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第4章の3 探検ってワクワクするよな

1

 春日勇輝は探検をしていた。

 どこをと問われれば如月の屋敷を、である。以前は道を見失い迷うという結果に終わったが、今回は帰れるようにと自分で地図を作りながらの探険だ。

 小さなリュックにはペットボトルに入った水とパン、方位磁石が入っている。そして忘れてはいけない男の夢も。


(必ずこの屋敷を踏破して地図を完成させてやる!)


 勇輝は勇んで前へ前へと進む。途中で部屋を覗いていくことも忘れない。等間隔で並ぶ部屋にはたまに違ったドアのものがある。


 その一つを覗くと、


「ん? どうした勇輝……危ないぞ?」


 弥生がバチバチと発光している玉に囲まれて術を創っていたり、


「これと、あぁこれか……よし、いい感じだ」


 錬魔が怪しげな薬品に囲まれて、これまた毒々しい薬品を合成していたり、


「おっ、おお?」


 騎士の甲冑が部屋に押し込められていたり、


「あ、ここ秀斗のとこだ」


 所狭しと酒が並べられていたりした。


 勇輝が秀斗の酒蔵に一歩踏み入れたとたん、体の中をねっとりとしたものが通り抜けた気がした。


(あ……なんかやっちゃいけないことやったかも)


 背中に嫌な汗が流れた時、ジーッという機械音を耳にした。そっとそちらに顔を向けると天井から伸びているカメラが近づいていた。レンズの右端が赤くピコピコ光っている。


「これってまさかの」


 勇輝が本能で危険を察知し、さっと飛びずさると先程までいた場所がジュッと焼けた。


「レーザービ~~ム!」


 また体を何かが通過したなと感じた時、目の前でジュッという音がした。見れば何もないはずの空間が赤く熱を持っている。まるでそこに壁が存在するかのように。


「勝手に入ってすんませんでした!」


 勇輝は戸口で体を九十度に追って謝罪すると素早くドアを閉めた。

 さらに進むと少し立派なドアを発見。


(開けるか開けないか、開けよう)


 先程の失敗は次の成功に。それが勇輝だった。


(今度は迂闊に入らないようにしよう)


 中を覗くだけと決めた勇輝はそっとドアを開ける。その瞬間キラリと光るものを見た気がして反射的にしゃがみこんだ。

 ドスッと背後で音がする。

 勇輝は潔く振り返らずに前を見た。部屋の中は剣が整然と陳列され、壁一面が剣で覆われている。どう見ても弥生の剣コレクションだ。

 そして目の前にはボーガンを持った甲冑が、数体。またキラリと光った。


「うおっと、本当にすんませんでした!」


 慌ててドアを閉め、そのドアの向こうでドスドスッという音を聞いて冷や汗をかく。


「入られたくないんだったら鍵かけろよ!」


 心の底からの叫びは、ただ虚しく廊下に響くだけであった……。


(なんかどっと疲れた)


 勇輝はドアを開けながら進んでいく。多数の普通のドアの向こうは、普通の部屋だったり、ちょっとしたサロンになっていたり、貴族の暮らしを彷彿とさせるものだった。

 だいぶ地図を埋めた頃、勇輝は一際大きなドアをした部屋を見つけた。ホールのものよりは小さいが、それでもなかなか立派である。


(右よーし、左よーし、いざ進まん!)


 勇輝は安全確認をして身を低くしてからドアを開けた。幸い何かが飛んでくる気配もなく、カメラがいる気配もない。


「うっわ」


 勇輝が思わず声を上げてしまうほど、そこは物で溢れかえっていた。どうやらここは倉庫らしい。棚が無数に陳列され、そこにめいいっぱい物が置かれている。

 少し入ってみると、棚がないスペースには家具が置かれ、ホールにあったソファーが並べられていた。完全に使わないもの置場のようだ。


「こっからいくつか俺の部屋にもらっていこ」


 勇輝の部屋には最低限の家具しかなく、もう少し家具で埋めないと広すぎて落ち着かない。なんなら六畳分だけ洋ダンスで囲んでしまってもいい。

 勇輝は暇つぶしだと、辺りを物色していく。欲しい家具に目星をつけて、棚に置いてある物を見ていると、骨董品から絵画、人形や判別不能の何かまで様々なものが置いてあった。一種の博物館状態だ。

 また箱に入っているものも多く、気になるものを一つずつ開けていく。ほとんどがどう扱っていいのか分からないものばかりだったが、そのうちの一つをどかすと、棚にスイッチが埋め込まれてあった。わざわざ隠してある謎のスイッチ。押してくださいと言わんばかりに出っ張っているスイッチ。

 勇輝は迷わずにそれを押した。


(何が起こるのかな~)


 ウキウキと心弾ませている勇輝の耳に、ガコッと何かがズレる音が聞こえた。これはお決まりのパターンであるから、当然それは壁がズレる音で、勇輝の背後に扉が出現していた。

 そして扉には“開けるな危険”の文字が。


「開けるに決まってんじゃん」


 勇輝は忠告も何のその、躊躇わずにドアノブをひねる。何かが爆発するわけでも、跳び出してくるわけでもなく扉は静かに開いた。


「げっ」


 そして目に飛び込んできたのは、何か怪しい雰囲気を醸し出すものたち。

 勇輝はその雰囲気に押され、ろくに見もせずに扉を閉めた。飲みこまれてしまいそうな空気がそこにはあった。


(なるほど、開けるな危険だ)


 勇輝は何もなかったかのように爽やかに笑い、スイッチを押した。再びガコッという音がして扉が消える。状況は最初に戻った、勇輝が見たという事実を除いて。

 勇輝はそれでもこりずに物色を続ける。神経が太くなければ如月で仲間としてやっていけないのだろう。勇輝は鼻歌交じりで使えそうなものを探していく。

 そして棚の下段を覗いていた時、棚の奥に何かが落ちていることに気がついた。


(なんだろ)


 勇輝は下から腕を突っ込んで何かを引っ張りだす。埃を払うと、それはパズルのようだった。木枠に複数の板がはめ込まれ、上下左右に動かして絵柄を揃えるタイプだ。

 ただ一般に売っているものと違うのは、絵が図形の組み合わせという複雑なものであることだ。色わけもほとんどない。


(ひさしぶりにやろっかな)


 勇輝は適当にピースをバラバラに入れ替え、パズルを始めた。小テストによって鍛えられた短期記憶に元の図形を覚えさせ、それに近づけていく。単純なパズルだが、これがなかなか難しく、楽しいのだ。


(ここをこうして~)


 だがパズルしか見ていない勇輝は、部屋の壁が変化していることに気がつかなかった。

 ドアが現れ、窓が現れ、消えていく。

 そんな怪奇現象が勇輝の知らない場所で起こっている。その現象を勇輝が認識するのは、行き詰ってやや飽きてきた頃だった。


「……どういうことだ?」


 扉が開くと同時に聞こえた声は戸惑いを含んだ錬魔の声だった。

 勇輝はよっと軽く手を挙げて挨拶する。


「如月の倉庫ってすごいな、いろいろあって楽しい」


「え、あぁ。しかし……」


 錬魔は釈然としない顔で辺りを見回している。そして錬魔が勇輝の手の中にある物に目をやったと同時に勇輝がピースを移動させ、窓が開いた。


「これは何だ! 秀斗か!」


 何もなかった壁に窓が現れ、内側に開いたそこから弥生の顔が覗いた。


「あれ、壁に窓なんてあったけ」


 首をかしげながらピースを元に戻すと、弥生は消えた。


「うへぇぇ⁉」


 勇輝は口をあんぐり開けて、目を瞬かせた。そしてゆっくりまたピースを動かす。


「勇輝! それを不用意に動かすな!」


 不機嫌顔の弥生が再登場した。


「嘘! 何これ!」


 ここになって、勇輝は薄々何かまずいことをしたかもと冷や汗を感じてきた。横から錬魔の痛い視線も感じる。


「勇輝……ちょっと貸せ」


 弥生は窓からひらりと倉庫に入り、勇輝からパズルをもらい受けた。それをパチパチと動かしていく。

 窓が消え、扉が現れ、また消え現れる。

 それを幾度が繰り返し、弥生は現れたドアを開けた。


「おい秀斗、お前これをどうして……」


「弥生! お前から会いにくるなんて珍しいじゃねぇか! うおっと……てかさ、空間滅茶苦茶なんだけど、お前なんかしたか?」


 扉の先は秀斗の部屋で、弥生を見るなり抱きつこうとした秀斗を弥生は光の玉で追い払う。だが華麗に避けた秀斗は、なかなかお前の部屋に辿りつかないんだけど、と緊張感も危機意識もゼロだ。


「これ、お前が作ったものだな。なぜ管理していなかった」


 弥生はパズルを秀斗に突き出すと、秀斗はあっと罰が悪そうな顔になった。


「……なんかマズイものだった?」


「いや、まずいというか……それさ、簡単に言うと空間操作装置なんだよな」


 あははと秀斗は乾いた笑みを浮かべ、弥生から装置を受け取った。


「つまり?」


「これ全体が屋敷の地図になっててよ。板を動かせばその部屋が動くんだ。昔便利かな~って作ったら苦情が殺到したから倉庫にぶち込んでおいたの忘れたぜ」


「秀斗、お前は責任を持ってそれを直せ」


 ごまかし笑いが一瞬で固まった。


「マジ? これけっこう滅茶苦茶だぜ? しかもやった本人じゃなく俺⁉」


 それに弥生だけでなく錬魔も頷く。


「勇輝がやるとこれ以上に酷くなる」


 横から流れ弾を食らった勇輝は心の傷口を押さえながら、


「お願いしまーす」


 とぺこりと頭を下げた。


「ということだ。製作者として責任を取れ」


 秀斗は原形から程遠い図面になったパズルに目を落として、重い溜息をついたのだった。

 その後秀斗がパズルを完成させるのに一時間がかかったことや、その間癒慰と零華が屋敷を迷い続けたことは、余談である。


純粋に、如月のひと時を投稿。勇輝が懲りないのはいつものことです。

さてと、ついにカウントダウンが1となりました。地味なカウントダウン、それはなんのためですか?


勇輝 「記念すべき100話目!」


なんですよ。次回100話目を迎えます。やはりこれはお祝いか? ということで、100話を記念して特別編を投稿しまーす。


勇輝 「どこらへんが特別なの?」


趣向。重みの欠片もない作者の楽しみがつまった作品。作者の願望も詰まってます。ちょっと違う神名をお届できればと。


勇輝 「……内容は?」


秘密。一言で言うと災難です。


 100話記念。図鑑でも作ろうかと考えましたが、彼らのことでバラせるネタは少ないし、詳しいプロフィールは作者も知らないのでサヨナラ。身長とか体重とか、わからないし、教えてくれないし……。

 というわけで、次回からちょっとした話が続きます。常より5パーセントばかばかしさが増えます。

 では!


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