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第3章の3 試験って疲れる

 二月に入り、土曜日。勇輝は朝から如月にいた。自宅で寝ていたところを、抜け道からやってきた秀斗に起こされたのだ。

 そして連れて行かれた場所はホール。そこでは零華が勇輝を待っていた。秀斗は零華と目線を交わすと、手を軽く振って出ていった……。


「おはようございます」


「おはよ~」


 勇輝は零華の向かいにあるソファーに座り、朝食用に掴んできたパンを食べ始めた。何やら話があるようだが、朝食も大事。一日の始まりの食事はきちんと取らねばならないのだ。

 たとえそれがあと二時間で昼になろうとしていても……。


「勇輝君。貴方が如月に入ってから二カ月になろうとしていますね」


 勇輝は咀嚼をしながら頷く。気づけばもう二カ月、早いものだ。


「実はですね。龍牙隊において、牙軍に入るには試験があるのです。ですが勇輝君はこれをすっとばして如月に入っています」


 勇輝は出された緑茶を飲み、


「そーなんだ」


 と相槌を打った。レギュラー争いみたいだなと心の中で思う。


「ですから、これから勇輝君にその試験を受けてもらいます」


「なんですと⁉」


「大丈夫です。形だけですから。改めて、私たちに認められる必要があるだけですので」


 形だけとにこやかに言われても、試験に落ちたら如月にいられなくなるのでは? と不安になる。

 瞳に不安の色を覗かせる勇輝に、零華は説明を続けた。


「今から如月の全員を回って試験を受けてください。合格すればこの紡命珠《ほうめいじゅ》がもらえます」


 そう言って零華が手のうちに藍色の珠を出現させた。空間から生まれたように出現したそれは小さく、親指の爪ぐらいの大きさしかなかった。

 髪と血を媒体にして、己の力を押しとどめた珠だ。

 気になることは二つある。勇輝は空間から珠を出したことは魔術師だからと割り切って、もう一つの疑問を口にした。


「前に見たのはもう少し大きかったと思うんだけど」


 以前、鷺《さぎ》が来た時に見せてもらったものは、五百円玉程の大きさがあった。


「凝縮版です。では、試験を始めましょうか」


 散歩に行きましょうか、とでも誘うかのような軽さで、彼女は試験の開始を告げた。


「え、ちょっと」


「私からの試験は口頭質問です。いいですね?」


 勇輝がおどおどと挙動不審になるのも気にせずに、零華は試験を始めた。


「では、まず……」


 勇輝は背筋を伸ばして、面接のいろはを頭の中で再生する。手は軽く握って膝の上、足はほどよく開いて、目線はしっかり相手を見る。

 その真剣な表情に、零華は口元を綻ばせ、問題を口にした。


「一たす一は?」


 勇輝は反射的に答えを口にしそうになったが、寸前で喉奥に引っ込めた。


(二なんて簡単なわけないよな)


 零華はうっすらと笑っていて、それが質問自体に怪しさを感じさせる。何か裏があるのではないかと、疑ってしまうのだ。


(昔流行った中に、田んぼ田ってのがあったな。もしかして、そっちか?)


 勇輝は零華の表情から意図を読み取ろうとするが、そこには真意を見せない微笑があるだけだった。


(計算能力を試験したって仕方無いし……)


「残念、時間切れです。しかし、疑うということ自体は正解です」


 思考をプッツリと切った零華の声に、勇輝は肝が冷えたが、失格ではないらしい。

 そして心を読まれたのかとひやりとする。


「次。一引く一は?」


 勇輝は再び考える。今度は時間切れにならないように気をつけながら(制限時間は零華の思いのままであるが……)。

 勇輝は、零華の瞳に挑むような光があるのに気付くと、思考をまとめていった。


(素直にゼロといくか、それとも捻って日と答えるか。そういや、さっきの答えを言わなかったな……ためすか)


 敵との駆け引き、スパイものの映画や、探偵ものの映画でもよく見られる展開だ。

 不良とは力にものを言わせる駆け引きだが、勇輝は頭を使った駆け引きも好きだった。使用用途は主に父親への小遣いねだりだったが……。

 勇輝は望むところだ、と口を開いた。


「ゼロ」


 最初は直球で勝負してみる。まずは答えが何かを知らなくてはいけない。


「けっこうです。では、百引く一は?」


 尚も計算問題が続く。勇輝は答えを得ても、意図が掴めない。


(答えは計算のほうか……。次も同じか?)


 全く同じ色の問題が連続するというのは、一種のタブーだ。おもしろみに欠けて、飽きが来るからだ。


(何が正解なんだ? よし、もう一つの答えも言ってみよう)


 勇輝は零華の表情の些細な変化も見逃すまいと、その顔を注視しつつ選んだ答えを口にした。


「白」


「けっこうです。では次、八足す八は?」


 勇輝は表情の変化を見つけることは出来なかったが、その答えにひっかかりを覚えた。

 胸に広がるのはかすかな戸惑い。


(間違いではない? けっこうです?)


 先ほどと同じ答え方だった。そしてけっこうですとは、丸だが二重丸ではない。


(じゃぁ、正解はなんだ?)


 そして勇輝は八足す八を真剣に考え始めた。十六という答えはすぐに出てくる。おそらく法則性を見ても、この問題も二つ目の答えがあるはずなのだが、それが思い浮かばなかった。

 小学生のころの記憶を引っ張りだし、八足す八を漢字に直して脳内に並べる。


(イコールどーすんだ?)


 初めの二問はイコールも使うが、三問目は使わなかった。規則があるようでない。


(八足す八……)


 零華はちらりと壁にかかっている時計に目をやった。それが勇輝をますます焦らせる。


(漢字のはずなんだ……八+八…………そうか!)


 勇輝は得られた二つの答えを頭の中に並べた。どちらが、今回に相応しいのか選び始め、けっこうですという声を思い出した。


(丸でもバツでもない。他に答えがあるのか……?)


 零華はもう一度時計を見やった。制限時間はもう終わろうとしているようだ。


(賭けてみるか)


 外れても死ぬもんじゃなし、と勇輝は腹を決めて膝の上の拳に力を込めた。


「答えは二つ。十六と米」


 零華は何も言わずに黙っていた。その間も笑みが絶えることはない。そして今はその笑みが怖かった。


「……正解です。意外と頭も使えるのですね」


 勇輝は長い溜息をついて、肩の力を抜いた。さらりと失礼なことを言われたが、この際水に流す。

 続いて二問三問と質問が重ねられた。どれもこういう状態になったらあなたはどうしますか? という質問で、回答は二択になっていた。


「けっこうです。では、最後の質問です」


 零華は、この二択問題に関しても正解という言葉を使わなかった。勇輝は問題の意図や裏を読もうと必死に頭を働かせる。


「貴方には同じ地下組織に所属している親友が一人います。その彼が組織の仲間を殺して逃げてしまいました。上から貴方に親友の抹殺命令が出ています。貴方なら、どうしますか? 殺しますか? 見逃しますか?」


 勇輝はその関係図を脳裏に描いた。親友には歩の顔を入れて、殺された仲間に秀斗の顔を入れた。


(歩が秀斗を殺して逃げて、俺が歩を殺さないといけない……そんなの嫌だな)


 それが正直な気持ちだった。


(歩は親友だし、見逃してあげたい。でも、そうしたら俺の立場が危なくなる)


 勇輝は質問の裏を読もうと、もう一度質問を反復させ、分析を試みる。


(形式は同じ、シチュエーションの二択。そしてまだ正解はもらっていない)


 勇輝は頭に手をやった。かきむしりたいが、試験中なので我慢する。

 苦悩している勇輝を見て、零華は再び質問を繰り返した。


「――――貴方なら、どうしますか?」


 最後の言葉が耳に飛び込んできた瞬間、脳内に電撃が走った。


(貴方なら、どうしますか? 貴方なら? 俺なら?)


 その言葉はそれまでの質問には付いていなかった。そして、もう一つ気になるところがある。


(どうしますか? どちらですか? とかじゃなくて?)


 答えは二択だが、訊き方は縛っていない。

 勇輝は矛盾をつなぎ合わせていった。少しずつ零華の意図が見えてくる。確信に近い答えが出たところで、勇輝はニッと笑った。


「俺なら、まず親友に仲間を殺させない。必ず気づいて止めてやる」


 その答えは第三の選択肢。零華が求めるのは、道を自分で作り出す力だと、勇輝は気づいたのだ。


「……正解です。見直しました。使う時は使うんですね、その頭」


「……さっきから何気にひどくない?」


 正解の嬉しさに心を躍らせるよりも、自分へのマイナス評価に心が折れそうになる勇輝だ。


「では、これを渡しますね。私の紡命珠です。それは微弱ながら結界を張っていますので、持っていれば小石ぐらいは弾けます」


 役に立つのか微妙な強度だが、勇輝は満面の笑みでそれを受け取った。それは勇輝が彼らに認められた証なのだ。大玉の真珠のようなそれを、勇輝は大切そうにズボンのポケットに入れた。


「次は錬魔君の部屋に行ってください」


「はーい」


 勇輝はソファーについた手で、体をひょいっと押し出して立ち上がった。


「いってきまーす」


「健闘を祈っています」


 零華に手を振って送り出され、勇輝は次の試験官、錬魔の部屋へと歩いていった。




 勇輝は錬魔の部屋の前で深呼吸をしていた。

 気持を落ち着かせて、ドアノブに手を伸ばす。そして引っ込めた。それを先ほどから数度繰り返している。


(錬魔からの試験ってなんだろう……い、医学とかなら俺無理だな。というか、あの無表情のままで試験官されると怖い)


 あの切れ長の目で睨まれると、カンニングも全てばれてしまいそうだ。

 嫌われていた自覚がある勇輝は、試験前からビビりまくっていた。


(……でも、錬魔にも認めてもらわないといけないし。が、頑張ろう)


 ノックをし、返事を待ってからそっと入る。

 錬魔は部屋の隅にある机に向かっていた。また研究をしているようだ。


「えっと、試験を受けに来たんだけど」


 錬魔は回転椅子を回して、勇輝に体を向けた。すっと目が細められ、勇輝は身を固くする。


「ここまで来い」


 勇輝は手まねきされるまま、錬魔の数歩前に立った。試験内容が全くわからない勇輝は、不安で身長が縮みそうだ。

 勇輝は錬魔の瞳を見て、はっと息を飲んだ。その眼が赤く縁取られていたからだ。

 神秘的な瞳に勇輝は魅入られていた。

 錬魔は勇輝を上から下までゆっくりと視線を移動させる。次に目が合った時にはその瞳は灰色に戻っていた。


「異常はない。健康そのものだ」


 錬魔は大きく頷くと、立ち上がった。錬魔の顔が高い位置に移動し、勇輝は見上げる。


「俺からはこれで終わりだ。ん、これをやる。これで石つぶての軌道を逸らすことができるな」


 錬魔は机の上に置かれていた赤い珠を指で抓むと、勇輝の掌に乗せた。どうやら珠が増えると結界強度も増すようだ。


「……え、俺何もしてないけど」


 勇輝は錬魔の髪と同じ色をした珠を見つめ、困惑を顔に浮かべる。


「健康診断だ。俺は医者だからな」


「へぇ。錬魔の眼って便利だね」


 錬魔の眼は治癒能力を与えるだけでなく、症状をその眼に映すことも出来た。不具合がある箇所は青い印が浮かび上がるのだ。


「聴診器も要らないし、女の子も安心だね」


 毎年の健康診断で、女子の“内科の先生よぼよぼのおじいさんだったぁ。最悪~”という会話を聞いている勇輝は、安心安心、と繰り返していた。


「……一度、脳波でも測っておくか」


「俺そんなに頭悪そうに見える⁉」


「あ、いや……」


 錬魔の眼について、気味悪がられたり、逆に羨望の眼差しを送られたりすることはあったが、便利だと言われたことはなかった。人とは違う感性に興味が湧き、調べてみようかと思っただけだったのだが、いけない場所を踏んだらしい。

 勇輝は鼻息荒く抗議する。


「俺は確かに不良だけど、不良イコール頭悪いってのは間違ってると思う」


 勇輝の期末テストがかなりギリギリと聞いていた錬魔は、それを指摘するか迷ったが、止めた。


「そうだな」


 ひとまず同意して、落ち着かせた方がいいと踏んだのだ。


「確かに俺のテスト点はぱっとしないよ」


(自覚はあるんだな)


「でも、テストの点でそいつの知能が計れるなんて誰が決めたんだよ」


「……いや、誰も」


 誰も決めてはいないが、世間では両者はニアリイコールで結ばれている。


「だろ? 俺はいたって正常です」


「分かったから、次へいけ。秀斗は学校のグラウンドで待っているそうだ。ジャージ着用とも言っていた」


「……分かった」


 勇輝はグラウンド? ジャージ? と疑問に思いながら、錬魔の部屋を後にしたのだった。





 集合場所グラウンド。そこではジャージ姿の秀斗が勇輝を待っていた。秀斗からの試験は学校でおなじみ、新体力テストだった。春やるのと冬やるのではこうも違うのかと、かじかむ手で握力計を握る。

 秀斗も退屈だからと、一緒にやっていた。

 昼を挟んで全種目を一日でやるという無茶を強行突破した二人は、シャトルランを終えぐったりと地面に座っていた。二人とも百五十を超え、足はガタガタだ。


「さすが、体力はあるな。意外と握力もあったし」


 秀斗は勇輝の成績表を見て、その得点をざっと計算した。余裕でAランクだ。


「でもさすがに全種目はきつい」


 明日は確実に筋肉痛だ。目覚めた時には体の節々が悲鳴をあげるだろう。


「はは……じゃ、これ。俺の紡命珠」


 秀斗はジャージのポケットから金色の珠を取り出して勇輝に渡した。


「ありがと」


「そいつで石つぶてを弾けるぐらいにはなる」


「……地味なレベルアップ」


 勇輝はそれをポケットに入れて、秀斗とともに如月に帰った。


「次は癒慰のところな」


 勇輝の部屋の前で二人は別れ、勇輝はシャワーを浴びて服を着替えた。


(癒慰か……どうか普通の試験でありますように)


 癒慰からの条件が隊員服で来るように、だったので、勇輝はそれを身に纏う。勇輝はその姿を鏡で確認し、顔を引き締めて癒慰の部屋へと向かった。




 勇輝は、小さな部屋の中にいた。部屋とはいっても、区切りはカーテンのみ。前方の壁は鏡張りになっている。大きさは半畳くらいだ。

 それは服屋にある試着室そっくりで、それは部屋のど真ん中にあった。勇輝がいる部屋にはどんどん服が投げ込まれてくる。

 癒慰が出した試験。それは早着替えだった。


「なんで、こんなのしないといけないのさ!」


 部屋に入るなりいきなりその試着室に押し込まれた勇輝は、上着を脱ぎながら外にいる癒慰へと叫ぶ。


「任務によっては潜入捜査もあるからよ。時間が命だからね」


 癒慰は一人掛けのソファーに座り、サイドテーブルに茶器を置いてゆったりとティータイムを楽しんでいた。本日の衣装は婦警さんで、ティーポットの中身はウイスキーだった。


「後一分よ~」


「あぁぁ、よっと、出来た!」


 勢いよくカーテンが開けられ、スーツ姿の勇輝が出てきた。サングラスをして、SPのはずなのだが……。


「あはははっ、似合わなーい!」


 身体が華奢なせいもあり、サングラスが顔に比べて大きいせいもあり、子どもがお父さんのまねをしたようなおかしさがある。


「うるさいっ」


 勇輝は怒ってカーテンを閉めた。そこに次の服が投げ込まれる、次はカウボーイだった。


「よーい、スタート!」


 こんな服を着る任務なんてない、と思いながらスーツを脱ぎ棄て、その衣装を着る。

 最後にカウボーイハットをかぶり、腰に拳銃を下げれば西部劇でお馴染みの姿となった。


「どうだ!」


 姿を鏡で確認してから、勇輝はカーテンを開けた。


「意外と似合うわね。次~」


 そうして、警察官、コンビニの店員、大工、うさぎの着ぐるみ、王子様と様々なコスプレをこなしていった。


「最後はこれね~」


 投げ込まれた服を見た瞬間、勇輝の体は小刻みに震えだした。全体的に黒い服。レースがふんだんに使われ、ふんわりと腰のあたりから広がっている。そして布の間から覗く、ふわふわの耳、猫の耳。忘れもしない、あの、衣装だ。


「癒慰!」


「残り二分~。合格できないわよ?」


 勇輝は溢れる怒りを拳にこめ、鏡を割ることで発散させると、半ば自棄《やけ》で王子の服を脱ぎ捨てた……。


「きゃぁぁ! 可愛いぃぃぃぃ!」


 カーテンを引きちぎらんばかりに開けた次の瞬間、癒慰の嬌声が部屋に響き渡った。


「合格~」


 癒慰は盛大に拍手をしている。勇輝は合格の言葉を聞くとすぐにカーテンをしめ、忌々しい服を脱ぎ捨てた。早着替えで隊員服に戻る。


「メイド服でいて欲しかったのに……」


 癒慰は頬を膨らませて、勇輝の手に茶色の珠を置いた。


「やだね」


「まぁいいわ。これで四つ、瓦礫に埋もれても死なないぐらいにはなったわね」


「そいつは助かるよ」


 勇輝は嫌味っぽくそう言い残して、癒慰の部屋を後にした。胸は屈辱感で一杯だ。



 勇輝は足音荒くホールに入ると、適当なソファーに腰を下ろした。ホールは無人で、勇輝は背もたれに体を預けてほっと息を吐いた。

 心身ともにもうボロボロだった。


(疲れたし、眠いし……)


 勇輝はうつらうつらと、夢との境界を漂い始めた。

 どれほどの時間が経過したかは分からないが、勇輝は人の気配を感じて目を覚ました。

 眠い目をこすって辺りを見回すと、弥生が入って来たところだった。そしてまだ弥生からの試験を受けていないことに気が付く。


「そうだ、弥生の試験は何? 剣での模擬戦とかなら勘弁して欲しいんだけど」


「試験?」


 勇輝へと近づく弥生はそう訊き返した。


「弥生からも試験があるんだろ? 合格したら珠をくれるやつ」


「珠……あぁ、これか? そういや癒慰にお前に渡せと言われていたな」


 そう言って弥生が上着のポケットから取り出したのはペンダントだった。飾りの色は鈍色で、掌に収まるぐらいの丸いプレートだ。蔓が絡み合っているような模様の細工がされている。そこには一つだけ銀色の珠がはまっていた。


「試験は?」


「そんなものは知らん。私はこれをお前に渡せと言われただけだからな。大方あいつらの暇つぶしだろう」


「え……」


 思い返せばそのような気もしてきた。せめてもの救いは、錬魔の試験に目的がちゃんとあったことぐらいか……。


「全員に紡命珠を貰ったのだろ? 渡せ」


 勇輝は差し出された掌に、ポケットから取り出した四つの珠を置いた。藍、赤、金、茶とそれぞれ美しい色をしている。


「穴もないのにどうやってはめるんだ?」


 その問いに、弥生は行動で答えた。藍色の珠をプレートの上に置き、押しこんだ。すると粘土に埋め込むようにぴったりと藍色の珠がはまったのだ。


「すごい。これも魔術?」


「あぁ。力を流して埋め込めるようになっているらしい。これを作ったのは匠だから、ろくな素材ではないだろうがな」


 弥生は言っている間に赤、茶、金と等間隔に埋めていく。五つの珠は五角形を描いていた。


「これを常に身につけていろ。弾丸の軌道を逸らすことができる」


 勇輝はそのペンダントを受け取ると、さっそく首から下げた。金属かと思ったが意外と軽い。重さは木のペンダントと同じくらいだ。


「喩が飛んでくるものばっかり……打撃はどれくらい防げる?」


「場合によるな。殺気のこもった剣戟を二度受けられるかどうか。あくまで飛来物にのみ結界は作動するからな。あと、私たち以外の異能者に対して結界を張れる。まぁ、すぐに破られるが」


「素手は?」


「命の危険と見なされなければ素通りする」


「使えそうで使えないな……」


 打撃に効力を発揮しないのであれば喧嘩しても相手の拳は当たり、弾丸の軌道をそらせても、そもそもそんな危険な状況になりたくない。


「それに、それがあればお前の場所がわかるからな」


「ふ~ん。やっぱりなんか感じ取れるんだ」


「まぁ、私は苦手だが、癒慰や零華はかなり得意だ」


「そっか、ありがとう。大事にするよ」


 勇輝は再びペンダントを見つめ、口元を緩めた。

 皆の力が少しずつ詰まったそれは、確かに重みも持っていた。


ひさびさに、手間取った。原因はひとつ。


紡命珠。こいつの名前がないことを、零華が渡す直前に気がついた。

うだうだ考え、ついついゲームをしていたら、日にちが過ぎてました……。


とうとう四月です。新生活もスタートしますね。

神名は再び週一ペースに戻ると思います。たぶん、土日のどちらかに更新してると……いいな。

未来は未定。まさしくそのような感じ。


ここまでで前フリは終了。次回からはプロローグからつながるメインへと話は進みます。

では、また次回。

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