「そうか。僕狙いならばアリシアにも害が及ぶ可能性がある。多少、手荒な真似をしても構わないから何としてでも雇い主を吐かせろ」
ジュリアンは「はっ」と頷いた後、「ところで」と窺う視線を僕に向けた。
「あの、シリウス様……先程のは一体……」
ジュリアンの言う“先程の”とは、僕が近づくと賊が吹っ飛んだことについてだろう。
僕自身、心当たりがなくて不可解ではあったけれど、試すために賊に近づいたら一定の距離の所で飛んでいくので、何かしらの原因があるはずだ。
「あぁ、そのことだけど……」
そういえば、あの賊の飛んでいく様に覚えがあるような……あぁ、僕が幼き頃に襲われた時、ジュリアンが退治した賊の吹っ飛び方に似ているな。
懐かしい記憶を思い出しながら、僕は手にした本のページを捲る。
ようやく目的の記載を見つけた。
「あった。多分、これだ」
僕は先程の奇怪な現象を調べるために読んでいた本の一ページを開いたまま、ジュリアンに見せる。
「“聖女の騎士”……ですか?」
そこに書いてあった見出しをジュリアンは声に出して読み上げた。
「あぁ。聖女の傍には稀に、特別な加護を与えられた“聖女の騎士”が存在したようなんだ。それは本当に護衛騎士だったり、伴侶だったり、または兄弟だったりしたようだが」
僕は本を読み進めていく。
「聖女は自分に治癒魔法も掛けられないし、加護も与えられない。とても無防備な存在だ。だから自分の身を守るために、一番信頼している人間に特別な加護を与えるようだな。特別な加護を与えられた人間は、聖女を守るために能力が向上したり、特別な力を使えるようになるみたいだ」
「と、言うことはシリウス様も?」
「多分ね。ほら、以前アリシアに大量の手紙が届いたことがあっただろう? あの時、アリシアが与えてくれた加護は、いつもと違って特別な感じがしたんだ。どうやら、いつの間にかに僕はアリシアの“聖女の騎士”になっていたらしい」
ジュリアンは「そんな存在がいたとは……」と感心している。
「思い起こせば、あの時から身体が軽くなって動きやすいし、何より魔力量が増えている。先程の賊に対する現象を考えても、この変化は僕がアリシアの“聖女の騎士”になったからだろう」
アリシアにとって僕が特別な存在で、一番信頼している人間と思ってもらえているのなら、この上なく嬉しいことだ。
思わず緩んでしまった口元を隠すように手を当てた。
(アリシア、君のことは絶対に僕が守るからね)
それにはまず、賊の黒幕を突き止めて殲滅することからだな。
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