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第1章の29 俺は知りすぎた?

 陽気な声とともに扉が開かれた。


「帰ったぜ~あ、勇輝」


 秀斗は勇輝を見つけるとまっすぐ彼の下へ歩いて行った。

 そして、問答無用に殴った。


「ぎゃっ」


 鉄拳制裁。


「秀斗君!」


 癒慰《ゆい》が驚いてソファーから身を浮かす。

 勇輝はすぐさま立ち上がって反撃の構えに入ったが、秀斗から放たれる怒気に思わず唾を飲み込んだ。


「さんざん危険なことしやがって……」


 血の底から這い上がってくるような声に勇輝は応戦態勢を解いた。

 抹殺目的かとも思ったがよく考えれば今回勇輝はさんざん彼らに心配もかけたのだ。


「ごめん。俺が悪かった」


 素直に謝る。彼らが来てくれなかったら今頃冷たくなって、土の下だろう。


「お前が出てこなかったら弥生が怪我することもなかったんだよ!」


(……え、そっち?)


「しかも慣れ慣れしく……」


(なんか、怒りの方向ずれてない?)


「秀斗君! 怪我なら錬魔君が治してくれたじゃない! 勇輝君に八当たりしないで!」


「……ちっ、まあいい。さっきのでチャラにしてやるよ」


(それ、俺が痛かっただけじゃん)


「え……てかもしかして二人つきあってたの?」


 そう言えば弥生だけは秀斗のことを秀と呼んでいた。

 お似合いといえばお似合いのカップルだ。その問に秀斗が顔を赤らめる。

 それを聞いた癒慰が吹き出した。


「違う違う! 秀斗君の一方的な片思い。ず~とふられてるのよ」


「あ、癒慰てめぇ!」


 さらっと暴露された秀斗が少し哀れだった。


「そんで? 他のやつらは?」


 秀斗は憤慨しつつソファーに座った。

 二人も座って向き合う形になる。


「部屋で休んでるよ。ただ、弥生ちゃんはどっか行ったみたいだけど……」


「え、一人で行かせていいのかよ」


「ん~でも一人になりたそうだったから……」


「仕留め損なったこと悔いてんのか? ガラでもねぇ」


(弥生、いないんだ)


 勇輝はくっと奥歯を噛みしめる。


(会って、訊きたいことがあるのに……)


 そしてもう一つ思うことには


(こっちも訊くタイミング逃しちゃったな)


 彼らが一体何者なのか、知りたいが抹殺は嫌。

 双方の間で揺らいでいると、秀斗が奇妙な顔をして見ているのに気がついた。


「どうしたのさ」


「いや、なんかすげぇ顔してっから」


 勇輝はそう言われて自分の顔を撫でる。

 考えていることがそのままでてしまったのだろうか。


(もういいや、やばくなったらそん時はそん時で)


 興味心は猫をも殺す。

 そういう諺を勇輝は知っているのだろうか。


「……あのさ、訊いていい?」


「いいぜ」


「――秀斗達って超能力者?」


 口にしたとたんに鼓動が速くなり、頭には抹殺の瞬間の映像が繰り返し再生される。

 

「違ぇよ」


 それに対する秀斗の答えはあっさりしたものだった。


「だ、だよな」


 勇輝はほっとして肩の力を抜く。


(そんなごろごろと超能力者なんているもんじゃないよな)


「俺らは魔術師」


 しかし安息も束の間、その一言が勇輝の脳を激しく揺さぶる。


「へ? 魔術師?」


「そ、魔術師」


 勇輝の頭には怪しげな儀式の図が描かれる。

 ろうそくのともった祭壇に、床には怪しげな魔方陣。その上には何者かの生き血が……。


「いや、そんなヤバいもんじゃねぇから」


「ぎゃ、俺の心読んだ!」


「そんなんできねぇよ。お前の顔見たらそれくらいわかるぜ……」


 勇輝は目をぱちくりとさせた。そして、電撃が走ったかのように一つのことが浮上する。


「え、そうなの……って、俺殺されたりしないよな!」


 勇輝の思考は一気に数分前まで遡った。 

 必死の形相で秀斗に問い詰める。


「は?」


「だから『お前は知りすぎた…バンッ』とかないよな!」


 すると突然隣にいた癒慰が笑いだした。


「大丈夫よ勇輝君。別に私たちのこと知ったって誰も殺しにはこないよ」


「まじ?」


 勇輝は念を押す。

 勇輝にとってこれは明日からの生活を左右する大問題なのだ。


「心配すんなって」


 秀斗は勇輝の頭をわしゃわしゃと撫でまわした。

 子供扱い。

 勇輝の地雷の一つでもある。


「アッパーカ~~ット!」


「ぐはっ」


 勇輝は秀斗の顎に拳を入れると立ち上がった。勇輝は頭の切り替えも早い。


「ひでぇ」


秀斗が顎を抑えて恨めしそうな目を勇輝に向けた。


「さすが勇輝君。不良なだけあるわ」


「つーか腹減った」


勇輝がその言葉で時計に目を落とすと、時刻はもう一時だった。

 安心したら急に空腹を感じだした。正直腹が減ってこれ以上持ちそうにない。


「帰ってご飯食べようかな」


「じゃぁ、そこの扉を進んでいくと出られるよ」


 癒慰が指さしたのは他と比べると少し小さいドアだった。

 勇輝はドアノブを捻り、扉を開ける。


 そこには長い廊下が続いていた。


「今日は楽しかった。じゃ、また明日」


 勇輝はじゃぁな、と手を振ると廊下を歩いて行った。


「楽しかった、ね~。なかなか言えるもんじゃないよね」


「あいつ、昂乱のことも組織のことも何も聞かなかったな」


「今までで、一番おもしろい人間だったね」


 二人は顔を見合わせると、少し寂しげに笑った。



秀斗の恋は特に重要じゃないからさらりと。


秀斗 「いや、これは重要だって!」

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