↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毒殺科に転生したので、暗殺者訓練施設で3人の子供達を育てます!〜私を殺すはずのラスボスが、何故か楽しげに近寄ってくるのですが〜  作者: たんぽぽ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/20

01 毒殺科のファイ

毎日更新、全20話の予定です。ファイと子供達の毎日に、お付き合い頂けますと幸いです。

 私の名前はファイ。数年前は両親に名付けてもらったもっと可愛くて長い名前があったが、今はただのファイだ。暗殺者訓練施設の毒殺科に所属している、8歳女子である。

 私には、生まれた時から前世日本の記憶があるので、いわゆる転生者だと思うのだが、ぼんやりと覚えている事は、日本の文化や生活と、小さい子供を育児していた記憶くらいで、前の自分がどう生きていたとか家族の詳細とかも全く覚えていない。

 前世の記憶、使えないものである。


 この中世に似ているファンタジーのような世界に貴族の一人娘として生まれ、優しい両親に可愛がられて育てられていたが、5歳にもならないうちに両親は亡くなり、家も無くなり、気がつけばここ暗殺者訓練施設に辿り着いていた。

 第二の人生も世知辛いものである。

 

 暗殺者訓練施設は、暗殺者ギルドが運営する子供達を暗殺者に育てる教育機関で、大きなひとつの建物の中に座学の教室や訓練用のホール、上の階には私達の寮もあり、外には鍛錬するための運動場もあった。そして建物の周りには子供達の逃亡防止の高い高い壁がぐるりと囲っている。高い壁の上には、ぐるぐると巻かれた有刺鉄線も見えた。

 

 私は今日の訓練が終わったので、廊下を歩いて自分の部屋へ向かう途中だった。

 広い施設を歩いていると、向こうの方から女の子達の黄色い歓声が聞こえる。チラリと見てみると、彼女らの視線の先にはシグマ先輩がいた。

 シグマ先輩は私の4歳年上の12歳で、肩より少し長い緩くウェーブがかった金髪に、目鼻立ちが整った美少年である。しかも、暗殺者教育施設の全ての科目を網羅する「総合エリート科」に所属しており、この施設でも人気のある有名人だ。

 ちなみに私は運動神経がイマイチで容姿も平凡だったので「毒殺科」である。その他「戦闘科」「諜報科」「房中術科」があり、美男美女揃いの房中術科に選ばれなかった平凡な容姿に全力で感謝した。

 シグマ先輩は総合エリート科でも優秀で、同じ科所属の子供3人の育成も任されていると聞く。

 大人の記憶がある私は、いくらエリートで見目麗しくともまだ少年である先輩は子供にしか思えないので、きゃあきゃあ騒ぐ女の子達を横目に見ながら通り過ぎた。


 外は日が沈み、曇りがかった空に少し欠けた月がぼんやりと浮かぶ。施設の建物内は何だか空気が澱んでいる感じがして、澄んだ景色を求めて、窓から夜空と月を見上げながら廊下を歩いていると、窓と反対側の扉から灯りが漏れているのに気がついた。

 何となく気になってそっと中を覗いてみると、少し広めの部屋に小さいキッチンと机、キングサイズのベッドには乱れた布団と点在した枕が3つある。そのベッドの上に小さい子供が3人座っていた。

 5歳くらいの男の子達だろうか。それぞれが、ぼんやりと焦点の合わないまま虚空を見つめている。訓練で負った傷なのか手足は包帯やガーゼで手当てをされているが、それにしても心配な細さだ。周囲には世話をする人も見当たらず、3人が食事を取る気配も無い。


「もしかして、シグマ先輩が教えている3人の子供かしら……?」


 それならばこの状況も説明がつく。

 シグマ先輩はエリートとはいえど、まだ12歳の子供だ。3人の子供達が部屋に戻れば、食事や入浴くらい出来るだろうと思っているのだろう。最悪汚れたら訓練の後にでも洗えば良いと思っているのかもしれない。

 ところが現実はどうだろう。

 感情の抜け落ちたような表情で虚空を見つめる子供達。

 机の上には、手をつけられていない固形の完全栄養食。暗殺者達が携帯食として食べる、ボソボソとした食感の味気の無いものだ。

 総合エリート科は明日も厳しい訓練があるのだろうに、この子達はこんな様子で眠ることが出来るのだろうか。


 目を瞑ると、前世の記憶で唯一覚えている小さな我が子を思い出す。必死に主張してくるふにゃふにゃの小さな身体。全身で駆け寄り、信頼し甘えてくる小さな温もり。安心の上で我慢せずに溢れるわがままと涙。

 私自身も、ぼんやりとしか思い出せずとも前世の両親と今世の両親に沢山温もりをもらい、愛してもらった記憶がしっかりと残っている。

 

 彼らはどうだろう。生まれた時から施設にいると言う、虚空を見つめる子供達の手のひらには、恐らく何一つ無い。


 何ひとつ、ない。

 


「ダメよ、ダメだよ、ファイ!」

 

 ぶんぶんと首を振って考えを振り払う。

 この施設には、そんな境遇の子なんて山ほどいる。たまたま見かけたからと言って偽善的に手を出すのは違うだろう。ファイ、お前は何様だ。

 しかも、この子達はシグマ先輩が直々に教えている子供達だ。一流の暗殺者にするには、人間らしい感情を持つよりも感情の無い人形の方が向いているに決まってる。私が彼らにちょっかいをかけたら、総合エリート科の優秀者、シグマ先輩の怒りを買って始末されかねない。


 もう一度、そっと子供達を見る。

 ボサボサの髪に、包帯を巻かれた細い手足。顔色は良いとは言えず、ボンヤリと虚空を見つめるその目に、光は無い。


 子供は、愛されて。希望に満ちた、そのキラキラとした瞳で、お日様の下を元気に駆け回るもの。

 決して、絶望を通り越した感情の無い瞳で、虚(うつろ)に虚空を見つめる存在では無い。


 気まぐれに一時(いっとき)構うのは、残酷でしか無い。

 手を伸ばすのなら、一生をかけるつもりで。

 私は神様では無いので、同じ境遇の子達を皆平等に接する事はできない。だが、せめて私の手が届くかもしれない彼らの、安心と安らぎに、少しでもなれば。


 ああ、これで私の今世は終わったな、とひとり苦笑する。

 この子達を構い出したら、そのうちにシグマ先輩に目をつけられて始末されるだろう。

 たった8年の、短い人生だった。でも、命を大事にする前世日本の思想を持っている私は、多分暗殺者には向いていない。早々に暗殺で失敗して殺されたり、自決する事になるだろうから、少し早まっただけだ。

 それなら。短くとも、人を殺すより、彼らを生かす人生にしたい。


 そっと扉の前で深呼吸をする。

 今世の生き方と覚悟が決まったところで、少し開いた扉を改めてノックする。


「こんばんは、失礼します。私、毒殺科のファイと申します。お部屋に入ってよろしいですか?」


 3人からの反応は無い。

 そもそも、総合エリート科の彼らなら、扉の前で悶々としていた私の気配を悟られていた気がする。恥ずかしい。


「たまたま通りがかりにお見かけしたんですけれど。寝付けないようなら、お手伝いしましょうか?」


 反応がない3人にめげずにベッドに近づこうとして、ふと自分の格好に気がつく。

 暗殺者訓練施設の制服そのままなのだが、太ももまである上着には沢山のポケットがある。そこには、毒やナイフ、暗器を入れておくのが常だ。施設内でも襲い襲われる事が無い訳では無い。


「あ、私はあなた方に危害を加えるつもりは無いんですが、気になると思うので上着や装備は外しますね」


 その場でベルトを外し、上着も脱いで畳んで机の上に置く。上着の下の、身体に括り付けてあるベルトも全て外した。

 上は黒いハイネックで長袖のインナー、下はスパッツのようなポケットの無いピッタリとした黒いズボンの状態になり、彼らの前でくるりと回る。


「これで完全丸腰です。よければ寝るお手伝いをしますので、ベッドに失礼しますね」


 反応がないのをいい事に、図々しく攻めていくことにする。

 3人が座るキングサイズのベッドに登り、手始めに一番近くの緑の髪の子から攻略する。

 この世界では、髪色と目の色は同系色で生まれつくらしく、ボサボサの緑の髪の子は緑色の目をしている。ちなみに私は、明るめ長めのクセのある茶色の髪と、茶色の目だ。顔立ちも普通で何の華も無いが、目立たないので助かっている。


 緑の子の近くに正座し、笑顔を作って優しく話しかける。


「私の膝に頭を乗せて、寝転がることは出来ますか?」


 反応が無いので「失礼します」と彼の肩に手を伸ばし、そっと私の膝の上に横たえさせる。緑の子は私を見ないまま、抵抗も無くコロンと横向きに寝転がった。


「背中を軽くトントンします。失礼しますね」


 彼にとっては、恐らく初めての膝枕とトントンで。攻撃だと思わせないように、一言ひとこと声をかけながら、ゆっくりと事を進める。

 彼の小さな背中を、トン、トン、と。リズムよく、優しくたたく。


「あ、子守歌も歌いましょうか」


 子守歌の存在も思い出したが、肝心の子守歌が思い出せない。幼児用の歌……と思い出しても、パッと思いつくのは鬼がパンツを履いている歌だ。

 うーんと考えて、前世の子供達が好きな映画の定番、雨降りのバス停にずぶ濡れおばけがいる歌を歌うことにした。


 小さい声で歌を口ずさみながら、膝の上の小さな温もりを、優しく、ゆっくり、トントンする。

 最初は緊張で強張っていた身体が徐々に緩んでいき、そう時間がかからずに寝息を立て始めた。

 その目の下には濃いクマがある。厳しい訓練で疲れているのに、ずっと眠れなかったのかもしれない。


 手近な枕を片手で引き寄せ、膝の上の緑の頭をゆっくりその上に横たえる。毛布をかけて、ひとり目は完成だ。

 残りふたりの子に向き直ると、紫の髪の子はその無表情に若干警戒の色を滲ませていて、水色の髪の子は変わらずぼんやりと壁を見つめていた。


 紫の子は最後にゆっくり接することにして、次は水色の子にそっと声をかけて、私の膝の上に頭を誘導する。水色の子も抵抗せずに仰向けに寝転がった。

 水色の子は、感情を映さない蒼色の目で私を見つめる。いや、私の方を向いているだけで、私のことは見ていないかもしれない。


「優しくお腹をトントンしますね」


 背中はともかく、お腹を触られる事については警戒されるかもしれないと思ったが、反応が無かったので遠慮なくトントンさせてもらう事にした。

 トン、トン、と歌いながら優しく手を動かしていると、やはり少し緊張していた身体が少しずつ緩んでいく。その蒼い瞳を隠すように瞼がトロトロと閉じていき、寝息を立てるまでに、そう時間はかからなかった。


 最後に少し警戒心の強そうな紫の子だ。ゆっくりと近づきつつ声をかける。


「ふたりにしたように、歌を歌いながらトントンさせてください。背中以外は触れませんし、終わったらすぐお部屋から出て行きますので」


 肩を失礼します、と言って、紫の子も私の膝の上に横たえる。歌いながら背中をトントンすると、表情に滲んでいた警戒心の割には、あっという間に夢の世界に旅立った。しかも、トントンしていない方の私の手を軽く握っている。無意識だろうが、あまりにも可愛い。


 そっと3人に毛布をかけ直して灯りを落とし、出来るだけ足音を立てないようにそっと扉を潜(くぐ)った。


「おやすみなさい。いい夢を」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。