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第一章2 『それが出会いだった』

「やっほー、リルリルー」

「その気持ち悪い呼び方どうにかなんねーのかよ」

「このクライムーブ様が直々に名付けてやったんだ、感謝されてもおかしくないんだぞ?」

 刈り上げられた金髪の頭に、服を着てても筋肉質だと分かってしまうガッチリとした体格の男アバター。彼はクライムーブこと哀川だ。リアルとそっくりだから一目で分かる。そんな俺、リルラインもリアルそっくりなのだが。

「クライムーブ様は置いといて、これからどうする? 久しぶりに……行くか?」

 愛銃をチラチラ見せながらニヤッとする。

「あんま好きじゃないんだけどなー……人を撃つってのはよー」

 薄気味悪い忍び笑いをする。

 クライムーブの愛銃はFN-F2000というアサルトライフルだ。ベルギーで製造された軍用小銃。俺がモンスターからのレアドロップで入手したものだが、スナイパーの俺には必要がないため(ゆず)ってやったのだ。今では片時も手放すことのない大切なものの一つになっている……らしい。

「こんな天気のいい日にダンジョンに(こも)ってたらもったいないしな」

「だな」

 顔を見合わせて再びニヤッとする。

 今日やることが決まった瞬間だった。

 さて、対人戦専門クランでも狩り(・・)にいこうか。



 このゲームの楽しみ方は大きく分けて二通りある。

 一つは、モンスターを狩ってレアドロップを狙いながら階級を上げるのだ。モンスターからのレアドロップは未確認のものが多いし、まったくといっていいほど落ちない。F2000が落ちたのも奇跡に等しい。プレイヤー同士の取引ならば法外な値段がつくことだろう。モンスターを倒して得られる経験値は微量だが、もしモンスターに返り討ちにあった時に発生するデスペナルティーに、対人戦のみ起用される『倒した相手が持っていた経験値一割を得ることができる』ルールが適用されない。持ち金が若干減少するのと、街に戻されるだけだ。これには逃げ口があって、階級が上がってすぐにいけば経験値がすくないため、デスペナルティーは少なくて済む。まぁ、他にもデスペナルティーはあるから一概(いちがい)に安全とは言えないが。

 二つ目は対人戦だ。文字通りプレイヤー相手に銃撃戦をするのだ。勝てば相手の経験値の一割を得ることができ、負ければ逆に奪われてしまう。

 街の地下に広がるダンジョン。そこはありとあらゆるモンスターが巣食う未開の地。深くまで降りていけば降りるほどモンスターは強くなる。そして、レアドロップとして落ちる武器もまた希少価値の高いものへとなっていく。ダンジョン内では対人戦はできない。システム的に守られる。そういう仕様なのだ。対人戦がしたい場合、街の外に出ればいい。荒くれ共が集う無法地帯化となっている。

 プレイヤーの大部分は対人戦を楽しむためにFPSをやっている。俺みたいなプレイヤーは珍しい。だってRPGにいけば同じことができるのだから。それでも俺がモンスター狩りを続ける理由がある。スナイパーの俺が一人で歩いていればただのカモだからだ。

「さすがに街周辺でやらかすやつらはいないよな」

「そりゃそーだろ。銃声が聞こえるけど気のせいだろーなー」

「あぁ、気のせいだ」

 街を覆う高く大きな壁の向こう側は廃墟となった市街地がモチーフになっている対人戦マップが無限に拡がっている。ずっと歩いていけば知らぬ間に違うサーバーに接続されるという噂があるが、それを検証できた者はいない。

 崩れた民家に立て籠る二人のプレイヤーに対し、十数人の男が囲んで弾幕を張っているのが見える。

「どうするよ、あれ。両方食っちまうか」

 せっかくのチャンスを逃したくないのか、少し興奮気味だ。そんなクライムーブの進行を手で(さえぎ)りながらささやく。

「あっちの二人組……女に見えないか?」

「ネカマかよ。ならなおさら両方食っちまおうぜ」

「見たところ二人とも初心者(ニューービー)だ。そんなの食っても得られるものは少ないだろ。それよりあっちのクラン、あのマスク男のエンブレム……対人戦専門クランの『マッハレンジャーズ』だ。そこそこ階級の高いやつがいた気がする。あっちを狩ろう」

「リルがそういうならそうするか」

「ついてこいよ」

 (かが)んで瓦礫に隠れながら移動する。

 敵と戦闘を行う場合、注意すべきことがある。正面の敵はもちろん、銃声を聞きつけてやってくる敵にも気を付けないといけない。前と後ろから攻められればサンドイッチにされてしまう。

「相手が二人を囲んでいる以上、どこから攻めても同じに思うかもしれない。でも欠点は必ずある。用心深いやつは後ろも警戒してる。でも雑魚は目の前の戦いで精いっぱいだ。だから注意を(おこた)る。そこが穴だ」

 俺は閃光手榴弾のピンを抜いて投げつける。それが合図といわんばかりに走り出す。

 閃光で目が(くら)んでる相手を撃ち抜くことは簡単だが、そうしてる間にも他のプレイヤーにやられてしまう。だから狙いは敵の殲滅ではない。二人組への加勢だ。

「ネカマだろうけど女の子は見捨てられないからな。助けに来たぜ」

 キザったらしい台詞(せりふ)を吐きながら銃を構える。

「敵! シノネ気を付けて!」

 気の強そうな女性アバターが叫ぶと同時に二人は近距離で銃口を向けてくる。

「待てよ、ネカマだろうけど助けてやるって言ってんだよ。あーゆーおーけー?」

 相手を刺激しないように両手を上げる。

「誰がネカマよ!」

「ね、ねぇ、夕霧(ゆうぎり)。助けてくれるんだからお願いしようよ」

「なんか知らないけど腹ただしいわ。でもそうね、お願いしましょう」

 もう一人のおとなしそうな女性アバターが申し訳なさそうに銃を下ろす。

「じゃあ一時的にチーム組もうぜ。流れ弾とか危ないしさ。俺たちが倒したら経験値も入るぜ?」

「やけに乗り気だな、クライムーブ」

「あれだけの数は久しぶりだからな」

 ざっと見で十五人ってところだろう。前回の三倍はいるな。

「チームってどうやって組むの?」

 システムコマンドを見つめてうろたえる茶髪。

「俺が送るよ。ほら」

 彼女たちの視界には招待画面が広がっているだろう。

『チームに招待されました。YES/NO』

「YESを押せばいいんだよ」

「う、うん……できた」

『夕霧とシノネがチームに参加しました』

「これで後ろの心配はしなくていいな。二人の銃は……夕霧がM4カービンでシノネがAK-47か。無難だな。選んでもらったのか?」

「おすすめ度が高かったから……」

「マジのニュービーかよ」

「初心者で悪かったわね」

「にゅ、にゅーびー?」

 夕霧にはネット用語が通じるようだが、シノネにはさっぱりのようだ。

 こうしてのんびりしているが、敵の弾幕が止むことはない。それよりも、だんだんと包囲網を縮めてきているかもしれない。

「二人のライフが半分を切ってる。そこで伏せて待ってろよ」

「え? もしかして二人だけであの人数の相手をするつもり?」

「そのもしかしてだ。クライムーブ、援護する」

「了解、リルリル、援護よろしく」

 たった二人で十五人の相手を倒す。想像するだけでワクワクしてきた。戦闘開始だ!

「「GO!」」

 俺とクライムーブは同時に叫ぶ。

 クライムーブは盾にしていた瓦礫から身を乗り出して敵の前に姿をさらす。直後、いくつもの予測先がクライムーブの体を貫く。

「当たらねえよ」

 横っ飛びで避けたあとに広範囲拡散性煙幕を投げつけた。俺もすぐに同じものを投げる。

 煙幕はプレイヤーの視界を遮る。俺たちの周りはその煙幕で(おお)われてなにも見えない。それは敵にも同じことがいえる。今ごろパニクってるだろう。

 俺は銃を構えてスコープを(のぞ)く。クライムーブは我先にと駆け出す。

 煙幕、グレネード、閃光手榴弾の(たぐ)いはモンスターからの準レアドロップしかしない。だから持っているプレイヤーが少ない。そして対策スキルを取得するプレイヤーも極めて少ない。クライムーブはその数少ない、目眩まし無効化スキルを持つ一人だ。

「ひゃっほぉぉぉおおおお」

 煙幕の中で何が起こっているのか?

 それは誰も分からない。

 時折聞こえる悲鳴や高笑いが不気味に響く。

「チームチャットになんかきてる……なになに?『ナイフキル最高』……早く済ませろよバカ」

 おっとっと、のんびりしてるひまじゃなかったぜ。俺も仕事に取りかからなくちゃな。

 煙幕の中で一番怖いのは同士討ちだ。部が悪いと悟った彼らの次の一手は脱出しか残されていない。

「どっからでも出てこいよ」

 おもわずしたなめずりをする。

 人を撃つのはいつぶりだろうか?

 いままでずっとモンスター相手だったから撃つことができた。だが今回は人間だ。モンスターと同じように引き金を引くことができるのだろうか。もしかしたらためらってしまうのかもしれない。

 ふとそんな不安が頭をよぎる。

 もしこれが現実だったら撃たれた人はどうなるのだろうか。もし……。

 さらなる不安を連想し始めたその時、煙幕を逃れて一人の男が、さらに一人、もう一人と次々と出てくる。しかし、彼らは一時の休息を得ることなく、その額を弾丸が突き抜けた。

「べつにフツーじゃん」

 ためらうことなんてなかった。モンスターを撃つのと何ら変わらない感覚に自己満足を抱きながら次の獲物を射抜く。

「す、すごい……」

 夕霧は感嘆の呟きを()らしながら見とれている。シノネにいたっては目が輝いてる。眩しいぜ。

「こんなのは朝飯まえだぜ。おっと、伏せてろよ」

 360度囲まれている今、一点だけではなく全方位に神経を張り巡らさなければならない。

 正面の敵を撃ち抜いた。次は右側だ。その次は左側。そして後ろ。斜め右前も。

 その一連の動作をわずか五秒でやり遂げる。

 ちんたらやっていては敵のペースに追いつくはずもない。煙幕の細かな動きを察知して出てくるところを見つけ、敵が姿を現した頃にはすでに銃口が向けられている。それが当たり前の流れだ。

 さすがにそこまでできるやつは俺以外に見たことがない。

 それもそのはず。日々、モンスターとの命懸(いのちが)けでもある駆け引きから学んだ『勘』だからな。

 煙幕の効果も切れ始めてきた。俺とクライムーブ、夕霧とシノネの他に立っているやつはいない。

「中佐が一人と少佐が一人。あとは大尉以下が数人ってところだ」

「こっちも雑魚ばっかりだった」

 キルログを見て戦果を確かめる。

 あれだけ人数がいたのに強者が一人もいなかったのが不思議なぐらいだ。

 俺たちのHP(ヒットポイント)バーが少しも減っていない。それだけで夕霧とシノネには伝わったに違いない。実力ってやつがな。

「ところでさ、あんたらニュー……初心者だろ? ならモンスターでも狩ってればいいのに。なんでわざわざ対人戦マップに出てきたんだ?」

「そんなの分かるわけないじゃない。今日始めたばかりなんだから」

「ほら、承認しろよ。いつでも指導(レクチャー)してやるよ」

 フレンド申請を夕霧とシノネに送る。

「うん、ありがと。でも今日は落ちるわ」

「了解。またINするようなことがあれば俺たちにチャット飛ばしてくれ」

「分かったわ。じゃ」

「助けて頂きありがとうございました。それでは」

 夕霧と律儀にお辞儀をするシノネにヒラヒラと手を振って見送る。

 彼女たちは足元から細かい光の欠片となって消滅した。この世界からログアウトしたのだ。

「なぁ、リルリル。彼女たち、ニュービーだぜ? まさかクランに誘うつもりじゃないだろ?」

 やけに心配そうなクライムーブに呆れ顔で言う。

「中途半端に一人でやってるやつは変な固定概念や自尊心を持ってる。そういうやつはクランに入れても協調性に欠ける。だからニュービーを入れて指導してやった方が都合がいいってわけだ」

「なるなる。じゃあクランの人員募集はニュービー限定?」

「そうじゃない。よさそうやつがいればスカウトする。ただ、彼女たちが次INすることがあれば必ずクランに入るってことだ」

「リルリルはそういうことに関しては天才的だからなー。全部任せるぜぃ、マスタ(・・・)ー」

 わざとらしく最後だけを強調する。

「俺はサブでいいんだよ!」

「いんや、リルリルがマスターだぜぃ。それよりも、次のお相手さんが登場なさった」

 さっきほどではないがかなりの人数だ。どうやらすでに囲まれてるらしい。俺たちを狩る気満々だな。

「話はこれを終らせてからだ」

「りょーかーい」

「じゃ……」

お互いに視線を交わして合図を送る。そして同時に叫んだ。


「「GO!」」

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