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第1章の31 セールスにはNOと言おう

 勇輝が屋上に上ると、そこにテントはなく、代わりに歩がいた。


「おはよ~勇輝」


「おはよ……って歩だけ?」


 勇輝は歩の隣に座る。


(テントは教師達にでも撤去されてしまったかな……)


「わりぃかよ。つーかお前聞いたぞ。昨日危ねぇことに首突っ込んだんだってな」


「え、なんで知ってんだよ」


 歩は驚いて顔を向けた勇輝に、でこピンを喰らわせた。


「歩様を舐めんじゃねぇよ。で? お前どこまで知ったんだ」


 歩の声が少し硬くなり、緊張感が伝わる。


「は?」


「あいつらのことだよ」


「魔術師ってやつ?」


 さらっと言った勇輝に歩は深く溜息をつく。


「知っちまったのか……」


「え、歩知ってたのか? もしかして俺殺される?」


「殺されは……しないけどよ」


 少しの間が気になったが追及しないことにした。


「なんでそんなあっさり受け入れてんだよ」


「なんでって……なんかあいつらならありえそうだなって」


 特に疑問にも思っていない口ぶりに歩は再び溜息をついた。


「しゃーねぇか。俺も教えとくわ……俺のバイトな、隠密なんだ」


 勇輝は言われた言葉がいま一つ理解できなかった。


「カタカナにするとスパイ」


 電撃が走ったように意味が繋がる。


「スパイ? すげぇじゃん! かっこいい~」


 歩は勇輝の反応に拍子抜けした。


「お前もっと他に驚くとかねぇの?」


「なんで? スパイってかっこいいじゃん! うわ~歩がスパイとか最高なんだけど!」


(確かに今こいつがスパイ映画にはまってることは知ってたけどよ……)

 

 そしてその前は異世界系のアニメだった。もう魔術とか剣とかのオンパレード。


(まさかこいつ、あいつらにも同じ反応したんじゃ……)


 逆に怖ぇ~、と歩が内心青ざめていると、目を輝かせた勇輝が質問を浴びせ始めた。


「もしかして歩はこの学校になんか探りにきたとか?」


「スパイにそんなこと訊くんじゃねぇよ」


(あ~なんか必死に隠してた自分が馬鹿らしくなってきたぜ……)

 

 歩はなんとか隠そうと、仮病や早退、遅刻をふるに活用したのだ。


「あ、情報漏らしたりしたら殺されるよな!」


「だからお前はすぐにそう言う方向に話をつなげやがって……」


「じゃぁさ、あいつらと同じとこでバイトやってんならあいつらと会えんの?」


 テンションの上がった勇輝はいつもの二倍頭が回転する。

 よっていつもの二倍話も飛ぶ。


「いや~俺下っ端だし、あいつらああ見えてもけっこう上の奴らだし接点ねぇ」


 しかし歩も慣れたもので、自然に会話を続ける。


「あいつら学校来るかな」


「今んところ転校や退学の届出はないみたいだぜ」


(まぁ、そもそもここに来たのは任務のためだしな。それが終わったら来る必要もねぇだろけど)


「なんかあんのか?」


「……弥生に聞きたいことがあるんだ」


「弥生、ねぇ」


 歩は銀髪の美女を思い浮かべる。

 彼らに関わるようになってから独自で彼らのことを調べてみた。

 しかし彼らについての情報は極めて少なく、個人のものとなればさらに少なかった。

 弥生については隊内三指の実力と、ここ十年姿を見せなかったことだけだ。

 十年間の空白は如月全体のことでもある。

 そんな如月が族狩りを済ませ、復活したのだから隊内は上へ下への大騒ぎだった。

 無理もない、死堅牢如月はもはや伝説になりかけていたのだから……。


 しかし噂には尾ひれがつくものだが、今回はコバンザメがついてきた。

 如月の復活とともに一人の人間の存在が実しやかに囁かれているのだ。

 そして、そのコバンザメに食いついた人がいた……。


「勇輝、忘れねぇうちに渡しとくわ」


 と歩がポケットから取り出したのは子供のころ近所の悪餓鬼と打ちあったモデルガン、のわりにはずいぶん重かった。


「え、なにこれ。おもちゃ?」


 ずいぶんと小さいが質感がどうも威圧感を与える。


「そう、俺達にとってはおもちゃ」


「さ、さすがだな。やっぱスパイはこういうのも扱えないといけないよな!」


 勇輝はそっとそれを持ってじっくりと見た。


(なかなかかっこいい……)


「お前にやる」


「いりません!」


 勇輝は慌てて歩に押し付けた。

 が、押し返される。


「護身用だから。頼むから貰っといてくれ! そうじゃないと俺の命が危ない!」


 逆に拝み倒された。


「え、え、え?」


「頼む! 上の人から頼まれたんだ! だから持ってるだけでいいから!」


 見たことのない歩の必死の形相に、勇輝は拳銃を引き寄せる。


「誰が俺に?」


(歩がこれほど焦るのだからあいつらじゃないし……)


 と、しごく最もな疑問を口にしたとたん、両肩をひしっと掴まれた。


「世の中には知らねぇほうがいいこともある」


 歩の脳裏には羽織を翻して去って行った青い瞳の男の姿が甦る。

 あの羽織は階級を与えられた者しか着られないものだ。


(しかもあの紋はおそらく……)


 歩はそこまで思い出して頭をふった。


(これ以上は俺の精神に関わる、止めておこう)


「あ、うん」


 勇輝は剣幕に押されて頷いた。


(た、たぶん本物とかじゃ、ない、よな。……大丈夫、持ってるだけだし)


「で、ここ引いて引き金を引くと撃てるから」


「あ、うん」


 さらりと使い方を教える歩。


(なんか、モデルガンより簡単だな……)


 モデルガンは地味に弾を込めるのが面倒なのだ。

 勇輝は深く考えるのを止め、上着の内ポケットにしまった。


 そして寒空の下、惰眠へと突入する……。


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