第1章の2 不良の威厳って?
彼女からの手紙。どんなことが書かれているのかドキドキしてしまう。だがそれは恋のドキドキではなく、恐怖のドキドキである。
なにしろ相手があの天使の笑顔で悪魔の心の彩だ。
勇輝は席につき恐る恐る紙を広げた。そこには、
“次の日曜日デートしようね。場所決まったら教えてね”
とある。
これを彩の心の中の声に翻訳すると
“次の日曜私と遊ぼ〜。私がわざわざつき合ってあげるんだからね。場所は適当に選んでおいてよ。私が気に入る所じゃないとやだからね。ふふっ、もし期待を裏切ったらどうなるかわかるよね?”
である。
それを正確に感じ取った勇輝の背中に悪寒が走る。不良として腕っぷしは強くても、彼女には逆らえない勇輝だった。
この問題をどうしたものかと考えていると、ホームルームが始まり担任がやってきた。
「おう、だれか休んでる奴はいるか?」
担任が来てもいっこうに静かになる気配はなく、担任もそれを気にするわけでもなくさっさと教室を後にする。
勇輝のクラスは他のクラスの半分しか人数がいない。勇輝のクラスにはいわゆる問題児が集められており、学校にこなかったり退学していったりするからだ。
しかし勇輝は教室を広く使えることに満足していた。
勇輝は彩へと視線をやり、眺める。彩は机に頬杖をついてぼうっとしているように見えた。どこか悲しそうにも見える表情にドキリとした。
(最近、あの顔多いよな)
勇輝は彩から視線を外し、机にずるずると沈んでいった。
(どうしようかな……)
生徒が聞いていようがいまいが授業は始まる。
勇輝は机につっぷしながら彩から出された難問に頭を使っていた。
数式なんか頭に入りはしない。
(この辺であいつが気に入りそうな場所あるっけ?)
今まで、水族館や映画館にも行ったがお嬢様のお気に召すものはなかったのだ。
(そういやまだ遊園地行ってなかったよなぁ。そういや家になんかで当たったチケットがあったよな……家帰ったら探そ)
「春日~」
「ふぁい」
「起きなさい」
教師の目は鋭い。特に数学の教師は一度も勇輝を熟睡させたことはなかった。
「起きてまふ」
勇輝は顔を机につけたまま手だけをあげた。
「あぁ、そう」
(まぁ、授業に出てるだけよしとするか)
そう思い、数学教師は再び黒板を白く染めていった。
「もしも~し。勇輝?」
“もしもし、こちらはY。用件をどうぞ……”
“ただちに敵地に向かい奴と落ちあって……”
「おい、起きろってば!」
歩が寝ている勇輝の背中を叩いた。
「うっ」
“こちらY、被弾しました……”
「はるゆき? ご飯の時間だよ」
「う~」
勇輝は夢から現実に戻された。
顔をあげると彩と歩のデコピンが待っていた。
「う……いたい」
(こ、これが今問題の逆DV……)
「これで目が覚めたでしょ! 私お腹すいてるの!」
「うぅ……。すいません」
額を抑えながら勇輝は鞄から弁当を取り出す。
その数二つ。
「どうぞお納めください」
と勇輝はそのうちの小さい方を彩へと差し出すのであった。
そう、今は彼女の手作り弁当の時代でなく彼氏の手作り弁当の時代である。
と彩に丸め込まれ、勇輝は2つの弁当を作っているのだった。
「ほんとお前は見かけによらず料理うまいよな」
歩が勇輝のお弁当のおかずをつまみながら舌鼓を打つ。
「ほんと、お婿さんにほしいわ。家事全般出来るもんね」
彩はお弁当をほおばりながら満面の笑みだ。
「それ、家政夫の間違いじゃ……」
「気にしない気にしない」
こうして勇輝の徒労の多い日々は刻々と経って行くのだった。